おうちに帰ろう

心茲にありと

狩野派と土佐派 幕府・宮廷の絵師たち

根津美術館で開催されている「狩野派と土佐派 幕府・宮廷の絵師たち」展に行ってきました。

 

www.nezu-muse.or.jp

 

以下リーフレットより

約400年の長期にわたって日本の画壇に君臨した狩野派。その祖である狩野正信(1434?~1530)は室町時代に漢画の絵師として頭角を現し、りゅうはの礎を築きました。一方、伝統的な絵画様式であるやまと絵の流派である土佐派は、狩野正信と時を同じくして登場した土佐光信(1434?~1525)の活躍により栄華を極めました。その後、日本の画壇は狩野派が制しますが、土佐派の命脈も途切れず、江戸時代前期に宮廷の絵師として見事に復活を遂げました。
この展覧会では、当館が所蔵する狩野派と土佐派の作品を中心に、室町~江戸時代に幕府や宮廷の御用を務めた絵師たちの作品をご覧いただきます。

構成は以下となっています。

  1. 室町幕府の御用絵師たち
  2. 戦国時代を生き抜く
  3. 探幽の登場と江戸の狩野派
  4. 宮廷絵所預 ー土佐派とやまと絵の絵師たちー

 1~3で狩野派の成り立ちから江戸時代の幕府御用絵師としての仕事をとりあげ4で土佐派の作品を取り上げてます。狩野派の方がやはり展示数は多いですね。

 

1.心に残った作品

  • 四季花鳥図屏風 伝狩野元信

狩野元信の「四季花鳥図」といえば大仙院障壁画が有名でここ数年でも2016年東京国立博物館で開催された「禅 ー心をかたちにー」展2017年、2017年サントリー美術館で開催された「天下を治めた絵師 狩野元信」で展示され 、最近では「桃山展 -天下人の100年-」で元信、永徳、探幽と3代(実際には隔世ですけども)の花鳥画を見る機会もありました。(なんて贅沢な空間だったのだろう…)

元信が確立した「真体」「行体」「草体」という画体のうち「行体」で描かれた作品。大仙院の障壁画などに比べると柔らかさがあって全体的に優しいトーンのように感じました。元信は大和絵の画風も積極的に取り入れていたのでその影響なのかなと思ったりします。特にその後に展示されている狩野探幽の「両帝図屏風」の「圧」に比べるとだいぶふんわりした印象です。探幽は永徳と比べると「瀟洒な探幽」とも言われていて、実際私も先の桃山展で見たときには当時こんな感想をメモってました。

 

元信は中国絵画の影響と次の世代に繋がる花鳥画の基礎を作り永徳はダイナミックな構図で引きまれるし探幽は引き算の美学ともいうべき緻密な写生に基づく静謐な作品という個性と時代の違いが見えてとてもよかった。改めて狩野元信の後世の絵師に与える影響の大きさが見て取れて特に四季花鳥図屏風の華やかさと取り入れられた花々と鳥の競演が見事で近世以降の日本画に与えた影響の大きさを感じた。すごかったなぁ。やっぱりドラマにしてほしい。

 

(メモそのままなのでやや日本語変なのは許してください)この元信の作品は地味ではありませんが花鳥が舞い踊るというより穏やかに遊んでる感じでぱっと見「探幽かな?」と感じるような作品に見えました。とはいえよく見ると山や木々の表現には線をきっちり止めて描く狩野派らしさが随所に見られました。後半に登場する探幽の作品がむしろちょっと意外な気がしたのですが依頼に合わせて作風も少しずつ変わったのかもしれません。私は狩野派だったら元信が一番好きかなぁ。

 

  • 粟鶉図 土佐光成

 パッと見た瞬間に「琳派っぽい!」と思った作品。土坡(どは)は淡墨、鶉は写実、粟は院体画と様々な技法がミックスされているそうですが、時代的には尾形光琳と近いですがむしろもっと下った酒井抱一あたりの画風と似てるように思いました。丸みを帯びた鶉の身体に柔らかい羽毛を丁寧に描いて粟の茎は墨でまっすく描き粟は点描画のごとく緻密。鶉は琳派の抱一や其一がよく描いてたので余計そう感じたのかもしれません。というか受け継がれているのでしょうね。

 

桃山時代に当時の当主だった土佐光元が木下藤吉郎の但馬攻めに加わって(このあたりが不運)戦死したことで一度は途絶えてしまった宮廷絵預所の職に復活したのがこの作品を描いた土佐光起だそう。「土佐派中興の祖」とも言われてるそうですがなるほどとっても雅です。
幕府御用絵師の狩野派の「圧」の強い感じに比べるとよく言えば品がよい、悪く言うとお高く止まってるという感じ。でもそういうところがお公家さまたちには好かれたのかもしれません。私は好きでした。
歌が書かれている和紙の地模様が素敵だった。

 

2.全体を通しての感想

狩野派はここのところ足立区郷土博物館で狩野探信守政の屏風絵や晴川院養信の絵画や粉本類を見たり、トーハクで木挽町狩野派特集があったり昨年の桃山展も含めると次々来るなという感じ。去年コロナ禍前の最後に見たのも出光美術館の「狩野派 画壇を制した眼と手」だったしなんだかんだ年中目にする機会が多くやはり人気がありますね。

長く続いているからたくさん残っているというのもあるでしょうし。それに比べると土佐派は控え目。やはり数の理論で負けるのか。私自身も土佐派と言われてこれ!という作品はパッと出てきません。狩野派に押されて衰退した印象だったのですが今回見てみて、お、結構好きかもってなりました。琳派に繋がる要素がすごく多いのですね。
土佐派が復活した土佐光起が俵屋宗達の時代が少し重なるので当時京都で人気だった俵屋の画風に少し影響受けたりしたのかなぁと勝手に想像してみたり。
やまと絵の優美な色使いがとても素敵だなぁと思いました。
狩野派は幕府御用絵師という立場もあってとにかく立派なものを、先人たちの絵から修練を重ねてお殿様の要望に合わせて描かなければならない縛りがあってその中で自分の色を出すことの難しさを感じました。
今回、狩野派が鑑定したお墨付きの札が展示してあったのですけど恭しくこういうものを書くのは権威もあるけどプレッシャーだろうなぁと。

正信、元信までは将軍に引き立てられて画風を模索しながら確立していく過程なので試行錯誤しながら開放的な部分もありますが(正信が師事した小栗宗湛や周文の作品が見られたのはよかった。原点という感じがしました)元信の孫の永徳がちょっと他の絵師たちとは方向性が違いとにかく大きくダイナミックに!という志向でそこだけ全く別世界なんですよね。今回永徳の作品は展示がありませんが(元々焼失してしまい残っているものが少ないこともあり)永徳がない方が流れが繋がっているように見えます。というか永徳は信長に取りつかれちゃったのかなぁ。その後秀吉にも引き立てられて秀吉から依頼された檜図屏風の完成と同時?くらいに急死してしまうのもどこか常人ならざる力のせいという気がしてしまいますね。


もちろん永徳も祖父にあたる元信の絵を真似て描いてますがやはり檜図屏風と唐獅子図屏風あたりは全くそれまでの流れをぶったぎるような作品でこれの後に続くのはそりゃ無理ってことでしょう。
むしろ長谷川等伯が同じような構図の作品を描いているのでこの二人が傑出してたってことなんでしょうかねぇ。天才は同時期に現れるんですよね。ミケランジェロとレオナルドダヴィンチやメッシやクリロナみたいに。
永徳のあと後継者探しに苦労するのはそういうことかな。
その後探幽が登場するまでが狩野派の空白期間のように思えて、長谷川等伯も才能があった息子の久蔵が早くに亡くなり影が薄くなっていったことを考えると代々続けていくって難しいことなんだなぁと思います。
その空白期間を埋めるように登場したのが俵屋宗達なのかなぁという気がしました。

 

探幽は永徳の大画様式は受け継がず元信から連なる狩野派の基本から時代に合わせた作風に変わっていったように思います。

絵の好みはおいといて室町時代から幕末まで途絶えることなく続き江戸に入ってからは学習システムも作り上げ木挽町、中橋、鍜治橋、浜町と分派して広がり表絵師、町狩野と絵師を供給し続ける土台になったことはすごいと思います。江戸に入ってからだって260年ですもん。そんなの外にあります??
明治維新でそれが解体されちゃったのはもったいないなぁと思います。
狩野派が今の文化庁、芸大の役割に変わっていったってことなんですよね。
ただ一度日本美術というものをリセットしちゃったので海外に多数流出してしまったのがほんとに残念。まぁ海外にあった方が大切に扱われてるかもしれませんが。

そんなことをつらつら思っておりました。

 

3.その他の展示から

 

根津美術館の季節ものの展示コーナーがお雛様の茶会になってて柴田是真の雛図の掛け軸が可愛らしかった。
あとお伽草子の絵巻物の得も言われぬヘタウマな絵が堪らんかったです。
双羊尊は相変わらずキュートでした。

 

人気の庭園にはまだ色が寂しく僅かに梅が咲いてました。有名なカキツバタが見頃になるのは1ヶ月以上先ですね。昨年は緊急事態宣言で休園してたので見られませんでしたが今年は見れるといいな。

 

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ひっそりと咲いていた梅。庭園は人も少なくひんやりしていました。

 

美が、摺り重なるー 吉田博展

いやーよかったです!
ずっと気になってた吉田博。2017年に千葉市美術館で開催された回顧展には行けず日曜美術館などで取り上げられるたびに「うーん行けばよかった」と思っていた吉田博展にようやく行けました。

yoshida-exhn.jp

 

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お馴染みの東京都美術館のガラス窓


テレビや写真で見てても綺麗だなぁと思ってましたが実物は想像以上!!特に影の表現が多彩で山に落ちる雲の影や水面に映る船の影など色の濃さ、対象物の輪郭の揺れなど多種多様。「山と水の作家」とも言われているのも納得です。
同じ版画でも浮世絵などの伝統的な日本版画はだいたい10数摺り程度らしいのですが吉田博の作品へ平均で30摺り、今回展示されていた「陽明門」では98摺り!!と格段に摺る回数が桁違い。加えて通常は絵師、彫師、摺師と分業体制で製作するところ自分で彫師、摺師を雇い入れ、自宅で自分が指導し時には自ら摺り上げていたそうです。作品のマージンに「自摺」と記名があるのはそういう作品だそう。

展示の構成は以下の通り

  • プロローグ
  • 第1章 それはアメリカから始まった
  • 第2章 奇跡の1926年
  • 第3章 特大版への挑戦
  • 第4章 富士を描く
  • 第5章 東京を描く
  • 第6章 親密な景色:人や花鳥へのまなざし
  • 第7章 日本各地の風景Ⅰ
  • 第8章 印度と東南アジア
  • 第9章 日本各地の風景Ⅱ
  • 第10章 外堀を描く、大陸を描く
  • 第11章 日本各地の風景Ⅲ
  • エピローグ

かなり細かく分けられています。それくらい多彩な作品を残しているということでしょう。

 

1.心に残った作品

  • 帆船シリーズ 朝、午前、午後、霧、夕、夜 

 同じ版木から摺を変えて製作した一連の帆船は1枚の版木が元になっているとは思えないぐらい多彩な顔を見せていて見惚れます。朝日が昇り始めた頃のぼんやりとした明るさ、太陽が昇り切ったあとの透明感のある空、霧がかかった全体にほの暗い水墨画のような色合い、背景に灯が見える夜、とそれぞれ色のぼかし方が全部違ってて美しかったです。

  • 雲井桜

版画としては破格の大きさの長辺が70cmを超える特大版の版画作品のうちの一枚。なんでもある山桜の希少な一本が伐かれ売りに出されるのを知った画家が特大版の制作を構想したんだとか。知らなかったのですが伝統的な版画は湿らせた和紙に色を摺り重ねていくため濡れたら伸びる乾いたら縮むという紙の特性を計算して色を合わせていくらしいのですが、特注の版木のためこれまでの勘どころが使えず色が合わずに苦労したらしいです。へぇええーーと勉強になりました。この作品でも桜の花と枝の位置がなかなか合わず二人がかりで絵を摺りあげたとのこと。作品は繊細な桜の花と春らしい霞がかかったような空気を感じ春の香りが絵から漂ってくるような不思議な作品でした。

 

  • フワテプールシクリ 印度と東南アジア

「旅の作家」とも言われ世界一周し世界百景の制作を目指していたらしい作家が印度と東南アジアを題材に描いたシリーズの中で一番好きな作品でした。山や川や空ではなくイスラム寺院の内部を描いた作品で外の暑さと対照的なひんやりとした寺院の静謐さが伝わり繊細なアラベスク文様に象られた窓から入る光が幻想的な一枚です。めちゃくちゃ好き。版画でこんなに微妙な色分けができるのすごすぎる。

 

2.全体を通しての感想

先に挙げた3点以外にも気になる作品はたくさん。
章立てがかなり細かく分かれています。
吉田博の画家人生は17歳頃から始まっていますが版画を手掛け始めたの新版画の版元渡邊庄三郎と出会った44歳の頃から。それまでは水彩画や油彩画を描いていてアメリカで展覧会を開いて成功もしていました。
本格的に版画制作に取り組み始めたのは関東大震災で渡邊の元で制作した版木や版画がすべて焼失し被災した吉田が所属していた太平洋画会の仲間の困窮を救うため800点もの作品を携えて渡米した際に油彩画は全く売れずた渡邊から託された木版画が好評だったことがきっかけだったそうです。
当時のアメリカでは浮世絵が人気で吉田の目から見た粗悪に見えるような作品でも高値で取引されていてそれを見て「もっと素晴らしい作品を作ってやる」と思ったらしいです。
それまで培った油彩画や水彩画の技術と日本伝統の版画製法を発展させた独自の作品を生み出していったようです。
プロローグに展示してあった水彩や油彩の作品も素敵なのですがたぶんこのままだったら今ほど人気のある作家にはなっていなかったのでしょうか。いや個人的な感想ですけども。それくらい版画が魅力的でした。
油彩で描かれた「渓流」と同じ主題の作品を特大版画で描いてるのですが絵のサイズは油彩の方が大きいにも関わらずインパクトは特大版画の「渓流」の方が遥かに大きかったのです。
同じ図柄なのに砕ける波によりフォーカスが当たっていて波の渦まで細かい襞で描かれていて水しぶきが画面から飛んでくるような迫力でした。

何十も摺を重ねて色彩のグラデーションが美しい作品の中で異色な作品として「中里之雪」があります。白と黒だけで摺り上げられた水墨画のような作品。
降りしきる雪の白と建物と木々の黒の濃淡の色合いが絶妙でこんなに繊細な雪を版画で表現するってどうなってんだろ??って思いました。

 

また動物画のシリーズでは色を表現するだけでなく「空摺り」と言われる技法であえて色をつけずに摺ることで鳥の羽のふくらみを表したりと技術も多彩。楽しいです。

 

山を描いたシリーズはどれをとっても素敵。コバルトってこういう色のことを言うんだなという何色と断定できない微妙な色使いがほんとに素晴らしいです。

 

印度と東南アジアのシリーズはタージ・マハルを朝、昼、夜、月の夜と描き分けていてアグラで満月を迎えられるように日程を組んでいたそう。幻想的な月の中のタージ・マハルはこんな景色を見てみたいと思う美しさでした。

 

版木も2枚展示されていて「主版」という輪郭線を摺るためのものと「色版」という色を重ねるための版木がありそれぞれ彫り方が違っていてその版木から作成された作品と並んで展示されており何度も見比べましたが全くどうやって出来上がるのか想像つきませんでした。すごい。

 

写生帖に至ってはこれ写生なの?独立した作品といってもいいのでは?というレベルで描き込まれていて速筆だったらしいのですが旅先で短時間で描きあげてるとは思えないくらいの仕上がりでした。これを元にいくつもの版画を作成するのですね。すごいなぁ。とにかく質と量とどちらにも打ちのめされる展覧会でした。

 

3.おまけ

せっかくなので黒田記念館にも行って黒田清輝の絵も見てきました。
吉田博が「あんな下手くそな絵を描くやつが国費でフランス行きやがって。だったら俺はアメリカだ!」ということでアメリカ行ったらしくその後も黒田清輝とは衝突して日本美術会を飛び出し太平洋画会を設立するなどいろいろと因縁のある人。黒田清輝は教科書で見たことあるしトーハクにもたびたび登場するので目にはしたことありますがふーんという印象。改めて見てみてもやっぱりふーん、でした。ふーん。
建物は素敵でした。

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黒田清輝記念館の外観。全然関係ありませんがドラマ「掟上今日子の備忘録」で今日子さんが下宿している喫茶店にあるビルがこちらの外観を使っています。

続けて吉田博の油彩画「精華」が展示されているというのでトーハクにも寄りました。2頭のライオンと裸体の女性が描かれています。これは当時の背景を考えるといろいろな推測ができるそうです。私にはよくわからないのですが版画を制作してくれてよかったなぁと思いました。やはり絵は上手いです。

 

おまけのおまけですが同じ部屋に河鍋暁斎の特大の龍頭観音像がありダイナミックな太い線で描かれた観音様は大迫力でした。

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巨大な水墨画です。龍の顔がお茶目

また先週千葉市美術館で見て印象に残った松林桂月の屏風絵もあってよかった。水墨画ではなくかなりカラフルな作品でしたがきっちりした線で描かれているところが同じ人なんだなと思いました。輪郭くっきり。


今村紫紅のふざけた風神雷神もよかった。

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脱力系風神雷神


そして天下五剣のひとつ童子切安綱も見てきたよー!大包平!早く顕現するといいね!

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堂々たるお姿。それにしてもトーハクさんは大包平も所蔵してるのに並べてはくれないのね。並んだことはあるのかな。

先週も行ったのに結局最後はトーハクに寄ってしまう。年パス持ってるあるある。


次に行くのは「博物館でお花見を」かなー?

 

田中一村展ー千葉市美術館所蔵全作品

またもや最終日に滑り込み。
千葉市美術館で開催されていた「田中一村展」に昨年7月に同美術館がリニューアルされてから初めて行きました。

 

www.ccma-net.jp

 

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柱も立派な建物です。どーん!

以前から楽しい展覧会も多く1F ホールも趣があって素敵な美術館。

 

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1Fサヤ堂ホール。各種イベントが開催されるようです。以前は閉鎖されてました。


同じ建物内にあった千葉市中央区役所が移転したため今までは展示室の横の限られたスペースにあったミュージアムショップが広々と1Fにオープン。元々狭いながらも充実の品揃えで毎回何かしら買ってしまうショップだったのですが広くなって関連グッズ以外にも文具類なども豊富となり絵本の取り扱いもあってますます楽しい空間になってました。

 

美術館から14:00過ぎが空いてますという案内が出ていたので到着時刻をそのくらいに合わせて出発。しかし到着すると少し待機列が。エレベーターで展示会場のある7F まで上がらないとならないのですがソーシャルディスタンスを保って乗車が必要なため一回に乗れる人数に限度があることの影響でしょうか。同時開催していた「ブラチスラバ世界絵本原画展」と両方入場できるチケットが1000円、田中一村展のみだと600円のチケットが販売されており時間があれば両方見たかったのですが入場時が14:30くらいで常設展も見たいし帰りの時間を考えると両方は無理だなとブラチスラバは残念ながら見送り、田中一村展のみとしました。

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エレベーターの扉も一村仕様

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展示室の入口前

展示構成は
第一章 若き南画家の活躍
第二章 昭和初期の新展開
第三章 千葉へ
第四章 「一村」誕生 心機一転の戦後
第五章 奄美へ アダンへの道
最後にこれまで開催された展示会ポスターや図録が展示されたアーカイブコーナーとなっていました。

 

1.印象に残った作品

  • 「アダンの海」

今展覧会のアイコンになっている作品。田中一村といえばこれ!という作品ですがそこに至るまでの道筋を見ると動植物に対する眼差しと自然の中で開放された精神と技術がすべてぴったり重なって作品として結晶したのだなと思います。全体にキラキラと光っているのは胡粉を混ぜているのでしょうか。砂一粒一粒の描き込みやさざ波がたつ海面の緻密と対比するようなアダンの葉のダイナミックさと立ち上る雲の雄大さが一目見たら忘れられない1枚だと思います。

  • 「椿図屏風(二曲一双)」

金箔地に白と赤の椿を片面一双いっぱいに描きもう片面は無地の金箔のみという大胆な構図で速水御舟の「名樹散椿」を思い出しましたが片面金箔のみはあまり見たことがないですね。全くムラのない金箔の塗り込みとマットな椿の色合いが美しくて中央画壇で認められたい野心も見える大作です。こんな作品も製作してたのですね。知らなかった。

  • 「牡丹菊図帯」

絵画だけではなく帯や日傘や皿などの工芸作品のデザインもしていたの知らなかったです。展示されてる名古屋帯は3点ありましたが早い年代の「竹に蘭図帯」は空間が少し多めで少し渋めなんですが年代が下るとカラフルでポップになってました。洋服感覚で着られそうなデザインがとても素敵。

 

2.全体を通しての感想

田中一村というと奄美で製作された鮮やかな色彩で南国の動植物を描いた作品の印象が強かったのですが今回は千葉で過ごした20年間に製作した作品を中心に10代のころに描いたものや中央画壇に認められるために模索してた頃の作品など奄美にたどり着くまでの過程を追う展示内容だったので全く知らない作品が多く驚くことが多かったです。
特に12歳のころに書かれたという「つゆ草にコオロギ」などは伸びやかなかにもしっかりとした作風が確立されていて早熟だったのだなーと感心することしきり。その後の10代の南画風の水墨画はダイナミックな構図と躍動感のある筆致でとても心に残りました。色味は少ないのですがポイントで使われているオレンジや赤が利いていて植物の葉や草や茎の描き方にのちの奄美の作品に繋がる目線が感じられてこの頃から描きたいものの志向性の芽生えていたのかなぁと思ったりしました。

千葉に来てからの作品はダイナミックさよりも抒情性が強くなり千葉寺を描いたシリーズや農村風景を描いた作品など穏やかな風景画が多かったです。そんな中十六羅漢図はちょっと異質でしたけど技術の高さが伺える作品でした。

戦後になると様々な依頼を受けながらいろいろな作品を残しており中でも軍鶏がお気に入りだったようで軍鶏の絵のシリーズがたくさんありました。一村の描いた軍鶏は首が長くスマートで飼ってた軍鶏が細身だったのかしら?などと思いました。繊細な羽や脚の描き方には着々とアダンへの道に続いているように思います。

最後のコーナーに「アダンの海辺」がありますが取り囲むように奄美の景色を描いた小品が並んでいて一村が様々な作風を経て辿り着いた奄美での生活を感じられるような構成でした。

奄美時代以外の多彩な作品を見ることができてとてもよかったです。
やっぱり一人の画家だけで構成された展覧会は深く知ることができてよいですね。駆け込みでしたが来てよかったです。

 

3.その他の展示について

  • 常設展

常設展では所蔵品の中から一村に所縁のある日本画家の作品の展示もあり東山魁夷東京芸大で同期だったのだとか。(一村は1年で自主退学してますが)
その中で松林桂月の「春宵花影」という水墨画がとても美しく初めて見た作品だったのですがとても好きでした。詩・書・画いずれも優れており文人画ー南画を一貫して作成していたそうです。近代の水墨画の神髄という感じがしました。見れてよかった。

その他「恋・愛・LOVE」というテーマで豊富な浮世絵コレクションから岩佐又兵衛や川又常行、渓斎英泉の肉筆画が見られたのもよかった。このあたりは「筆魂」との関連もあるのかなぁ。渓斎英泉の「小督図」は平家物語所縁の作品でドラマ「平清盛」好きとしてはちょっとわくわくしました。清盛の娘徳子が正妻となった高倉天皇の寵愛を受けた小督(白拍子祇王)が身を隠しているところを高倉天皇の使いである源仲国が見つける場面が描かれてます。その翌日、BS11で放送されてる「京都浪漫」で嵐山・嵯峨野特集でこの逸話が紹介されていてタイムリーでした。

 

また1Fのサヤ堂ホールで開催されていたデジタルミュージアム

https://www.ntt-east.co.jp/pr/hokusai-hasyo/chiba/

 

で高精細のデジタル画で再現されていた三代目歌川豊国の「二代目尾上菊次郎 滝夜叉姫」は刷りの状態がとてもよく色鮮やかでハッとしました。

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こちらは本物です。デジタルでも同じくらいの鮮明さでした

このデジタルミュージアム、なかなか楽しくて非接触型の画面でホログラムのように浮かび上がった画像に指をかざすと反応して大型の液晶ビジョンに見たいものが表示されるというなかなか近未来な仕掛けで様々な角度から浮世絵を見ることができて面白かったです。ペッパーくんにも話しかけられました。

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ペッパーくんも着物を着ています。近くに立っているとそこのあなた!と話しかけられました

サヤ堂ホールが開放されてこういうイベントが開催されるのはよいですね。なぜここが今まで使われなかったのかなというくらい素敵な空間なので活用されるようになったのは嬉しい限りです。

 

行きやすい場所ではないのですが所蔵作品も豊富で企画展も毎回充実しておりミュージアムショップの品揃えもよいので頑張っていく甲斐がある美術館。次はどんな企画展が見られるのかな~楽しみにしたいと思います。

 

4.おまけ

  • 今日のお買い物

今日は展示されてませんでしたが千葉市美術館所蔵で先日アーティゾン美術館の「琳派印象派展」前期に展示されていた鈴木其一の芒野図屏風のクリアファイルがあったので迷わず購入。一村のポストカード4枚とともに。

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クリアすぎて背景と同化しているクリアファイル
  • 一村作品との出会い 

 10年以上前に奄美大島に訪れた際に空港の売店で見かけたこちらのお土産用の複製画。これが初めて見た田中一村の作品でした。部屋に長らく飾ってあったのでだいぶ色褪せてますが一目惚れして買いました。見つけたのが帰りの便を待っているときだったので田中一村美術館には行けなかったのですがそれ以来ずっと気になっている画家のひとりだったので今回作品を辿れてとてもよかったです。

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買ったときはもっと色鮮やかでした

 

トーハクで梅見

あっという間に2月も終わりに近づき、梅が見頃のはずのトーハクこと東京国立博物館に行かねば―ということで行ってきました。

去年の緊急事態宣言下で休館している間に期限が切れてしまった年間パスもやっと更新。また休館するかもしれないなーと思ってしばらく更新を見送ってたのですが今回の緊急事態宣言では休館せず夜間開放のみ中止という措置だったのでそろそろ大丈夫かなということでやっと新しくしてきました。実は期限を90日延ばせる措置もあったようなのだけどすっかり見落としてた。

 

今は企画展も開催されてない日常のトーハクなのでとーってものんびり。あまり時間がなかったので見たい展示だけ絞って鑑賞。年間パス持ってるとまた来ればいっか、となってあくせく見なくていいので気持ちが楽。
今日は先週足立区立郷土博物館で狩野派粉本を見てきたのでトーハクがここぞとばかりに出してきた「特集 木挽町狩野家の記録と学習」を中心に鑑賞。

 

www.tnm.jp

先週見たのは木挽町狩野家の画系にあたる町狩野の高田円乗に師事した人物がいるという掃部新田を開発した石出家に伝わる狩野常信の絵を模写した粉本で本流にあたる奥絵師木挽町狩野家に伝わるものではなく派生して各所に伝わっていたもの。

トーハクが所持しているのはお歴々の名前が記された粉本類です。大名から「こんな絵がほしいんだけど」と注文があったときにどれを参考にして書こうかなーと引っ張りだして製作したらしいのでこれがたくさんあればあるだけ引き出しも増えて要望にも答えられるというもの。作家性みたいなものは注文主からの依頼を完璧にこなした上で乗せるものなので個性を出すのはなかなか難しいでしょうね。それでも長谷川派などは等伯亡き後は風俗画などに道を見出した弟子たちがいたようですがまとまった流派としては途絶えてしまったことを考えると粉本主義を批判されても江戸時代を通して存続させ町狩野という存在まで含めれば相当な絵師たちに影響を与えた狩野派のシステムは画期的なんだと思います。

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先週の足立区立郷土博物館に展示してあった狩野派ヒエラルキーの図

今回展示されてる粉本は最上位にある奥絵師木挽町狩野家に伝わるもの

北斎国芳暁斎も一度は狩野派を通ってますしね。

一番印象に残ったのは雪舟の山水図巻の模本と牧谿の瀟湘八景の模本です。やっぱり雪舟牧谿は人気があったんだなぁ。そしてと微妙に手クセが出てるのも微笑ましいというか当然というか。

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別の部屋に本家伝雪舟等楊の梅下寿老図がありました。彩色の雪舟は貴重かも

その他、今回は文人画が多く展示されてて特に池大雅の国宝「楼閣山水図屏風」がとてもよかったです。伊藤若冲と同時代なのでちょうど群青が使われ始めた頃でもあり金箔の屏風に装束や山際など要所要所にピンポイントで使われている青が効果的で抑えた華やかさを演出してました。池大雅の六曲一双の金屏風はあまり印象になかったのですがすごく素敵でした。

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青と朱が効果的です

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同じく群青がポイントになってます


写真NGだったのですが田能村竹田の作品は文人画らしい伸びやかな素朴さの中に細やかな表現があって好きだなぁ。

浮世絵コーナーでは宮川長春の風俗図巻が見られて嬉しかったです。先日のすみだ北斎美術館で見てきた筆魂展は美人画でしたがこちらは宴会や花見をしている人々が大量に描かれててとにかく着物の柄がもう!素敵!お顔も綺麗だし背景に登場する屏風絵は狩野派風で贅沢な一品。版画をやらずに肉筆画を貫き通した宮川長春の良さがたっぷり詰まった逸品でした。見られてよかったー。

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狩野派風の梅が背景に

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屏風絵が狩野派

あと長谷川等伯原画の伝名和長年像の模本もあってこれ長谷川等伯の画集で見たことある絵だ!ってなりました。

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長谷川等伯原画の模本。筆者不詳だそう

 

他にも高円宮コレクションの根付でお雛様を見たり表慶館裏手の紅梅白梅を堪能しました。滞在時間は1時間強くらいでしたがいい時間でした。

 

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高円宮根付コレクションは季節に合わせて展示が細かく変わるのが楽しい。こちらはお雛様

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歌川広重の亀戸梅屋舗を意識してみた構図。いやほど遠いわ

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黒門越しの白梅

 

名家のかがやきー狩野家の粉本、渡辺省亭など

狩野派の粉本と狩野探信守政の世界にも10点しかないという屏風絵と渡辺省亭目当てで

文化遺産調査特別展 名家のかがやき@足立区郷土博物館

www.city.adachi.tokyo.jp

 

に行ってきました。

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蔵のようなデザインの建物です

江戸から明治にかけて発展した足立区内の名家に伝わる芸術品を丁寧な解説とともに展示されてます。知らなかったのだけど第2、3土曜日は入場無料だそうでしかも全部写真OKという太っ腹。タダで見るには勿体ないくらい充実してました。

 

作品だけじゃなくて日本美術史家の安村敏信氏と足立区郷土博物館の方との対談が江戸時代の狩野派の活動や奥絵師、表絵師、町狩野の違いなどかなり詳しく説明されててとても面白かったです。幕府お抱えの奥絵師は今でいう国家公務員のような存在で年俸も決まってて江戸城に絵師用の作業部屋もあってそこに通って仕事をする人。表絵師は江戸城には上らないけど大規模なプロジェクトになると呼ばれる職人だとか。町狩野はいわゆる俗称で実態はよくわかっていないそうで狩野派に学んで町で仕事をしていた絵師をそう呼んでいたのではと考えられてるそうです。

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3枚続きのパネルに記載された対談

読み込んでしまいました。

狩野探信守政の「西王母・東方朔図屏風」は濱田家に伝わる屏風絵で六曲一双という大きさから元々は大名家に収めたものが明治期に大名が手放し濱田家に渡ってきたものらしいです。

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左双

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右双


狩野探信守政は狩野探幽の三男で家綱、綱吉に仕えていたとのこと。先ほどの対談の中でも明治期に幕藩体制が崩壊した際にかなりの大名が所持していた美術品を手放して海外に渡った作品も多く狩野派の作品などはボストン美術館などの方が体系的に揃っているそう。アメリカ人は作品一つ一つを見て購入するのではなく「狩野派」という単位でグロスで買っていくそうでまとまった数が海外に渡ってるらしいです。
ほんとは去年ボストン美術館館展で多くの日本美術の作品が里帰りするはずだったんですよねー

www.tobikan.jp

残念ながらコロナ禍で作品を運搬することが困難となり中止となってしまいましたがまたいつか状況が落ち着いたらぜひ実現してほしいものです。

こちらの屏風絵は狩野光信(永徳の息子)も同じ題材で描いてますが作風はだいぶ違います。

bijutsutecho.com

探信守政の方が柔らかみがあり背景の金箔の使い方も控え目。江戸期に入ってからはあまり金ピカなのは好まれなかったのかなと思います。探幽の渋みと狩野派伝統の山の稜線や木々のしっかりした描き方が受け継がれ着物の柄の細やかさに江戸っぽさが感じられて伝統性と時代性を感じる作品だなぁと思います。

 

濱田家は現在の埼玉県杉戸に当たる宮内村の豪農で明治20~30年頃に日本美術院の画家たちと交流があり中でも多く葉書のやりとりをしていたのが渡辺省亭だそうで今回も2作品展示されていました。
渡辺省亭は3月に大規模回顧展が予定されてて今から楽しみなのですが

seitei2021.jp

鶏を描いた二曲一双の屏風絵と絹本著色の猛禽図。渡辺省亭はそれまでの日本画の表現とは全然違っていきなり浮世絵でもなく西洋美術でもない唯一無二の作風の絵師で数年前に初めて作品を見たときに色の鮮やかさと濃淡の描き分けの繊細さと動物の表情の可愛らしさに惹きつけられて一気に好きになりました。今回の猛禽図も小鳥を啄むなかなか獰猛な鷹なのに目がくりくりと愛らしくそのギャップが堪らん…!ってなりました。

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渡辺省亭「群鶏図屏風」映り込みがキツイですが…伝われー

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渡辺省亭「猛禽図」目は丸っこくてかわいいのにむしゃむしゃと小鳥を喰らうギャップよ…

石出家に伝わる狩野派粉本は初代木挽町狩野家の常信の絵を参考に描かれた唐獅子や龍といった霊獣から象やラクダなどの大陸の動物から狸や猫といった身近な動物まで29種53体を描いた全長8メートルもある巻物や六曲一双の白梅図の粉本など永徳の時代から受け継がれた表現が見られるものが残っており、この粉本を引き継いでいくことが狩野派が明治まで影響力を持ち続けた由縁なのだなぁと思いました。真似るにも技術が必要ですしね。

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百獣図粉本

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百獣図粉本続き これが延々8メートル!


石出家になぜ狩野派の粉本が伝わったのかというと石出家の中に町狩野として活躍していた高田円乗に師事した人物がいたのだとか。裾野が広いなあと思いますね。

面白かったのは日比谷家に伝わる「和漢流書図」という二幅の絵で右幅に宋・元時代の中国の画家、左幅に室町時代以降の日本の画家を作風を真似て10コマ描いてる作品で描いたのは鈴木鵞湖という絵師。

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こちらが日本の絵師の10作品

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こちらが宋・元時代の10作品


どういう目的で描いたんだろう?と思ったら詩画を学ぶ志のあった日比谷健次郎(北辰一刀流の道場を開いたとか)の依頼で描かれたらしいです。教材ってことですね。全員の作品を手元におけるわけではないから知ってる人に描いてもらいながらお勉強したんですかね。写真がない時代の伝承方法なんだろうなぁ。

 

その他戦国時代の戦うための甲冑ではなく守りのための立派な設えの甲冑具足などもあり当時の豪商・豪農の蔵にはえらいもんがあるんですね。

 

実はまだまだいろいろな旧家の蔵に眠るお宝は多いのだそう。文化遺産発掘プロジェクトがもっと進むといいなぁと思います。

 

見終わった後は併設されてる日本庭園でのんびり。梅も咲き始めてて素敵な空間でした。天気もよかったしいい1日でした。

 

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晴天に梅が映えますね

 

筆魂 線の引力・色の魔力 又兵衛から北斎・国芳まで

2/9からすみだ北斎美術館で開幕した

http:// https://hokusai-museum.jp/modules/Exhibition/exhibitions/view/1461

こちらの展覧会に行ってきました。先日静嘉堂文庫でも肉筆浮世絵を見てきましたが版画にはない色合いと筆致に改めて魅了され、今回肉筆画だけを集めた展覧会でしかも初公開作品も多くなんといっても岩佐又兵衛の作品が複数点展示されてるとあって最近ではめずらしく開幕直後に行ってきました。

 

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そしてほんとに素晴らしかったです。

 

入ってすぐ岩佐又兵衛の「金谷屏風」の一部や「和漢故事説話 浮舟」「本間孫四郎遠矢図」が並びいきなり気圧される勢いでした。江戸初期の「遊楽図」や「紅葉狩り図」などの風俗画から寛文美人図を経て浮世絵が確立した歴史をなぞりながら菱川師宣や懐月堂安度、松野親信、宮川長春が並ぶ構成はわかりやすくてよかったです。宮川長春の上品な美人画が大好きなのですが並べてみると菱川師宣や懐月堂安度からの影響が色濃いのがよくわかりますね。師宣からは着物の柄のデザイン性、懐月堂安度からは美しい女性の表情あたりを取り入れてるような気がします。

 

余談ですが宮川長春は狩野春湖に師事していたことがあるそうですがその後狩野派とはもめてるみたいでした。

 

宮川長春と狩野春賀との諍い

https://plaza.rakuten.co.jp/rvt55/diary/200909290000/

 

昨年開催された出光美術館の「狩野派 -画壇を制した眼と手」

serai.jp

では絵を描くだけではなく鑑定だったり指導だったりと大きな役割を担っていたようですが「壇」と名前がつくようになると争いごとも増えてくるのでしょうね。実際には当時狩野派が鑑定したものが後世別の絵師の作品だったりすることもあったようでいいことばかりじゃないのでしょうね。

 

以上余談でした。

 

続けて奥村政信、鳥居清長、磯田湖龍斎、勝川春章と浮世絵の繁栄を築いた絵師の作品が続き特に勝川春章は晩年には錦絵より肉筆画に力を入れていた絵師なので肉筆ならではの筆遣いや色彩が見事です。特に細かな髪の毛の表現や鮮やかな着物の色などはこのあとに続く葛飾北斎喜多川歌麿にも引き継がれていると思います。

 

また上方浮世絵のコーナーもあり西川祐信の作品も多数展示されてたり祇園井特といった私は初めて見る絵師の作品が印象的でした。江戸の美人画とは全然違う美人大首絵で江戸の美人画は理想的な顔を表現し上方は実際にいそうな顔の美人画といった感じでしょうか。円山応挙の写生理念にも通じると図録にあったのですが確かに肌の色の表現などは応挙を彷彿とさせました。面白いものですね。

 

そしていよいよ喜多川歌麿の登場。もうー好き!「夏姿美人図」はやや渋めの色調で黒に青い格子模様、水色の襦袢に緑の帯といった組合せが手鏡を見て化粧を直す仕草のほんのりとした色香が堪りません。背後にさりげなく映る衝立と無造作にかけられた手ぬぐい、女性の日常をのぞき見しているようなちょっとしたドキドキ感もあってあえて作った隙が素敵なんですよね。あー大好き。

 

最後は葛飾派と歌川派で葛飾北斎と歌川豊春、豊国、国貞、広重、国芳と続く歌川派の作品がずらり。葛飾派といっても北斎が飛びぬけて有名で弟子はいても歌川派のバラエティの豊富さにはちょっと及ばないような。いやまぁ北斎一人で十分ではありますが。

白眉は今回初公開となった葛飾北斎の「合鏡美人図」でしょうか。北斎美人画以外の作品が多すぎて美人画の印象は薄く、見ても「ふーん」と思うことが多いのですがこの「合鏡美人図」は見事でした。「ふーん」なんてすいません。歌麿などに比べると着物の線が狩野派の花鳥図を思わせるような輪郭で柔らかさはないのですが着物の透け感の表現や女性の姿勢やピンクがかかった肌の色など絵としての完成度はとても高いと思いました。やっぱり北斎はすごいなぁ。

あと勝川派の絵師と北斎の6人で描いた「青楼美人繁盛図」も初出とのことですが勝川派を飛び出したと言われる北斎が一緒に作品を創作しているというのが面白いですね。ちょっと遠慮がちに見えるところがご愛敬。それでも一番手前の女性を描いてるということは仲が悪かったわけではないのかな。

 

開催場所がすみだ北斎美術館だけあって北斎の作品は扇絵のような小品や登龍図のような迫力ある作品までバラエティに富んでて楽しかったです。

 

後期はまたガラッと展示替えするようなのでまた行きたいと思います。

 

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こちらは米国フリーア美術館所蔵の北斎作「琵琶に白蛇図」の高精細複製画です。最近はこの技術が寺社の襖絵や屏風絵の展示に使われているようですね。

 

江戸のエナジー 風俗画と浮世絵

静嘉堂文庫美術館の「江戸のエナジー 風俗画と浮世絵」展(2/7終了)に行ってきました。静嘉堂文庫は4年ぶりの来訪です。

 

前回行ったのは「超・日本刀入門」展のときで

 当時はまだ刀剣乱舞のこともよく知らず最近刀が人気なんだなぁーってくらいしかわかってなくてお目当ては平治物語絵巻でした。その時に知らないなりにしげしげと眺めてわからないなりに見てたものはどこかに残ってると信じてるので(今がわかってるとは言ってない)見ておいてよかったなぁと思ったりしています。

 

今回は浮世絵の中でも肉筆画が多く展示されているということで二子玉川駅からバスで10分という東京の東側に住んでる人間にとっては最果てとも思えるような場所まで行ってきました。(向こうもこちらに来るときは同じ感覚なんでしょうが)

 

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バス停降りてすぐに出ている案内板です

 

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この表示が出ている雑木林の中の緩い上り坂を5~6分歩きます


展示スペースはこじんまりとしているのですが内容は充実。まず入口入ってすぐに円山応挙の「江口君図」と英一蝶の「朝暾曳馬図」(ちょうとんえいばず)が並んで展示されてます。

「朝暾曳馬図」はのんびりとした風情がちょっとアジア的で遊び人らしい英一蝶抜け感のある作品でした。隣の円山応挙の「江口君図」はとにかく美しい!!白い象に腰かけた江口君に見立てた遊女のスッとした表情といい着物の柄といい一切隙がありません。象の目元も涼やかでこんな美人な象はなかなかお目にかかれません。ほれぼれ。

 

中に入ると菱川師宣の十二ヶ月風俗図巻があり展示されてるのは3月のお雛様のあたり。小さい人形の着物の柄まで丁寧に描かれてて女性たちの姿勢や着物の柄も見返り美人図を思わせる構図だったりと随所にらしさが見えました。洗濯して干してある着物も全部違う柄で描かれてたり当時のファッション誌のような役割だったのかなぁと思います。

四条河原図屏風、歌舞伎図屏風では京都、上野隅田川図屏風では江戸の町の様子が描かれてますが江戸前期だと京都の方がだいぶ賑やかで江戸はまだまだ開発途中で郊外にはまだ野原が広がってる様子が描かれてます。江戸の町の賑やかさは屏風絵よりも印刷が発達したあとの浮世絵の方がいきいきと細かいところまで描かれてるものが多い気がします。

 

錦絵以前の墨摺絵・紅摺絵のころの奥村政信の作品やを経て錦絵を生み出した鈴木春信や北尾重政、磯田湖龍斎、鳥居清長などから始まり喜多川歌麿葛飾北斎、歌川国貞、国芳、広重などが並ぶ「錦絵の誕生と展開」のスペースに平行して「東西美人競べ」に肉筆の美人画が並びます。宮川長春美人画は着物の赤と青と黒の使い方が特徴的で顔は色っぽさの中に可愛さがある美人画で勝川春章は背景の梅の描き方や着物や硯の柄まで細かく描き込んでてさすがという感じ。何でも描ける北斎美人画もいけるんだけど色っぽさでは他の絵師の方が上かなぁという気がします。歌川豊広の「見立蝦蟇鉄拐図(みたてがまてっかいず」は遊女を鉄拐仙人と蝦蟇仙人に見立てて遊女が煙管から吐き出した煙が鉄拐仙人の姿になってるいるというパロディー画なんだけどゆったりした遊女の着物の柄が孔雀の羽模様で美しく幅が広いなぁと思います。

どの美人画も素敵だけど今回一番わぁああ!と思ったのは鈴木其一の「雪月花美人図」でこれは他の美人画とは一線を画しているといってもいいような其一ワールドな作品でした。それぞれ「桜」「萩と月」「雪と柳」を背景がそれだけで作品として成立している上に前にたつ美女の着物の意匠が見事でめちゃくちゃ贅沢な作品でした。いやーよかった。

こちらと応挙の「江口君図」見れただけでも来た甲斐がありました。

 

静嘉堂文庫美術館は今年の4月から6月までの「旅立ちの時」展が

この地での最後となり2022年には丸の内の明治生命館1Fギャラリーに移転するそう。格段に行きやすくなって有難いです。岩崎家のお宝なんだから三菱のお膝元の丸の内でたくさんの人に見てもらわないと勿体ないですもんね。

最後の展示会では曜変天目含め国宝もずらりと並ぶようなので今から楽しみです。