おうちに帰ろう

心茲にありと

筆魂 線の引力・色の魔力 又兵衛から北斎・国芳まで

2/9からすみだ北斎美術館で開幕した

http:// https://hokusai-museum.jp/modules/Exhibition/exhibitions/view/1461

こちらの展覧会に行ってきました。先日静嘉堂文庫でも肉筆浮世絵を見てきましたが版画にはない色合いと筆致に改めて魅了され、今回肉筆画だけを集めた展覧会でしかも初公開作品も多くなんといっても岩佐又兵衛の作品が複数点展示されてるとあって最近ではめずらしく開幕直後に行ってきました。

 

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そしてほんとに素晴らしかったです。

 

入ってすぐ岩佐又兵衛の「金谷屏風」の一部や「和漢故事説話 浮舟」「本間孫四郎遠矢図」が並びいきなり気圧される勢いでした。江戸初期の「遊楽図」や「紅葉狩り図」などの風俗画から寛文美人図を経て浮世絵が確立した歴史をなぞりながら菱川師宣や懐月堂安度、松野親信、宮川長春が並ぶ構成はわかりやすくてよかったです。宮川長春の上品な美人画が大好きなのですが並べてみると菱川師宣や懐月堂安度からの影響が色濃いのがよくわかりますね。師宣からは着物の柄のデザイン性、懐月堂安度からは美しい女性の表情あたりを取り入れてるような気がします。

 

余談ですが宮川長春は狩野春湖に師事していたことがあるそうですがその後狩野派とはもめてるみたいでした。

 

宮川長春と狩野春賀との諍い

https://plaza.rakuten.co.jp/rvt55/diary/200909290000/

 

昨年開催された出光美術館の「狩野派 -画壇を制した眼と手」

serai.jp

では絵を描くだけではなく鑑定だったり指導だったりと大きな役割を担っていたようですが「壇」と名前がつくようになると争いごとも増えてくるのでしょうね。実際には当時狩野派が鑑定したものが後世別の絵師の作品だったりすることもあったようでいいことばかりじゃないのでしょうね。

 

以上余談でした。

 

続けて奥村政信、鳥居清長、磯田湖龍斎、勝川春章と浮世絵の繁栄を築いた絵師の作品が続き特に勝川春章は晩年には錦絵より肉筆画に力を入れていた絵師なので肉筆ならではの筆遣いや色彩が見事です。特に細かな髪の毛の表現や鮮やかな着物の色などはこのあとに続く葛飾北斎喜多川歌麿にも引き継がれていると思います。

 

また上方浮世絵のコーナーもあり西川祐信の作品も多数展示されてたり祇園井特といった私は初めて見る絵師の作品が印象的でした。江戸の美人画とは全然違う美人大首絵で江戸の美人画は理想的な顔を表現し上方は実際にいそうな顔の美人画といった感じでしょうか。円山応挙の写生理念にも通じると図録にあったのですが確かに肌の色の表現などは応挙を彷彿とさせました。面白いものですね。

 

そしていよいよ喜多川歌麿の登場。もうー好き!「夏姿美人図」はやや渋めの色調で黒に青い格子模様、水色の襦袢に緑の帯といった組合せが手鏡を見て化粧を直す仕草のほんのりとした色香が堪りません。背後にさりげなく映る衝立と無造作にかけられた手ぬぐい、女性の日常をのぞき見しているようなちょっとしたドキドキ感もあってあえて作った隙が素敵なんですよね。あー大好き。

 

最後は葛飾派と歌川派で葛飾北斎と歌川豊春、豊国、国貞、広重、国芳と続く歌川派の作品がずらり。葛飾派といっても北斎が飛びぬけて有名で弟子はいても歌川派のバラエティの豊富さにはちょっと及ばないような。いやまぁ北斎一人で十分ではありますが。

白眉は今回初公開となった葛飾北斎の「合鏡美人図」でしょうか。北斎美人画以外の作品が多すぎて美人画の印象は薄く、見ても「ふーん」と思うことが多いのですがこの「合鏡美人図」は見事でした。「ふーん」なんてすいません。歌麿などに比べると着物の線が狩野派の花鳥図を思わせるような輪郭で柔らかさはないのですが着物の透け感の表現や女性の姿勢やピンクがかかった肌の色など絵としての完成度はとても高いと思いました。やっぱり北斎はすごいなぁ。

あと勝川派の絵師と北斎の6人で描いた「青楼美人繁盛図」も初出とのことですが勝川派を飛び出したと言われる北斎が一緒に作品を創作しているというのが面白いですね。ちょっと遠慮がちに見えるところがご愛敬。それでも一番手前の女性を描いてるということは仲が悪かったわけではないのかな。

 

開催場所がすみだ北斎美術館だけあって北斎の作品は扇絵のような小品や登龍図のような迫力ある作品までバラエティに富んでて楽しかったです。

 

後期はまたガラッと展示替えするようなのでまた行きたいと思います。

 

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こちらは米国フリーア美術館所蔵の北斎作「琵琶に白蛇図」の高精細複製画です。最近はこの技術が寺社の襖絵や屏風絵の展示に使われているようですね。