おうちに帰ろう

心茲にありと

名家のかがやきー狩野家の粉本、渡辺省亭など

狩野派の粉本と狩野探信守政の世界にも10点しかないという屏風絵と渡辺省亭目当てで

文化遺産調査特別展 名家のかがやき@足立区郷土博物館

www.city.adachi.tokyo.jp

 

に行ってきました。

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蔵のようなデザインの建物です

江戸から明治にかけて発展した足立区内の名家に伝わる芸術品を丁寧な解説とともに展示されてます。知らなかったのだけど第2、3土曜日は入場無料だそうでしかも全部写真OKという太っ腹。タダで見るには勿体ないくらい充実してました。

 

作品だけじゃなくて日本美術史家の安村敏信氏と足立区郷土博物館の方との対談が江戸時代の狩野派の活動や奥絵師、表絵師、町狩野の違いなどかなり詳しく説明されててとても面白かったです。幕府お抱えの奥絵師は今でいう国家公務員のような存在で年俸も決まってて江戸城に絵師用の作業部屋もあってそこに通って仕事をする人。表絵師は江戸城には上らないけど大規模なプロジェクトになると呼ばれる職人だとか。町狩野はいわゆる俗称で実態はよくわかっていないそうで狩野派に学んで町で仕事をしていた絵師をそう呼んでいたのではと考えられてるそうです。

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3枚続きのパネルに記載された対談

読み込んでしまいました。

狩野探信守政の「西王母・東方朔図屏風」は濱田家に伝わる屏風絵で六曲一双という大きさから元々は大名家に収めたものが明治期に大名が手放し濱田家に渡ってきたものらしいです。

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左双

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右双


狩野探信守政は狩野探幽の三男で家綱、綱吉に仕えていたとのこと。先ほどの対談の中でも明治期に幕藩体制が崩壊した際にかなりの大名が所持していた美術品を手放して海外に渡った作品も多く狩野派の作品などはボストン美術館などの方が体系的に揃っているそう。アメリカ人は作品一つ一つを見て購入するのではなく「狩野派」という単位でグロスで買っていくそうでまとまった数が海外に渡ってるらしいです。
ほんとは去年ボストン美術館館展で多くの日本美術の作品が里帰りするはずだったんですよねー

www.tobikan.jp

残念ながらコロナ禍で作品を運搬することが困難となり中止となってしまいましたがまたいつか状況が落ち着いたらぜひ実現してほしいものです。

こちらの屏風絵は狩野光信(永徳の息子)も同じ題材で描いてますが作風はだいぶ違います。

bijutsutecho.com

探信守政の方が柔らかみがあり背景の金箔の使い方も控え目。江戸期に入ってからはあまり金ピカなのは好まれなかったのかなと思います。探幽の渋みと狩野派伝統の山の稜線や木々のしっかりした描き方が受け継がれ着物の柄の細やかさに江戸っぽさが感じられて伝統性と時代性を感じる作品だなぁと思います。

 

濱田家は現在の埼玉県杉戸に当たる宮内村の豪農で明治20~30年頃に日本美術院の画家たちと交流があり中でも多く葉書のやりとりをしていたのが渡辺省亭だそうで今回も2作品展示されていました。
渡辺省亭は3月に大規模回顧展が予定されてて今から楽しみなのですが

seitei2021.jp

鶏を描いた二曲一双の屏風絵と絹本著色の猛禽図。渡辺省亭はそれまでの日本画の表現とは全然違っていきなり浮世絵でもなく西洋美術でもない唯一無二の作風の絵師で数年前に初めて作品を見たときに色の鮮やかさと濃淡の描き分けの繊細さと動物の表情の可愛らしさに惹きつけられて一気に好きになりました。今回の猛禽図も小鳥を啄むなかなか獰猛な鷹なのに目がくりくりと愛らしくそのギャップが堪らん…!ってなりました。

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渡辺省亭「群鶏図屏風」映り込みがキツイですが…伝われー

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渡辺省亭「猛禽図」目は丸っこくてかわいいのにむしゃむしゃと小鳥を喰らうギャップよ…

石出家に伝わる狩野派粉本は初代木挽町狩野家の常信の絵を参考に描かれた唐獅子や龍といった霊獣から象やラクダなどの大陸の動物から狸や猫といった身近な動物まで29種53体を描いた全長8メートルもある巻物や六曲一双の白梅図の粉本など永徳の時代から受け継がれた表現が見られるものが残っており、この粉本を引き継いでいくことが狩野派が明治まで影響力を持ち続けた由縁なのだなぁと思いました。真似るにも技術が必要ですしね。

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百獣図粉本

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百獣図粉本続き これが延々8メートル!


石出家になぜ狩野派の粉本が伝わったのかというと石出家の中に町狩野として活躍していた高田円乗に師事した人物がいたのだとか。裾野が広いなあと思いますね。

面白かったのは日比谷家に伝わる「和漢流書図」という二幅の絵で右幅に宋・元時代の中国の画家、左幅に室町時代以降の日本の画家を作風を真似て10コマ描いてる作品で描いたのは鈴木鵞湖という絵師。

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こちらが日本の絵師の10作品

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こちらが宋・元時代の10作品


どういう目的で描いたんだろう?と思ったら詩画を学ぶ志のあった日比谷健次郎(北辰一刀流の道場を開いたとか)の依頼で描かれたらしいです。教材ってことですね。全員の作品を手元におけるわけではないから知ってる人に描いてもらいながらお勉強したんですかね。写真がない時代の伝承方法なんだろうなぁ。

 

その他戦国時代の戦うための甲冑ではなく守りのための立派な設えの甲冑具足などもあり当時の豪商・豪農の蔵にはえらいもんがあるんですね。

 

実はまだまだいろいろな旧家の蔵に眠るお宝は多いのだそう。文化遺産発掘プロジェクトがもっと進むといいなぁと思います。

 

見終わった後は併設されてる日本庭園でのんびり。梅も咲き始めてて素敵な空間でした。天気もよかったしいい1日でした。

 

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晴天に梅が映えますね