おうちに帰ろう

心茲にありと

田中一村展ー千葉市美術館所蔵全作品

またもや最終日に滑り込み。
千葉市美術館で開催されていた「田中一村展」に昨年7月に同美術館がリニューアルされてから初めて行きました。

 

www.ccma-net.jp

 

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柱も立派な建物です。どーん!

以前から楽しい展覧会も多く1F ホールも趣があって素敵な美術館。

 

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1Fサヤ堂ホール。各種イベントが開催されるようです。以前は閉鎖されてました。


同じ建物内にあった千葉市中央区役所が移転したため今までは展示室の横の限られたスペースにあったミュージアムショップが広々と1Fにオープン。元々狭いながらも充実の品揃えで毎回何かしら買ってしまうショップだったのですが広くなって関連グッズ以外にも文具類なども豊富となり絵本の取り扱いもあってますます楽しい空間になってました。

 

美術館から14:00過ぎが空いてますという案内が出ていたので到着時刻をそのくらいに合わせて出発。しかし到着すると少し待機列が。エレベーターで展示会場のある7F まで上がらないとならないのですがソーシャルディスタンスを保って乗車が必要なため一回に乗れる人数に限度があることの影響でしょうか。同時開催していた「ブラチスラバ世界絵本原画展」と両方入場できるチケットが1000円、田中一村展のみだと600円のチケットが販売されており時間があれば両方見たかったのですが入場時が14:30くらいで常設展も見たいし帰りの時間を考えると両方は無理だなとブラチスラバは残念ながら見送り、田中一村展のみとしました。

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エレベーターの扉も一村仕様

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展示室の入口前

展示構成は
第一章 若き南画家の活躍
第二章 昭和初期の新展開
第三章 千葉へ
第四章 「一村」誕生 心機一転の戦後
第五章 奄美へ アダンへの道
最後にこれまで開催された展示会ポスターや図録が展示されたアーカイブコーナーとなっていました。

 

1.印象に残った作品

  • 「アダンの海」

今展覧会のアイコンになっている作品。田中一村といえばこれ!という作品ですがそこに至るまでの道筋を見ると動植物に対する眼差しと自然の中で開放された精神と技術がすべてぴったり重なって作品として結晶したのだなと思います。全体にキラキラと光っているのは胡粉を混ぜているのでしょうか。砂一粒一粒の描き込みやさざ波がたつ海面の緻密と対比するようなアダンの葉のダイナミックさと立ち上る雲の雄大さが一目見たら忘れられない1枚だと思います。

  • 「椿図屏風(二曲一双)」

金箔地に白と赤の椿を片面一双いっぱいに描きもう片面は無地の金箔のみという大胆な構図で速水御舟の「名樹散椿」を思い出しましたが片面金箔のみはあまり見たことがないですね。全くムラのない金箔の塗り込みとマットな椿の色合いが美しくて中央画壇で認められたい野心も見える大作です。こんな作品も製作してたのですね。知らなかった。

  • 「牡丹菊図帯」

絵画だけではなく帯や日傘や皿などの工芸作品のデザインもしていたの知らなかったです。展示されてる名古屋帯は3点ありましたが早い年代の「竹に蘭図帯」は空間が少し多めで少し渋めなんですが年代が下るとカラフルでポップになってました。洋服感覚で着られそうなデザインがとても素敵。

 

2.全体を通しての感想

田中一村というと奄美で製作された鮮やかな色彩で南国の動植物を描いた作品の印象が強かったのですが今回は千葉で過ごした20年間に製作した作品を中心に10代のころに描いたものや中央画壇に認められるために模索してた頃の作品など奄美にたどり着くまでの過程を追う展示内容だったので全く知らない作品が多く驚くことが多かったです。
特に12歳のころに書かれたという「つゆ草にコオロギ」などは伸びやかなかにもしっかりとした作風が確立されていて早熟だったのだなーと感心することしきり。その後の10代の南画風の水墨画はダイナミックな構図と躍動感のある筆致でとても心に残りました。色味は少ないのですがポイントで使われているオレンジや赤が利いていて植物の葉や草や茎の描き方にのちの奄美の作品に繋がる目線が感じられてこの頃から描きたいものの志向性の芽生えていたのかなぁと思ったりしました。

千葉に来てからの作品はダイナミックさよりも抒情性が強くなり千葉寺を描いたシリーズや農村風景を描いた作品など穏やかな風景画が多かったです。そんな中十六羅漢図はちょっと異質でしたけど技術の高さが伺える作品でした。

戦後になると様々な依頼を受けながらいろいろな作品を残しており中でも軍鶏がお気に入りだったようで軍鶏の絵のシリーズがたくさんありました。一村の描いた軍鶏は首が長くスマートで飼ってた軍鶏が細身だったのかしら?などと思いました。繊細な羽や脚の描き方には着々とアダンへの道に続いているように思います。

最後のコーナーに「アダンの海辺」がありますが取り囲むように奄美の景色を描いた小品が並んでいて一村が様々な作風を経て辿り着いた奄美での生活を感じられるような構成でした。

奄美時代以外の多彩な作品を見ることができてとてもよかったです。
やっぱり一人の画家だけで構成された展覧会は深く知ることができてよいですね。駆け込みでしたが来てよかったです。

 

3.その他の展示について

  • 常設展

常設展では所蔵品の中から一村に所縁のある日本画家の作品の展示もあり東山魁夷東京芸大で同期だったのだとか。(一村は1年で自主退学してますが)
その中で松林桂月の「春宵花影」という水墨画がとても美しく初めて見た作品だったのですがとても好きでした。詩・書・画いずれも優れており文人画ー南画を一貫して作成していたそうです。近代の水墨画の神髄という感じがしました。見れてよかった。

その他「恋・愛・LOVE」というテーマで豊富な浮世絵コレクションから岩佐又兵衛や川又常行、渓斎英泉の肉筆画が見られたのもよかった。このあたりは「筆魂」との関連もあるのかなぁ。渓斎英泉の「小督図」は平家物語所縁の作品でドラマ「平清盛」好きとしてはちょっとわくわくしました。清盛の娘徳子が正妻となった高倉天皇の寵愛を受けた小督(白拍子祇王)が身を隠しているところを高倉天皇の使いである源仲国が見つける場面が描かれてます。その翌日、BS11で放送されてる「京都浪漫」で嵐山・嵯峨野特集でこの逸話が紹介されていてタイムリーでした。

 

また1Fのサヤ堂ホールで開催されていたデジタルミュージアム

https://www.ntt-east.co.jp/pr/hokusai-hasyo/chiba/

 

で高精細のデジタル画で再現されていた三代目歌川豊国の「二代目尾上菊次郎 滝夜叉姫」は刷りの状態がとてもよく色鮮やかでハッとしました。

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こちらは本物です。デジタルでも同じくらいの鮮明さでした

このデジタルミュージアム、なかなか楽しくて非接触型の画面でホログラムのように浮かび上がった画像に指をかざすと反応して大型の液晶ビジョンに見たいものが表示されるというなかなか近未来な仕掛けで様々な角度から浮世絵を見ることができて面白かったです。ペッパーくんにも話しかけられました。

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ペッパーくんも着物を着ています。近くに立っているとそこのあなた!と話しかけられました

サヤ堂ホールが開放されてこういうイベントが開催されるのはよいですね。なぜここが今まで使われなかったのかなというくらい素敵な空間なので活用されるようになったのは嬉しい限りです。

 

行きやすい場所ではないのですが所蔵作品も豊富で企画展も毎回充実しておりミュージアムショップの品揃えもよいので頑張っていく甲斐がある美術館。次はどんな企画展が見られるのかな~楽しみにしたいと思います。

 

4.おまけ

  • 今日のお買い物

今日は展示されてませんでしたが千葉市美術館所蔵で先日アーティゾン美術館の「琳派印象派展」前期に展示されていた鈴木其一の芒野図屏風のクリアファイルがあったので迷わず購入。一村のポストカード4枚とともに。

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クリアすぎて背景と同化しているクリアファイル
  • 一村作品との出会い 

 10年以上前に奄美大島に訪れた際に空港の売店で見かけたこちらのお土産用の複製画。これが初めて見た田中一村の作品でした。部屋に長らく飾ってあったのでだいぶ色褪せてますが一目惚れして買いました。見つけたのが帰りの便を待っているときだったので田中一村美術館には行けなかったのですがそれ以来ずっと気になっている画家のひとりだったので今回作品を辿れてとてもよかったです。

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買ったときはもっと色鮮やかでした