おうちに帰ろう

心茲にありと

コレクター福富太郎の眼 昭和のキャバレー王が愛した絵画

www.ejrcf.or.jp

「あやしい絵」展で心掴まれた鏑木清方の「薄雪」「妖魚」北野恒富「道行」などインパクトのある作品の所蔵元に「福富太郎コレクション資料室」とあり個人コレクションだと好みの傾向がわかりやすいなぁなんて思ってたらその福富太郎コレクションの展覧会がすぐ始まると知り、またあの作品たちに会えるんだ!と嬉しくなり開催を楽しみにしていました。んが!またも緊急事態宣言が発令され、こちらの展覧会も休止となってしまい、再開されるのかやきもきしていましたが、無事6月1日から再開され、かなり期間は短くなってしまいましたが、閉幕近い平日にようやく行けました。

 

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北野恒富「道行」と鏑木清方「薄雪」が並ぶポスター

昭和のキャバレー王と言われた福富太郎鏑木清方の作品から蒐集を始め、自分が気に入ったものは有名無名に関わらず、日本全国のギャラリーで買い求めていたそうです。個人の趣味によるコレクションなので時代や手法は違えど、好きな作品には共通するものがあり、特に美人画には顕著に表れてると思います。とにかく色っぽい女性がお好きなようで、鏑木清方だけではなく、甲斐荘楠音、島成園、秦テルヲなど「あやしい絵」展でも強烈な印象のあった作者の作品が並んでます。色っぽいといっても色々あり、官能的だったり妖艶だったり狂気に満ちていたりと特徴はそれぞれ違うのですが、抑圧されていたり、理不尽な目にあったりと弱い立場に置かれた女性の情念や怨念が滲み出ている作品も多くありました。

 

渡辺省亭展で見た「塩冶高貞之妻」のサイズ違い作品が2作品出てて、人気の画題だったのでしょうか。歴史画に分類されるモチーフですが描かれてる女性がちょっとどきどきするほど艶っぽいです。透け感のある着物の柄とかめちゃくちゃよかった。

 

江戸~明治あたりの女性にとっては長い髪は女性らしさの象徴とも言えると思いますが、櫛で髪を梳いてる女性の姿の作品が目につきました。
島成園の「おんな」などは床にとどかんばかりの長い髪を肌も露わに着物がほどけた状態でゆらーりと髪をとかしててしかも着物には能面の柄が描かれてて、もう情念以外何があろうかという感じ。


一方で鏑木清方と並ぶ美人画の第一人者上村松園の描く女性はあまり好みではなかったようで、1点だけ展示されていたのですが、同時代のその他の作品の女性と比べると美しいのですが、燐としていて隙がなく、情念は感じさせない大人の女性の姿でした。福富太郎氏いわく「はんなりとして京都の女性の美しさが理解できないのかもしれない」とのことですが、当時の上村松園の作品の評価として「ただきれいなだけ」と言われていてそれを大変松園は悔しいと感じていてその思いから出来上がった作品が傑作「焔」らしいので、そういう声も糧になっていたのかもしれないですね。私は「きれいなだけ」でもいいじゃないか、と思ったりしますが。


特別出品として今はポーラ美術館所蔵となった岡田三郎助の「あやめの衣」が見られたのもよかった。ポーラ美術館で以前見ましたが、福富太郎さんのコレクションの一つだったのですね。この色っぽさ納得という感じです。

www.polamuseum.or.jp

 

そして美人画だけじゃなくて、明治以降の洋画のコレクションも多く岸田劉生の「南禅寺疎水付近」は国立近代美術館にある「切通しの写生」と同じような趣で、赤茶色の坂道の土が印象的でした。木村荘八の「室内婦女」はカラバッジョを思わせるような陰影があって好きでした。 高橋由一、五姓田義松、川村清雄などなど明治以降の西洋画家を代表する作品も多々あり、バラエティ豊かです。

 

また戦争を描いた作品については「自由に描けない抑圧された戦時下で画家たちが対象をどう表現したか、その意図に注目した」とあり、画家の内面まで理解した上で作品を求めたというのは美術史的な観点からもとても重要な役割だったような気がします。単純に国威掲揚のための作品と片付けられない芸術性を見出すのはアートとは時代を映すものだと考えるとそれを踏まえた評価をするべきなんでしょうね。

美しい以外の価値を見出す厚みのあるコレクションになっています。

 

最後に月刊「りばぶる 増刊SPRING」という雑誌に掲載された床に散らばる浮世絵の数々と河鍋暁斎百鬼夜行の屏風と幽霊絵の掛け軸と山のように積まれた書物に囲まれて微笑む福富太郎氏の写真に正しいオタクを見た気がしました。

 

最後に東京駅構内の3,4階にあるこちらの美術館。出口が吹き抜けの回廊部分になっていてそこに駅の改修工事の際に発掘された鉄骨架構のブラケットが展示されてます。

ブラケットって何?と思ったら↓の部分のこと。壁面に取り付けて土台を張り出した床を支えたりするものみたいです。

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赤丸の部分がブラケット

で、そのデザインが新月から始まり月の満ち欠けのデザインをモチーフにしているんですって!めっちゃ素敵じゃないですー??ここに展示されてたがちょうど三日月の部分!あら、すてき。

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発掘された建設当時のブラケット。三日月型にくりぬかれてます

現在も復原されたブラケットが北面の新月から始まって北東面=三日月、東面=上弦の月、南東面=望月、南西面=立待月、西面=下弦の月、北西面=二十六夜の月(三日月の反転)と配置されてるそう。
一生懸命見たんですけど、ちょっとわからなかったですねー。双眼鏡持参じゃないと無理かも。機会があったら確認してみたいと思います。