おうちに帰ろう

心茲にありと

あやしい絵展 前期

3月23日から国立近代美術館にて開幕した「あやしい絵」展に昨日(3/26)に行ってきました!

めちゃくちゃ好きなタイプの作品ばっかりでした。やーよかった!

 

行きたい美術展が重なって土日の予定を組むのが難しい中、

緊急事態宣言が解除されたことに伴い金・土の夜間開館が復活!

金曜日の閉館時間が20:00となったため仕事帰りに行けました!やった!(ちなみに国立の美術館全部が延長しているわけではなく東京国立博物館<トーハク>は今日行ったら17:00閉館でした。このあたりは施設によって対応が違うようです。)

前期が3月23日から4月18日、後期が4月20日から5月16日なのですが中には4月4日までとかなり展示期間が限定されている作品もあったのでこれは早く行かなくては!と思っていたのでこの開館時間の延長はとても有難い~

職場が国立近代美術館に徒歩で行ける場所にあるので仕事をさっさと切り上げていそいそと満開の桜を眺めつつ美術館に向かいました。

皇居のお堀まで来るとちょうど桜がお出迎え。写真を撮りつつ入口に向かいました。

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目の前が皇居という最高のロケーションの国立近代美術館

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美術館の入口の桜も見頃。いい感じです。


美術展のサブタイトルは

 

「絵に潜む真実、のぞく勇気はありますか?」

 

のぞきましょうぞ!

今回は多くの作品が写真撮影OKとなっています。これも嬉しい。音声ガイドは平川大輔さん。情感たっぷりなナレーションが素敵。

入口すぐに展示されているこちらの猫が案内人。

 

今回は好きな作品多すぎなので構成順に感想を書いていきます。

1章 プロローグ
  激動の時代を生き抜くためのパワーを求めて(幕末~明治)

プロローグの前に入っていきなり「生人形(いきにんぎょう)」がお出迎え。生人形とは江戸時代の見世物小屋で人気だった出し物らしく人間そっくりに作られた人形で唇とかめちゃめちゃリアルでかなり気持ち悪かったです。この時点でこの先にかなり期待しちゃう。

 

幕末から明治にかけての作品は曽我蕭白美人画歌川国芳の妖怪絵、月岡芳年の血みどろ絵(大好き!)などが並びもうわくわく。
曽我蕭白の「美人画は4月4日までの展示。こちらも今回のお目当てのひとつ。

 

蕭白ブルー(勝手に呼んでる)の着物に描かれた中国山水画は陰謀によって失脚した中国・楚の政治家・詩人の屈原を表してるんだそう。なるほどー着物の柄にそんな意味があるなんて。言われなければ綺麗な柄~ってただ感心してしまうところでした。ボロボロに噛みちぎった手紙?絵巻?に悔しさが滲み出てますね。

 

 

2章 花開く個性とうずまく欲望のあらわれ(明治~大正)

ここからがこの展示会の本丸。

 2章―1 愛そして苦悩ー心の内をうたう

明治から大正にかけては西洋絵画に影響を受けた作品も多く藤島武二の版画とミュシャの作品が並んで展示されてて見比べられるようになってるのはよいなぁ。武二の「みだれ髪」の表紙はよく見るけど実物は初めて見ました。ハート形の枠内に女性の髪を描いててめちゃくちゃオシャレです。ロセッティも一緒にあってこの並びは少女漫画の原点を見ているようでした。

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アルフォンス・ミュシャ出世作「ジスモンダ」ポスター

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ミュシャに影響を受けた藤島武二の音楽三題のうちの「鼓」色合いがメアリー・カサットっぽい

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少女漫画というより諸星大二郎っぽい趣の田中恭吉の「死人とあとに残れるもの」印象に残る作品



 2章ー2 神話への憧れ

ここでは青木繁の作品群がまとめて見られたのもよかったです。
「大穴牟知命(オオナムチノミコト)」古事記の一場面を描いてるんですがじっとこっちを見る女性と倒れてる男性の肉体がリアルで神話の一場面というより実際に何か事件が起きた現場の絵という感じ。女性はこっちを見ながら自分の乳房をつかんでるっていうのが不思議なんですが。

 2章ー3 異界との境(はざま)で

ここにお目当ての一つ鏑木清方の「妖魚」がありました。4月4日までの展示。写真はNGでした。

東の清方、西の松園と言われるように美人画に定評がある清方さまですがこちらは単なる美人画ではなく下半身が魚で上半身は人の姿をした人魚を描いた作品。アンデルセン童話の人魚姫のイメージとは全く違います。髪は乱れ手にはなぜか魚を握っており妖しい目でこちらを見ています。何なんだこの美しさは…。体にまとわりつくような長い髪はそちらに行ってはいけないけど惹かれずにはいられない異界の生き物という感じ。いやーいいなぁ。

人魚シリーズはなかなかインパクトのある作品が多かったです。谷崎潤一郎の「人魚の嘆き」の挿絵となった水島爾保布の作品はピアズリーを思わせる作風でめちゃくちゃ耽美的。

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な、なんともエロ…

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ピアズリーっぽい

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そしてこんな感じで解説文に猫マークがついてます。猫が解説してくれてるのね

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壁にはこんな都々逸も

 

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こちらが本家ピアズリーのオスカー・ワイルドの小説内の挿絵



安珍清姫道成寺)シリーズも作家によって描き方が様々でした。小林古径の「清姫 鐘巻」清姫はいなくて龍が描かれてるんですけど丁寧に描かれててどことなく愛嬌もありかわいらしい印象でした。この展示会においては清涼剤みたいな印象。龍だけど。

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清潔感のある龍


今回初めて知った作家のひとりが橘小夢で様々な作品が展示されてたんですが一番強烈だったのが「刺青」谷崎潤一郎(また!)の同名小説をテーマにした作品らしいのですがエロすぎるでしょう。

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白い肌が艶めかしすぎる…

小説そのものが変態じみてるんですが絵で表現すると生々しくてこれ春画と同じじゃないですか??って感じです。いやもちろん出しちゃいけないところは出てないですし直接的なことは描いてないんですけど背中全面に女郎蜘蛛の刺青入れて喜んでるとかはぁ??って感じなんですけどまた蜘蛛が足の毛の一本一本まで細かく書かれててうなだれる女性に覆いかぶさってるようでいやこれ大丈夫?好きです!

 

2章ー4 表面的な「美」への抵抗

北野恒富の「淀君」は迫力ありました。めっちゃ肩幅しっかりした淀殿でこの人だったら死なずに薩摩に逃げ延びられたんじゃないかっていう気がしました。

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つ、つよそう

固定概念にある「女性の美」というものに抗うような強い作品が多かったです。

なかでも甲斐庄楠音のシリーズは未完の「畜生塚」が鬼気迫るものがありました。いくつか裸体の上から着物の下書きがあってまず裸を描いてから着物を描く予定だったんじゃないかとのこと。こんなに裸を描いてから着物かくんかー彫刻みたいだな。

 2章―5 一途と狂気

鏑木清方金色夜叉の挿絵が堪らんかった!オフィーリア!!って感じの儚さ。もっと近くで見たかったー写真も不可だったのでお伝えできず残念。
他にも浄瑠璃「冥途の飛脚」を題材にした「薄雪」もよかった。浄瑠璃関係では「心中天網島」を題材にした北野恒富「道行」もどうにもならん男女に二人の気持ちとは無関係に飛び交う鴉が不吉でよかったなぁ。

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諦観と気怠さと不吉な鴉のバランスがよき



4月4日までの展示品の中の目玉といってもいい上村松園先生の「焔」もこちらのコーナーに。写真NGだったので以前トーハクで撮影した写真貼っておきます。

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トーハクでは毎年5月にお目見えしてますが今年はここだけかな


「あやしさ」がテーマとなった作品群の中でも堂々たる風格を持ってお出ましでした。トーハクの近代絵画の部屋で拝見するのとはまた違った趣です。源氏物語の葵上の巻に登場する生霊となった六条御息所を描いた作品です。生霊だから幽霊ではないのに足元はぼんやりと円山応挙の描く幽霊美人画のように消え入っていて髪の毛も輪郭がぼやけて現実味がない雰囲気なのに藤の花に蜘蛛の巣を描いた着物の柄は細かい線で描き込まれているという濃淡が美しいです。恨みつらみを抱えてる表情はどこか物悲しく切なさも感じます。松園さまの描く女性は生霊でも品があって美しいです。
よく見ると伏し目がちな目は裏側から金泥を塗り込んでいて能面で目に表情を加えるときと同じ工夫をしているとか。当時松園はスランプだったらしく情念をここに「ぶちこんだ」(音声ガイドでそう言っていた。ぶち込むって…)そうです。ぶち込んでてもどこか上品なんですよね。そこが好き。

 

3章 エピローグ 社会は変われども、人の心は変わらず(大正末から昭和)

雑誌や新聞小説の挿絵に描かれた作品が並んだコーナー。小村雪岱の版画作品が最後にどどんと並んでたのは嬉しかった。三井記念美術館で現在開催中の「小村雪岱」展行かねば!新聞小説の挿絵シリーズだけど全部結構エロいんだよなぁ。刺青ってやっぱりなにか掻き立てるものがあるのかしらん?

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ぉ傳地獄挿絵原画「刺青」

 

 

いやーーとにかくボリューム満点で面白い展示会でした。ミュージアムグッズも充実。荷物が多くて見送りましたが後期で買おう。

 

そして同時開催の恒例の「美術館の春まつり」

www.momat.go.jp

美術館の春まつりは春らしい花を描いた作品が並んでふんわりと華やかな空間でした。特に跡見玉枝の色んな品種の桜を描いた絵巻物はこんなに桜って種類があるのねってくらい描き分けられててきれいだったー。

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延々と桜の絵

 

そして先日見てきた笠松紫浪や川瀬巴水の新版画の春を描いた作品群もあってめっちゃテンションあがったー嬉しい!

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川瀬巴水目黒不動尊

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笠松紫浪「根津権現



他にもMOMATコレクションの展示替えもあり夕方からの入館では駆け足で回るのが精いっぱい。もうちょっとゆっくり見たかったなー

 

日が傾きかけたころに入館し出るころはすっかり夜桜。次に来るときは新緑の頃かな。

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多田美波の作品と夜桜