おうちに帰ろう

心茲にありと

小村雪岱スタイル 江戸の粋から東京モダンへ

明治から昭和にかけて画家というジャンルにとどまらず装丁や舞台美術など幅広く今でいう「デザイン」の世界で活躍した小村雪岱の作品を集めた展覧会。
各所で紹介されている記事と作品を見てなんとオシャレなんだろう!!と気になっていてようやく行けました。日時予約が必要なのですが会期終了(~4/18)まですでに土日はいっぱい。水曜12時の枠で入場しましたが結構混んでました。

 

www.mitsui-museum.jp

 

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入口横に掲げられた幟

入口入ってすぐに泉鏡花の「日本橋の装幀本とその作品をモチーフにした蒔絵作品「苫舟日本橋がならんで展示。この蒔絵を制作したのは彦十蒔絵という漆作品を現代へアップデートする活動をしているアーティストグループ。装幀に描かれている波と蝶が散りばめられた精巧で美しい作品。これを見ただけでこの後の作品に期待が高まります。

 

最初の部屋はこのあとの展示内容のダイジェスト版のような展示で肉筆画、版画、装幀、工芸品と選ばれたものたちが並ぶスペース。オープニングのようですね。そこを抜けると先日「あやしい絵」展でも展示されてた「おせん 雨」の版画がひとつだけ展示されてます(↑の幟に描かれた傘が重なっている絵ですね)。この意匠はほんとに素敵です。アイコンにぴったり。

それぞれの章立てことに簡単に感想を書いていきます。

生涯で数百点もの挿絵を手掛けてますが肉筆画はかなり少ないんだとか。
正確で計算された構図で描かれた作品は肉筆で見るとより細かな筆のタッチまで見えてほれぼれします。
挿絵では春信スタイルと呼ばれ江戸時代の浮世絵師鈴木春信の影響を受けていると言われてますが女性の顔では歌川国貞が好きなんだとか。
ちょっと意外でしたが「赤とんぼ」という作品の暖簾から首だけ出している女性の顔はちょっと国貞の描く女性の顔に近いかもと思いました
もう少し現代的になってますが。
そして「あやしい絵」展にもあったお傳地獄「入墨」のカラー版画があってちょっとコーフン!!
桜を背景にした女性の入墨が鮮やかでほぉおおおとなりました。女性が覆いかぶさっている布団まで描かれててちょっと艶めかしかったです。
ちょっと変わったところでは「法隆寺金堂壁画」の模写があってこういうのも描いてたんだーとなりました。
東京芸術学校出てるんだから当然と言えばそうなんですけど。

 

  • 装幀本

そして泉鏡花の本を始めとしたさまざまなデザインの装幀本がずらり。
あまりの人気に通常のハードカバー?サイズより小さめの着物の袖にしまえるサイズの袖珍本(今でいう文庫本のような感じ?)もあって
これを持ってるとオシャレ、みたいな感じだったのかなぁなんて思いました。
本を収める箱にも模様が入ってて出すとさらに華やかなデザインの表紙~背表紙~裏表紙があり、表紙をめくるとさらに本の内容に合わせた絵が描いてあって確かに内容読まなくても欲しくなるような本ばかり。
私自身、最近は専ら電子書籍派なのですが、こういうデザインの本だったら手元に置いておきたくなりますね。
泉鏡花の作品の装幀はもともと鏑木清方が担当していたのですが小村雪岱のデザイン力を高く評価していた清方が繋いだとか。年齢が9歳上の清方とは先輩後輩のような間柄だったみたいで鏑木清方の文筆本に小村雪岱の装幀という贅沢な本もありました。

 

次の部屋との途中にある茶室コーナーに展示されてたのが雪岱の写生画「ヤマユリ」とそれにインスパイアされた現代アート「枯山百合」(松本涼作)見立漆器「鋏」(彫刻:小黒アリサ、漆芸:彦十蒔絵)この鋏、木と漆でできているのですが見た目は生け花用の鋏そのもの。持つとその軽さに驚くんだとか。へぇええ持ってみたい。そして「枯山百合」は雄しべ雌しべ以外は一本木で彫られた彫刻。花びらを茎の細かな模様手製の刀で彫ってるんだそう。美しかったです。

japanese-sculpture.com

 

  • 挿絵原画

新聞の連載小説の挿絵の原画コーナー
新聞挿絵のテイストってここから始まったのかなっていう感じ。
その日に掲載される内容のある一部分を切り取って目を引くように描くっていうのは
とてもデザイン性が問われると思います。これはいったい何の場面??って見たくなるような。
時には女性がひっくり返ってたりつかみ合いになってたりとちょっとセンセーショナルな場面もあるけど不思議と下品にならずすっきりしているところが腕なんでしょうね。
面白かったのが「忠臣蔵」の挿絵で四十七士を描き分けなきゃいけないのに資料がなくて泉岳寺にいって木仏を写し取った描いたんだとか。確かに描き分け大変そう。

 

  • 舞台装置原画

このコーナー面白かったなー。
舞台美術まで手掛けてたなんて総合アートプロデューサーだったんですね。
資生堂に入社して本の装幀手掛けたり舞台美術やったりと石岡瑛子さんにも通じるものがあるような。そういう人材を採用するんですかね、資生堂
原画の余白には細かな指示も描かれててそんなところも石岡さんと同じでした。
会場には小村雪岱の言葉も展示されてて舞台装置のコーナーには

 


「舞台セットは俳優の演技を活かし、その作品の気分あるいは精神を十分はっきするように考案され観客の興味の焦点となるものではない」

 


という言葉が掲げられててあくまでも主役は俳優で作品の良さを引き出すためのものであるという拘りがあったみたいです。


実際に描かれた絵を見ると忠実に家や料亭や茶屋が描かれててこの上で演技すれば自然と感情が出てくるだろうなぁと思いました。

特別コーナーに先輩鏑木清方の版画(鑓の権三重帷子)と清方が手掛けた泉鏡花の作品と装幀:小村雪岱、口絵:鏑木清方の作品もありました。
清方の女性はやっぱり色っぽいなぁ。

引っ込みのコーナーには鈴木春信の浮世絵も。やっぱり春信の影響は大きい気がします。

 

  • 工芸

このコーナー小村雪岱が小粋で繊細な美意識を培った土壌となった江戸~明治にかけての工芸作品と現代アートが展示されてます。

簪の繊細な模様や帯留めの多彩なデザインなど一度身に着けてみたいようなものばかり。
並河靖之 の「藤に蝶図花瓶」1口は円山応挙の藤図屏風を思わせる美しさ。七宝で屏風絵に描かれた絵のような表現ができるんですね。びっくり。
あと刺繍で作成した屏風にも驚きました。真っ黒な布地に真っ白な柳と鷲が描かれてて遠目から見たとき屏風じゃなくて白いオブジェかと思いました。

 

現代アートのコーナーには小村雪岱の「青柳」から発想を得た「目薬と手鏡」(白井良平)という作品があり
小さな畳の上に手作りのガラスでできたタイトルそのままの目薬と手鏡が並んでます。何か面白い。

 

全体を通して洗練されてるという言葉に集約されるような作品の数々。楽しかったです。

 

  • おまけ

三井記念美術館の展示会場を出てミュージアムショップ、カフェコーナーを抜けて出口に向かう途中の廊下のポスターを見るのが楽しみなのですがこちらが情報誌に掲載されたらしくポスター担当者のインタビューが載ってました。やはり気合が入ってたのですね。

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ポスター貼りの流儀!

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もうひとつおまけ。ぶらぶら美術館取材日記。そういえば来週(4/13)再放送されるようですね。