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渡辺省亭 -欧米を魅了した花鳥画-

明治から大正にかけて活躍した渡辺省亭の全貌を明らかにする初めての展覧会です。

展覧会公式Twitterの招待券プレゼント企画で当選し、快晴の日曜日(4/18)に行ってきました。当たらなくても行く予定でしたが、とても嬉しかったです。ありがとうございます。

seitei2021.jp

 

2017年に加島美術ギャラリーで開催された渡辺省亭の特別展で初めて見て、これまで見てきた日本画と異なる作風、かといって西洋画とも違う、派手さはないのだけどとても美しく心に残る作品だなぁと思って以来、気にかけていた渡辺省亭。今回初めての大規模な展覧会ということでとても楽しみにしていました。

 

日本画の作家として初めてパリに行き印象派の画家たちとも直接交流し(ドガに送った絵も今回展示されています)ロンドンで個展が開かれたりと欧米ではよく知られた存在だったのに亡くなってからは最近までほとんど名前も知られず研究も進んでいなかったとのこと。画壇と距離を置き、主要な展覧会にも出品せず個人の顧客の要望に応じて作品を制作していたためと言われてます。


なので大きな屏風絵などの作品は少なく掛け軸など家の床の間に飾るための作品が大半を締めています。そういった背景を知った上で見ると、渡辺省亭の作品は自然界に存在する美しいものを絵の中に収めて慈しみ愛でるために作られているように思えます。


写生に拘った絵師といえば円山応挙ですが、円山派の画風とも違い、そこに鳥がいるかのような柔らかな羽毛の表現や、ほとんど花びらが落ちてしまい花弁すらばらばらとこぼれている花など、その様子も含めて美しいと感じる風景を絵に閉じ込めているようです。雀や鴨が群れ飛ぶ姿もいろいろな向きで重なるように飛んでいたり、野生というほど自然味があるわけではなくどこにでもある日常目にする光景を美しく切り取って作り上げていると思います。
そう考えるとイギリスで人気があるというのも頷けるような気がします。
家の中に芸術を、というウィリアムモリスの考え方にも近いものがあるんじゃないかなぁ。
ちょうど今三菱一号館美術館でコンスタブル展もやってるので比較してみたくなりました。


また出版事業にも力を入れていたとかで当時創刊された高価で大判な「國華」との差別化を計り、自分の好きなもの、紹介したいものを集めた雑誌「美術世界」の編集も行っていてこのあたりは先日の小村雪岱が小説の挿絵や装幀で人気になったことに繋がっているような気がします。画壇との距離の置き方といい、自分の美意識に信念を持ち、美の表現を多方面に広げた先進的な方だったんですね。
明治期以降の日本美術は新しい技術や価値観が入ってきていろいろな広がりを見せましたが、広がりを見せた分、自分の方向性を決めるのが難しい時代になったのかなぁと思いますが渡辺省亭の作品にはあまり迷いが見られず自分流を貫いてるように気がします。だからこそ、日本国内ではなかなか知られなかったのかもしれないですね。

 

気になった作品をいくつか。

 

この作品を含めて龍に乗った観音様を描いた作品が3作品展示されていて、いずれも観音様が伏し目がちというか下を見てるんですよね。まるで龍に「よろしくお願いね」と話しかけてるような微笑みをたたえてて、珍しいなぁと思いました。省亭は母親の影響で観音信仰が強かったらしいのですが、崇めるというよりも身近な存在だったのでしょうか。神々しさの中に優しさがあってなんとも美しい作品でした。しかもこの作品、パリに留学中に家族が世話になったからと義兄の小林武平にお礼に送ったものだとか。贈るものだからこそ、なのか細部まで丁寧に仕上げてあり人柄が伺えるような気がしました。

 

花鳥画の中で、展覧会ポスターになっている「牡丹に蝶の図」は別格としてそれ以外ではこの作品が好きでした。
たんぽぽや土筆が不規則に顔を出している野原に鳩が3羽、その上には枝垂れ桜が7分咲きくらいで咲いている様子が描かれててどこにでもある春の風景を切り取っています。この何でもなさに美しさが凝縮されてて見飽きない1枚でした。

 

無線七宝で帝室技術員となった濤川惣助と渡辺省亭がコンビで手掛けた迎賓館赤坂離宮の「花鳥の間」「小宴の間」に飾られた七宝額の原画コーナー。トーハクでも何度か見たことありますが、まずこれを七宝用に描いたというのに驚くしこれを七宝で制作したのかと思うとびっくり。別のコーナーに七宝の花瓶や皿などが展示されてましたが、工芸品というものの概念が覆る美しさでした。特に藤図花瓶は同時代のもう一人「ナミカワ」並河靖之の藤図花瓶を先日三井記念美術館で見てきたばかりでしたがこちらは有線七宝という金の縁取りを活かした作品。どちらも素晴らしかったですが縁取りがない分、色の塗分けが正確じゃないと美しさが際立たないと思うのでどれだけの釉薬使ったらこの絵が完成するんだろう?とただただびっくり。

 

他にも鏑木清方の箱書きが書かれてる「石山寺」や(清方は渡辺省亭を高く評価していたとか)や西洋画で言うところの裸婦像に近いような「塩谷判官の妻」のような師である菊池容斎に倣った作品も多く展示されてます。描かれる女性の表情は浮世絵の美人画とは違い、写実的でいて、ちょっと理想が入ってるようなそんな美人顔でした。

 

あと海を渡った省亭というコーナーがありアメリカのフリーア美術館に所蔵されている作品のパネルが並べてあるコーナーがあったんですが、ほんとだったら実物が展示されるはずだったのかなーと思いました。想像ですけど。

 


外は新緑がまぶしく、緑の中に置かれた展覧会のポスターの絵がとても自然でした。気持ちよかったー。

後期は自分でチケット買ってまた来ます。

 

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美術館の庭に展示されているパネル