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「舞台PSYCO-PASS サイコパス Virtue and Vice」感想

2019年4月18日(木)~30日(火)日本青年館ホール、5月3日(金)~5月6日(月)大阪森ノ宮ピロティホールで平成と令和を挟んで上演されていた「舞台PSYCO-PASS サイコパス Virtue and Vice」、東京公演と大千秋楽ライブビューイングに参戦してきました。

psycho-pass-stage.com

当初前売りで購入していたチケットは2回分だったのですが公演が近づくにつれて、というか鈴木拡樹さんを知るにつれてもう少し見たいという思いが募りTwitterでの譲渡情報や当日券チャレンジで4回追加、合計6公演を東京で見ることができました。

テレビアニメで2期、劇場版も今年に入って3部作が公開されている人気シリーズの初の舞台化でしたがアニメとは世界観は同じだけれど登場人物は全く別となるスピンオフ的な作品。アニメに詳しくない私でもタイトルは聞いたことあるくらい有名な作品で知り合いにファンの方がいたので少し情報収集し第一期は見ておかないとついていけないと思うよと聞き第一期のみ予習して臨みました。

休憩なしの2時間公演はあっという間。途切れることない緊張感の連続で初回はただ物語を追うのと初(正確には2回目ですけども)生拡樹さんに感激しているうちに終わってしまいました。

見る度に印象が変わり全部終わった今思うことは「シビュラが管理する世界で人間らしく生きることは途方もなく困難で3係のメンバーは死してようやく人間らしさを手に入れた」ということでした。

常守朱監視官と禾生局長(アニメ版キャラ、声のみ登場)の会話の後、3係全員で楽しそうにふざけあってるシルエットが浮かび上がるラストシーンはこの上なく美しい情景ですが叶わぬ夢で終わったところが無情で残酷でした。

ヒューマニストを使い3係を壮大な実験場としたシビュラシステム、そこで行われたことは「監視官不足(途中嘉納監視官のセリフにあった)」を解消するために実際には執行官(潜在犯)だけで公安課の仕事が遂行できるのかということ。シビュラシステムが管理する世界では監視官になりえる人材はどんどん減り潜在犯ばかりになることが予想され潜在犯をいかに使い、そして人間らしさまでもプログラムに組み込んで監視官を作り上げる。3係の彼らの生きた証はデータとして扱われ人間としての尊厳、知性はシステム化しきれない揺らぎを常に生み続ける、それゆえに常に自分に問い続けて行かねばならないということなのだなぁと。

 

こんなにも残酷な結末なお話なのですが出てくる登場人物はとても魅力的。近未来のお話ですがテイストは刑事もの。アニメ版の総監督と舞台の演出を手掛けたのが「踊る大捜査線」シリーズの本広克行さんということもあり湾岸書がそのまま公安局刑事課3係になったような楽しさでした。生身の人間が殴り合うシーンを多く入れたのは舞台ならではの方法で役者の身体の動きや息遣いをリアルに感じることで人間らしさとはというテーマを伝えたかったのかなと思いました。

 

以下各キャラと俳優さんについて(拡樹さんは最後に)

・嘉納火炉監視官(和田琢磨さん)

もうね、最後はこの人にやられました。最初はスマートで優しい監視官という感じで登場し途中で裏切りが判明してからの表情はただただ悲しかった。笑顔が消え目から光が消え慕ってくれる後輩を腕の中で殺し九泉に手を差し伸べるも拒絶されシビュラに呑み込まれ相打ちで果てる。圧倒的孤独を感じただただ泣けました。

 

・蘭具雪也執行官(多和田任益(たわだひでや…読めなかったー)くん)

背が高く舞台映えするし声もよく通り聞き取りやすい。元マンガ家でオタクという設定で仕草とかひとつひとつ拘ってて拡樹さん曰く九泉のお気に入りらしいんですが二人が一緒にいる絵面は身長差とキャラクターの違いが面白かったです。脚を負傷して引き上げろと言われたのに戻らず最後に九泉監視官を庇って撃たれるところは毎度号泣ポイントでした。SNSにたくさん写真をアップしてくれるのも嬉しかった。ありがとうございます。

 

・相田康生執行官(小澤雄太さん)

初めて見る…と思ってたら劇団EXILEの方で実はHIGH&LOWの達磨一家で真っ赤に髪を染めてた方だった!

海好きのサーファー設定で男臭さが魅力。執行官の中で一番人間臭かったかなぁ。昔の刑事ドラマに出てくるイケメン刑事っぽかったです。ジャケットを肩にかけたりライターをいじったりと小道具を使ったキャラ造形が魅力的。生まれた時から潜在犯という話をホログラムの海辺で九泉と交わすシーンは好きでした。九泉が何かと相田に文句を言うのは実は本来の九泉に一番似ている人だったからなのかもしれないと思いました。冒頭からずっと海に行きたいと言ってたセリフが九泉を庇って銃弾を受ける理由(監査官がいないと執行官は海に行けない)だったのにはやられました(泣)

 

・大城奏人執行官(池田純矢くん)

この舞台での一番の収穫でした。動けるし声も通るし繊細な表現から爆発力のある演技まで幅広く表情も豊かでとても引き込まれました。よかったなぁ。調べたら仮面ライダーシリーズにもたくさん出てるしデビュー直後は「花盛りの君たちへ~イケメンパラダイス」にもでてたんですね。自分で脚本・演出もやったりと才気溢れる方なんですね。騙されてても「後悔してないですよ」「ありがとうございます」と火炉さんに言えるってどういうこと?やっぱ愛なんでしょうか。尊すぎました。

・井口匡一郎執行官(中村靖日さん)

映画「運命じゃない人」の主人公役がめちゃくちゃインパクトありました。他にも「ごちそうさん」やいろいろなドラマや映画で脇役でも印象に残るキャラクターをたくさん演じられてますが舞台で拝見するのは初めて。今回もいい味出してたんですが何と一番最初に死んじゃう役という衝撃的な展開にかなりびっくりしました。えええ…やっぱりいい人は最初に死んじゃうんだなぁ…アニメでいうと縢くんみたいな感じですかね(彼が死んだときもかなりショックでしたけど)

そして何といっても日替わりの「中国語の部屋」!ここでの九泉監視官&主任とのやり取りが毎回楽しみでした。最初は鉄仮面のように「どーでもいい!」としか言わなかった九泉さんでしたが途中から完全に笑ってましたね。貴重な九泉監視官の笑顔が見られる時間でした。拡樹さんてアドリブがあってもあんまり笑ったりしない人という印象だったのですがこの場面は九泉と井口の関係性だったら笑うのもあり、ということにしたのかな。実際、この場面で笑うようになってから九泉のキャラというか3係の中での動き方が少し変わってきたような気がします。

公演後のTwitterInstagramの投稿も楽しく大千秋楽後にキャスト一人ひとりに向けたコメントがとても素敵でした。靖日さんがいてくれてよかったなぁ。感謝です。

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・目白一歩(はじめ)分析官(山崎銀之丞さん)

先日見た「唐版 風の又三郎」で拝見して2回目です。朝ドラ「朝が来た」の炭鉱の親方役が一番記憶にあるかな。今回は分析官なので落ち着いた役どころ。途中「パートナー」というセリフが出てくるのでん?と思ったらパンフレットにゲイの設定と書いてありやはりそういうことかと。アニメでも女性の分析官が女性の執行官と関係を持っていたりするのでそういう役回りなんですかね。この方だけ生き残るというのも何かを示唆しているのかなぁ。パンフレット内の執行官チームの座談会で池田純矢くんは「今回の座組は大人が多くて」と言ってるのに銀之丞さんは「若いお兄ちゃんたちがたくさん」と言っててこれまで経験してきた現場の違いが出てて面白かったですね。銀之丞さんが直前に出てた「風の又三郎」はオーバー60のおじさんたちがキャッキャッしてる座組だったからそりゃ全然違うよなぁ(笑)と思いました。

 

ヒューマニスト三島慎吾(高橋光臣さん)

ドラマでよくお見かけしていましたが舞台は初めて。ドラマではマジメで実直な役で見ることが多いのですが今回はテロ活動を行う過激な思想家の役。名前からしてアニメの槙島を思い出しますがキャラ的にはちょっと違いましたね。堂々として監視官と対峙したときの圧の強さが毎回どんどん強くなり迫力が増していきました。それにつられるように九泉の慟哭も激しくなっていったように見えたし堂々とした三島に跳ね返される九泉が憐れで真実を告げられたあとの子どものように怯えた表情も光臣さんの三島だったからより引き立ったように見えました。カテコでは一転してお茶目な姿で登場しギャップにやられました。

 

ヒューマニスト後藤田希世(町井祥真くん)

名前もお顔も初めて知りました。と思って調べたらこの方もハイローに出てました。WRのメンバーですって…わかりませんでした…すいません。この方は見る度に存在感が増していきましたね。特に途中から物販情報のアドリブをぶっこんでくるようになってから途端に輝きだした(笑)

 最初のアドリブは4/28のマチネでの「トレーディングプロマイドが大盛況」だったかな。どこまでもかっこよかったです。

 

そして最後に九泉晴人監視官の鈴木拡樹さん。

映像で見てきていろいろ想像を巡らせていましたが出てきて最初に驚いたのは声でした。一瞬拡樹さんとわからなくて「え?え?この声??この声がそう??」ってなりました。これまで見た作品でもたいてい第一声に戸惑うんですよ。なんでだろう?そして戸惑っているうちにいきなりの足蹴り!!ひょお!ってなりました。スーツ姿というのも新鮮だったしお行儀悪い感じのアクションも殺陣をずっと見てたから荒々しさにどきどきしました。

初日は動きを追いかけて物語を追うのに精いっぱい。九泉のキャラクターについてあれこれ考えられるようになったは東京公演の最後の方でしたね(遅)というのも表情が少しずつ変わってきたように見えたからなんです。井口パイセンのところで触れましたけど「中国語の部屋」のアドリブで吹き出すようになってから模造記憶を埋め込まれて偽監視官の九泉の仮面が時々外れるようになってきたように思えたんです。最初の頃はシビュラを信奉し執行官との関係性もずっと冷たいままのように見えたんですけど実は舞台以外の場面でも一緒に捜査にあたるときには井口や蘭具に対しては結構素の顔を知らず知らずのうちに出していたのかもしれないというのを見せるようになってきたのかなと。だからこそ井口は最後に爆弾処理に来てくれんじゃないかと思うんですよね。井口の死のあとはその揺らぎが一層大きくなり色相の濁りも激しくなりますがそれに比例(反比例?)するかのように人間らしい感情が表に出始めるのが最後の場面に繋がるのかなぁ。途中、回想場面で母親との会話を思い出すところでスッと表情が模造記憶を埋め込まれる前の顔に一瞬で変わるところは驚きでした。目の表情が全然違うんですよね。レイドジャケットを脱いで表情変わり着るとまた今の九泉の顔になる変化を目の当たりにしたときはひょおぉ…となりました。最後に嘉納と話しながらどんどん表情が晴れ晴れとしてきて刑事としての誇りを取り戻し毅然としてドミネーターを構えると本物の九泉晴人はこういう顔だったのかと思いました。

cocotame.jp

 ↑のインタビューで最初のイメージと180度変わってしまったけど「最初に作っていったイメージも、今回は使わなくても別の場所で生きる可能性がありますし。」と答えてるんですが実は最初の役作りも反映されてるんじゃないかなぁと思いました。

もうちょっと役者鈴木拡樹について語りたいところですがそれは別の機会にします。

 

あとは何より毎回感激したのはカーテンコールでのお姿ですよね。とにかく頭の先からつま先まで神経を行き届かせて観客に魅せることを意識してるんだなとということを強く感じました。それくらい美しかった。九泉晴人を意識したポケットに手を入れたままのお辞儀、手を腰の前に添えてゆっくりと頭を下げる姿、胸に手を当てて王子様スタイルとバリエーションはいろいろありましたが共通しているのはどれも丁寧で心から感謝していることが伝わってくること。表情も柔らかく瞳は輝きこんなに美しい人がいるんだと胸が震えましたね。顔の作りとか見た目とかだけじゃなく滲み出てくるもの全てが美しい。毎回拡樹さんが頭を下げるときに一緒にお辞儀してしまうくらい有難いものを見せて頂いた…という気持ちになりました。

王様のレストラン」というドラマでフレンチのフルコースはデザートの良しあしで料理の満足度が変わるんだ(うろ覚え)というようなセリフがありましたが正にそんな感じ。カテコが極上のデザートのようでした。これが見たくて通ってしまったという面すらあります。ほんとに素敵でした。

 

そんなこんなで平成から令和を「舞台PSYCO-PASS サイコパス Virtue and Vice」で駆け抜けました。楽しかった。続編(みんな死んじゃったけど)、再演でまた彼らに会いたいと切に願っています。