おうちに帰ろう

心茲にありと

「ゴッホ展 響きあう魂 ヘレーネとフィンセント」

 

ゴッホの世界最大の収集家となったオランダの実業家アントン・ミュラーの夫人、ヘレーネ・クレラー=ミュラーのコレクションを所蔵するクレラー=ミュラー美術館からゴッホを中心に近代絵画の作品が紹介されています。

gogh-2021.jp

ゴッホの油彩画28点、素描・版画20点、初期オランダ時代から晩年のオーベル・シュル・オーワーズまでの軌跡をたどります。ゴッホ以外ではミレー、ルノワール、スーラ、ルドン、モンドリアンなど近代絵画の作品20点、ファン・ゴッホ美術館からも「黄色い家(通り)」を含む4点が展示。見ごたえのある展示会でした。

展示会場に入る前のスペースにヘレーネが収集したゴッホ作品のリストが種類別に壁面に記載されていてよく見ると値段がついてます。どの作品だか忘れましたが一番高くて1億円くらいだったかな。素描やスケッチはひと山いくらみたいな感じでグループでまとめられて値段がついてました。当時他の作品がいくらで売買されてたかわからないので価値がわからないのですが、SOMPO美術館にある「ひまわり」が当時の最高額53億円で落札されたことを考えるとヘレーネは早くからゴッホの価値に気づいていたということでしょうか。

展示会場に入るとヘレーネの肖像画がまず目に入ります。ヘレーネの人となりのご紹介。夫アントンは海運業で成功した人物。やっぱりこの時代は海運業ですねー

以前Bunkamuraミュージアムで開催されたバレルコレクションも海運王でしたし。

www.bunkamura.co.jp

松方コレクションで有名な川崎造船か。海運とは違うけどまぁやっぱ大型船舶黄金期でしょうか。

なんてことを考えながらコレクションの展示へ。

まずは

「ヘレーネの愛した芸術家たち:写実主義からキュビスムまで」

ということでゴッホ以外の近代絵画の作品たち。

思った以上にこのコーナーが充実してました!

ルドンの一つ目「キュクプロス」が見られたのがよかったー。目!!

モンドリアンもブラックなどのキュビズムの作品の後に並んでると絵画の再構成とは?みたいな問の一つの答えになってるようで少しだけ理解できたような気がします。色合いが渋めなのが素敵だった。    

あとは初めて見た画家ヤン・トーロップの「版画愛好家(アーヒディウス・ティメルマン博士)」という作品は見入っちゃいました。

blog.livedoor.jp

シニャック、スーラのような点描画なのですが、とても写実的なのに色合いは象徴主義のような色使いで人物が青っぽく描かれてたりとなんとも不思議な魅力のある作品でした。調べてみたら画風がどんどん変わっていった画家のようで、この作品は新印象派象徴主義に影響を受けた時代に描いたのかもしれないです。

このコーナーを見ていてもヘレーネが幅広く柔軟にその時代の優れた画家たちの作品を収集していたのがわかりますが、傾向としては色合いが美しいものという点が共通しているのかなと思いました。

 

そしていよいよゴッホの作品。まずはオランダ時代の素描のコレクション。伝道師を目指していたというだけあって、ゴッホの生真面目な性格を表してるかのようなきっちりとしたタッチ。そして飾り気のない農夫や元娼婦の女性など地に足のついた人たちを描いてます。不器用な性格からなのかモデルの女性を妊娠させたと誤解され、人を描けなくなったというエピソードを聞くと、周りに理解されるのが難しい人だったんだなぁと思います。

オランダ時代に徹底的に素描で描いた畑や森がのちのアルルでの色彩豊かな作品の下地になったことがわかる充実のコーナーですね。   

素描時代を経ていよいよ油彩画に取り掛かります。オランダ時代はまだまだ暗めなのですが、初期に描いた静物画の「麦わら帽子のある静物」は薄目のベージュや黄色を使って思ったより明るめの作品。静物画のように室内で描く作品は比較的明るめで戸外で農夫や畑を描くと暗めになるっていうのも面白い。ゴッホの目にはそう映っていたのかなぁ。

そしていよいよパリへ。

パリに出てきて様々な画家と出会い、自分の作風が古臭いのではと思うようになるかなり作品にも変化が表れます「レストランの内部」では点描を取り入れたりして、様々なスタイルにチャレンジしてたようです。

そして理想を求めてさらに南下、アルルに家を構えます。

アルル時代になると一気に色が増えますね。そして黄色!「レモンの籠と瓶」なんて黄色尽くしです。好きだなーこの作品。そして敬愛するミレーの種まく人をリスペクトして描いたゴッホ版「種まく人」    オランダ時代に描いた農夫の姿とは全く違う描き方ですが、一貫して農夫に対しては「無限の象徴」として憧れの対象である姿勢は変わらないのですね。

アルルに移ってきたのはパリで知り合った画家たちと絵を描きながら暮らすためなんですが、結局来たのはゴーガン一人。とにかく相手に気持ちが伝わりにくいゴッホ。だんだん精神的にも追い詰められてきます。

またアルルの太陽はゴッホの作風に大きな影響を与えましたが強すぎる太陽の光は同時に精神も蝕んだようで、自らサン=レミの療養院に入院し、そこでも作品を作り続けます。 

 

サン=レミの療養院の庭」は今回の展示品の中では一番好きでした。フランスワールドカップでフランスに訪れた際に観光に行き、実際に炎天下の中糸杉のある道を歩いて療養院を見たからかもしれないです。南仏特有の澄み切った青空と乾燥した地面に照り付ける太陽は暴力的でもあるのですよね。暑さに朦朧となりながら歩いたのが強烈に印象に残っています。ゴッホが描いたときの風景のまま残っていました。ポスターにもなっている「夜のプロヴァンスの田舎道」は三日月と同じくらいの大きさで星を描き、神秘的な作品だなぁと思いました。

 

そしてゴッホ美術館からは「黄色い家(通り)」が来日。これ元々来る予定だったんでしょうか。充実のゴッホコレクションでした。

そして音声ガイドはナビゲーターの鈴木拡樹さんとアンバサダーの浜辺美波さんのお二人。浜辺さんが作品紹介で拡樹さんがゴッホの手紙の朗読したり他の画家のセリフを言ったり、前のKIMONO展よりもボリュームもあったし、役として話す部分が多かったので聴きごたえありました。浜辺さんの声も聞き取りやすくてすんなり耳に入って心地よかったです。

 

ゴッホは人気あるので日本中どこかでゴッホが見られる展覧会やってる気がしますが、直近で見たゴッホ展は2019年上野の森美術館の「ゴッホ展」でした。

www.artagenda.jp

 

構成も似てましたけど、個人のコレクターが収集したものだと傾向がまた違うのでいろいろな角度から見れますね。今回はゴッホ以外の画家の作品がよかったなぁ。

何度見てもゴッホの作品には引き寄せられる魅力があるし、長生きして絵が売れるようになったらどんな作品を描いていたのかなぁと思いを馳せてしまいます。

モネも長生きしたから延々と睡蓮を描き続けるなんてチャレンジができたわけだしゴッホだったら何を描くんだろう。

いや、短い生涯を燃焼しつくしたからこその魅力だったのかもしれないし興味はつきないですね。

とてもいい展覧会でした。

f:id:unatamasan:20211011205858j:plain