おうちに帰ろう

心茲にありと

昭和元禄落語心中 第四話「破門」感想

原作の「八雲と助六」篇の其の四、其の五あたりの話になります。

f:id:unatamasan:20181104000324j:plain

今回の演目
菊比古
暁烏
死神

助六
居残り佐平次

第四話の監督は清弘誠さん。今までで一番落語シーンが一番少なかったですね。ドラマ部分に重点を置いて落語は一つの要素になっていました。それはそれでよいのですが山崎育三郎さんの素晴らしい居残り佐平次はもう少し聴きたかったなぁ。岡田くんの明烏も菊比古の中では明るさのある噺なので聴いてみたかった。
余談ですが、先日お江戸@ハート「幕末太陽傳の巻」というイベントで柳家喬太郎師匠のトークと落語を聴く機会があり「品川心中」を聴きましたが、まぁかわいらしかったですね、お染さん。ドラマ監修で岡田くんに稽古をつけててやってみたくなったと言われてたのでこのタイミングで聴けてよかったです。楽しかった。その際に喬太郎師匠は「居残り佐平次」をつい最近までやったことがなかったとおっしゃっててとても意外でしたね。喬太郎さんくらいの方でもそういうこともあるんですね。

 

映像も窓越しだったり木枠の隙間から見せたりとちょっと俯瞰で撮っているシーンが多く菊比古や助六の会話をこっそり覗いているような気分になり面白いなぁと思いました。そして今回も照明がとことん美しい。もう何度でも言いますが暗さが好きです。

f:id:unatamasan:20181103234113p:plain

彦兵衛師匠の部屋の外から

f:id:unatamasan:20181103234359p:plain

死神を演じる菊比古を見る助六目線

今回はドラマオリジナル部分がよかったですね。
特に前回落語の中に自分の居場所を見つけた菊比古が真打になるにはまだ物足りないと師匠に言われて酒に酔って客と喧嘩し協会を除名になった元名人の木村屋彦兵衛に「死神」の稽古をつけてもらうシーンは演じているのがドラマ監修の柳家喬太郎師匠だっただけに実際に岡田くんが「死神」の稽古をしている様子はこんな感じだったのかなぁと想像してちょっと嬉しくなりました。
その際に菊比古の死神について「若いな、いやまだおめえが若いからしょうがねえが」っていう師匠のセリフを言われたときの菊比古の反応がちょっと素の岡田くんが垣間見え、見ている側に岡田くんが落語の素人であることを思い出させ、その上で50代の死神を演じたあとに今初めて稽古をつけてもらう死神を改めて演じているという二重三重のからくりを見るような構成でした。

彦兵衛師匠に「技術だけじゃ真打になれねぇ、師匠やお偉いさんのご機嫌損ねたら一巻の終わりだ」「助六にも伝えておけ」と言わせるのも最後に助六が破門に至る事情に説得力を持たせてました。

他にもみよ吉が菊比古に杖を買って届けたり見受け話があると言ったり酒におぼれて寄席の前で倒れたりといった原作にないエピソードを入れることでみよ吉の菊比古への一途さを際立たせてます。正直原作で読んだときはみよ吉さんは寂しさを紛らわせてくれる人であれば誰でもよかったような印象でした。ドラマでは「菊さんに出会ったのが第二の人生の始まり」と言ってますが原作では「満州で七代目八雲と出会ったのが第二の人生の始まり」となってます。七代目のあとにたまたま出会った菊比古と付き合ってすがっているだけ、ちょっとヒドイ言い方ですけど最初はそんな風に思ってました。

みよ吉に別れを告げるときは感情を押し殺すことができるのに助六に対しては苛立ちや怒りや嬉しさも素直に出せる。助六が菊比古にとっての落語そのものなんですね。みよ吉演じる大政絢さんが「みよ吉は菊さんにとって都合のいい女、そんなみよ吉がかけがえのない存在になるんだけどやっぱり落語には勝てない」と評してましたがまさにその通りだと思います。

f:id:unatamasan:20181103235123p:plain

みよ吉の部屋に別れを告げに行くシーン。この光の当て方すごく好きです。そうそう昭和の家の電球は低いんですよね

f:id:unatamasan:20181103235710p:plain

助六には自分の気持ちはわからないと苛立ちをぶつけるところ

f:id:unatamasan:20181103235913p:plain

その後の指切りではこの笑顔。みよ吉には見せない顔


真打になるためにみよ吉と別れろと師匠に言われて別れを決意する菊比古。片や師匠のやる落語は古臭いとたてつき破門される助六。どちらも落語を愛しているのに全く逆の行動をする二人。これは昭和の時代に落語界が分裂を繰り返したことを重ねているんだなぁと思いました。後の世になってみれば伝統を守る人も型破りなことをやって進化を推し進める人と両方いてこそ文化は続いていくのですが、当事者同士はときに対立してしまうのですよね。菊比古にとってみよ吉は落語以上の存在にはなれなかった。そして助六は常に菊比古の前を歩いていて天才的に落語がうまく人気者で菊比古の持っていないもの全てを持っていると思っていたのに菊比古以上に孤独と闇を抱えていて一人では生きていけない人だった。菊比古も助六もみよ吉もみんなそれぞれひとりになりたくないと思っているのに求める方向が全部一方通行になっているもどかしさ。
思いが結実するには与太郎の登場まで待たないとならないんだなぁと思いました。
第一話で与太郎が破門されるときと今回助六が破門されるシーンどちらも主題歌の「マボロシ」がかかったのですが、助六は落ちていく始まりで与太郎は再生へのステップになるんですよね。とても象徴的だったと思います。与太郎は雪の中で助六は桜が散っているというのも対照的でした。


次回「決別」の予告編ではかつてないほどの切ない顔で助六の背中を掴んでいます。はい、楽しみです。