生誕260年記念企画 特別展「北斎づくし」
昨日(2021年9月17日)閉幕した六本木東京ミッドタウン・ホールで開催されていた「北斎づくし」展にちょっと前行ってきました。
"20歳で浮世絵師としてデビューしてから90歳で没するまでの70年間、常に挑戦を続けて森羅万象を描き抜こうとした画狂の絵師・葛飾北斎。
その生誕260年を記念し、代表作である『北斎漫画』、「冨嶽三十六景」、『富嶽百景』の全頁(ページ)・全点・全図が一堂に会する前代未聞の特別展が2021年7月、東京・六本木に出現します。"
という触れ込みの今展覧会。まぁーーーすごかったです。
葛飾北斎を取り上げた展覧会は常にどこかで開催されているといってもいいくらい様々な取り上げられ方をしています。
記憶に新しいところでは
2019年の新北斎展(@森アーツセンターギャラリー)
北斎の画業を網羅的に取り上げた画業人生まるごとを見せるような展示で質・量とも圧倒的でした。
今回の「北斎づくし」はこれまでの北斎展とは全く違う視点で構成されていて取り上げるのは「北斎漫画」「富嶽三十六景」「富嶽百景」と読本挿絵の「新編水滸画伝/椿説弓張月 釈迦御一代図会」のみ。なんですが、取り上げる点数がえぐい。
「北斎漫画」は全15編全頁を見開きで展示。全ページですよ??へ?ということはそれだけの冊数がないといけない。全頁広げて見せるだけの「北斎漫画」を所有してる方がいらっしゃるんですね。浦上蒼穹堂代表の浦上満さん。この方のコレクションで今回の展示会は成り立ってます。いやーすごい。しかも初摺、後摺で変わってる箇所がわかるくらい複数版所蔵されてるとかすごすぎます。
そして展示方法もすごい。北斎漫画のスペースは上から各編ごとの場面をコラージュした大きなバナーが掲示されて、壁面と床一面に北斎漫画の場面が広がってる。この空間にいるだけで楽しい。
初編から10編でいったんシリーズは完結するんだけど、人気だったのか11~15まで追加で出版することに。しかも15編は北斎没後かなり経った明治11年に出版されてます。よっぽど他に企画がなかったのか。 「森羅万象を描く」という意気込み通りあらゆるものを描いてます。人物、動物、風景、建物といった目に見えるものから神獣や幽霊や妖怪、中国の聖人など見たこともないものも見てきたかのようなリアリティ(何を持ってリアルというかですが)で描いてます。しかも年齢を重ねるごとに筆に力が入ってるように見えます。これは終わらせるのもったいないって思うのも不思議じゃないですね。
ここのスペースだけでたっぷり1時間以上かかりました。いやー楽しいです。
続いて富嶽三十六景のスペースへ。お馴染みの神奈川沖浪裏、凱風快晴、山下白雨始め様々な場所から見た富士山と富士が日常の風景の一部となっている構図で描いてます。諏訪あたりからも富士山見えたんですね。今も見えるんだろうか。
北斎漫画が冊子の中にいるような白い壁面の部屋だったのがこちらは赤一色で浮世絵の保存のためか照明も暗め。円形の部屋を取り囲んで36作+追加で描かれた10作が並んでます。部屋ごとに見せ方が違うのもアトラクションみたいでした。
次の展示の部屋の途中にはデジタルアーカイブコーナーで北斎の作品が壁3面と大型ビジョン数台にアニメーションのように映し出されて絵の中に入ったような感覚になります。
その後は読本挿絵コーナー。北斎の名前が広まったきっかけとなった読本作家曲亭馬琴とのコンビで製作された「椿説弓張月」「新編水滸画伝」などが展示されてます。
劇画タッチの作画で、北斎漫画は今の漫画とは違うけどこちらの読本挿絵は今の漫画に確実に繋がってると思います。光の描き方とかデフォルメの仕方とか。面白いなぁ。
最後が「富嶽百景」のコーナー。三十六景では書き足りずこうなったら百描く!と思ったのか取りつかれたように富士を描いてますね。
中には盃の中に映ってるのとか曇ってる状態とか田んぼに映ったのとか、だいぶ捻ってきてます。描きたいアイデアがたくさんあったんだろうなぁ。
富嶽百景の最後の頁に記された言葉
「己 六才より物の形状を写の癖ありて 半百の此より数々画図を顕すといえども
七十年前画く所は実に取るに足るものなし
七十三才にして稍(やや)禽獣虫魚の骨格草木の出生を悟し得たり
故に八十六才にしては益々進み 九十才にして猶(なお)其(その)奥意を極め
一百歳にして正に神妙ならんか 百有十歳にしては一点一格にして生るがごとくならん
願わくは長寿の君子 予言の妄ならざるを見たまふべし」
こちら75歳のときと76歳のときの版があり年齢が変えてあるのですが、75(76)歳になって少しは物が描けるようになった、86歳になればもっとよくかけるようになり90歳ではさらに奥義を極め百歳になって神妙となり百歳を超えればようやく一人前になるだろう」みたいなことを言っててとにかく長生きしたいという願いが書かれてます。実際、当時としては相当長生きの部類に入る90歳まで生きてますが死の間際にも「あと10年、いやあと5年生きられたら本物の画工になれるだろう」という言葉を残してると言われてます。どこまでも貪欲。だからこをこれだけの作品を残してきたんでしょうね。
脚も頭も目もくたくたになる展示でしたが充実感たっぷりな展覧会でした。