おうちに帰ろう

心茲にありと

三井記念美術館名品展「自然が彩るかたちとこころ」

例年1月に展示されことの多い円山応挙の国宝「雪松図屏風」が今年は展示されなかったので、何でかな?と思っていたらこのタイミングで名品展の開催。しかもこの展覧会後にリニューアル工事のため2022年4月まで休館とのこと。お休みに入る前に会いに行かねばということで行ってきました。

www.mitsui-museum.jp

 

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三井家が所蔵する日本・東洋美術を自然を表現する9つのカテゴリに分けて展示されています。各テーマは以下。

①理想化された自然を表す
②自然をデフォルメして表す
③銘を通して自然を愛でる
④素材を活かして自然を愛す
⑤実在する風景を愛す
⑥文学(物語と詩歌)のなかの自然を愛す
⑦自然物を造形化する
⑧掌のなかの自然
⑨自然を象徴するかたち

 

絵、工芸、能装束など様々な作品の中に取り入れられた花や草木や月などのモチーフは日本や東洋の美術には切り離せないものですね。

 

まずは茶道具などが展示されている展示室1からスタート。

茶道具の中で印象的だったのが竹二重切花入(内側登亀蒔絵)銘清池(覚々斎作)。茶会の際に茶室に飾られる竹の切花入れって詫びさびの極致というか装飾を一切排して竹をそのまま無造作に切っただけのものっていうイメージがあるのですが、こちらは金箔を施した蒔絵仕立てで千利休の頃とは趣が違ってました。江戸時代に入ると装飾的な作品も増えてきたのでしょうか。

 

展示室2に恭しく置かれていたのは本阿弥光悦の「黒楽茶碗 銘雨雲」
お茶を点てたこともないので茶碗の良し悪しを語る知識は全くないのですが、艶やかな黒い茶碗に降りしきる雨のような模様が入ってて大変お洒落。お金持ちの道楽の行きつく先は茶堂具なんですかねぇー三井家も岩崎家(三菱)も競うように集めたのかなぁと思うほど家のお宝を並べた展覧会にはざくざくとお茶碗やら茶入れやらが並びますね。

茶碗は手に持たないと本当の良さはわからない、と言われますが私が理解できるようになる日は来るのだろうか…と思ってしまいます。曜変天目くらい他に類を見ないような作品であれば凄さはわかるのですが。

 

そして屏風絵などの絵画スペースに向かうといらっしゃいましたよー正面にばばんと!

国宝「雪松図屏風」(円山応挙!!存在感はあるのに圧がないのがこの作品の素晴らしいところ。冬以外の季節に見るのは初めてだったのですが、気分は一気に冬の朝。
展示室がキンキンに冷房が効いてて冷え冷えだったのも雰囲気を盛り上げてくれました。いや、きっとカンカン照りで蒸し暑くても見ている時間だけは涼しい気持ちになれたかもしれない。閉館時間が近かったので人も少なくちょうど誰もいない時間があって独り占めできてとても贅沢でした。

しかも「雪松図屏風」のとなりは酒井抱一の「秋草に兎図襖」。秋の野分吹く芒野原と風に向かって勢いよく芒から跳ねだす兎が描かれてて外が夏であることも忘れるほど。野分吹く様子を板目を斜めに張り合わせ、その上に直接絵柄を描いて表現するなんて小粋です。この洒脱さが抱一らしくてとっても素敵でした。

円山応挙は他にも同じ部屋の入口横に「福禄寿・天保九如図」があり、こちらは真ん中に福禄寿を描き両脇に月と太陽を描いた吉祥画題。福禄寿がめちゃめちゃ愛らしく、写実を追求し独自の作風を確立した応挙ですが、確かな技量に裏打ちされた抜け感は一流のお仕事。福禄寿の両脇にうっすらと太陽と月を描いた山水画は淡い色彩が魅力的。工芸の部屋にも応挙の「昆虫・魚写生図」水仙図」の展示があり、写生図は動物図鑑のように克明に細部まで魚や虫の姿を描いてて「水仙図」は淡くて柔らかな風合いの作品。どちらも応挙らしくとても素敵でした。特に水仙は花入れに差すために庭から取ってきてちょいの間畳の上に置かれた様子を描いたようなさりげない作品なんですけども絵の前に立つとすーっとこちらの気持ちが洗われていくようなすっきりとした絵です。とってもよかった。

 

絵画の部屋には先日ニコニコ美術館で中継された静岡県立美術館の「忘れられた江戸絵画史の本流 江戸狩野派の250年」で担当学芸員の野田さんが熱く推していた狩野栄信の「四季山水図」もあり、野田さんが狩野派が長く続いたのは常にアップデートをしていたからというようなことを仰ってて、なるほどこの作品は先日トーハクの東洋館で見た19世紀の中国絵画のダイナミックさに伝統的な狩野派の筆のタッチがミックスしたような堂々たる作品でした。その中に南宋時代の萱草遊狗図(かんそうゆうくず)(伝毛益)をさりげなく入れ込んだりとと模倣と独自性と正統性が見られるいい作品でした。


その向かい側には当初は狩野派に倣いその後円山応挙に影響を受けて写実を重視するようになった猿といえば森狙仙の「岩上郡猿図屏風」川端玉章の「東閣観梅・雪山楼閣図」があり、狩野派と円山派が向かい合う構図になってます。部屋を独り占めした時間に交互に見比べるて眺めたのですが画法の違いがよくわかり面白かったです。川端玉章の雪山は雪松図屏風の雪の描き方に影響を受けてて、木の描き方が狩野栄信とは全然違っててどちらにも良さがあります。森狙仙のお猿さんは同じようにふわふわでも牧谿牧谿に倣った長谷川等伯狩野山雪の愛嬌のある表情の猿ではなく、ザ・ニホンザル!という感じ。地獄谷で温泉入って瞑想してそうなお猿さんです。どちらも好き。

 

そして工芸の部屋でテンションが上がったのが自在置物!!!先日トーハクで明珍宗清作の龍や海老や蟷螂など見てきましたがこちらは高瀬好山作の海老や昆虫たちがずらり。やっぱり海老なんだー!と笑ってしまいました。リアルすぎる!!今にも動き出しそうな立派な伊勢海老でなぜこのような工芸が好まれたのかはほんとに不思議。めでたい席に飾られたんでしょうか。元は甲冑職人だった方たちが需要がなくなった江戸後期から明治にかけて輸出用として多く制作されたそうですが、羽の模様の細かいところまで再現した緻密な作品が人気だったのでしょうか。

 

最後の部屋には能面や着物とともに東福門院入内図屏風や南蛮図屏風が並び華やかでした。東福門院入内図は天皇家へのお輿入れの盛大さが描かれ、南蛮図屏風はやまと絵の技法に金雲に箔押ししてあり、南蛮風を技法でも際立たせてるようでした。

 

空いてたこともあってじっくり見てたらあっという間に閉館時間となってしまいましたが、そのおかげで雪松図屛風を独り占めできたし、いい見納めができました。リニューアル後に来るのが楽しみです。

 

そして美術館に来る前に地下鉄「日本橋」駅B1出口横あたりに設置されている山口晃さん制作の日本橋今昔を描いたステンドグラス作品を鑑賞してきました。

 

prtimes.jp

 

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誰もが通りすがりにみることができるパブリックアートです。

 

今と昔の様子を混ぜて描く山口ワールドに魅せられました。楽しい!

 

そして現在日本橋エリアはオリンピックアゴラとして様々な展示を行ってるんですね。

olympics.com

 

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三井記念美術館のある三井タワーロビーにはメダルを模したオブジェが

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「連帯と協力」のタイトルがついた作品

平日昼間ということもあり人も少なくちょっと寂しかったですが、まぁこのご時世なのでね…本来だったら外国人観光客も大勢訪れるような場所だったのでしょう。そんな中でも大々的に宣伝はできないけど街中にはオリンピックらしい旗やポスターも展示されててようやくあぁやるんだな…という気分になりました。当初の想定とは変わってしまいましたがやるからにはよい大会になってほしいなぁと思いました。