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心茲にありと

古き良き日本の美 渡邊省亭と谷文晁<佐竹本三十六歌仙>

4月25日に東京都に緊急事態宣言が発令され美術館博物館・博物館・映画館・劇場等が軒並み休業となってから1ヶ月。当初は5月11日までの予定でしたが延長され、劇場などは制限付きで再開となりましたが美術館・博物館には東京都から引き続き休業要請が出たため休業中。それでも都や国が運営する美術館以外の比較的小規模の美術館は少しずつ再開され、こちらの齊田記念館も12日より再開されていました。東京藝術大学大学美術館の渡邊省亭展は結局後期展示は公開されないまま終了となったため無念を晴らすべくこちらの渡邊省亭の展示会に滑り込みました。

↓前期に訪問した時の様子はこちら

unatamasan.hatenablog.com

藝大美術館の渡邊省亭展はこちらで堪能しました。解説の古田先生が熱かった!これを踏まえて後期展示見たかったなー。巡回展は無事開催されますように!

 

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今回の展覧会、齊田記念館では2018年の渡邊省亭没後100年に渡邊省亭・水巴の父子の絵画と俳句をテーマに特別展を開催し大きな反響があったそうで、東京藝術大学大学美術館で渡邊省亭展が開催されるのに合わせて初公開の省亭作品を中心企画。その他谷文晁模写「佐竹本三十六歌仙絵巻」と併せて古き良き日本の美を感じる展覧会となっています。

 

初めましてのこちらの記念館。小田急世田谷代田駅から徒歩9分。環七通り沿いに入口があります。うっかりすると通り過ぎてしまいそう。

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控えめな入口

階段を上ると視界に入ってくるのは立派な門構え。中世から続く齊田家のお屋敷です。

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ザ・お屋敷!

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長ーい塀

並んでる椅子は何のため?と思っていたら入場制限かかったあとの待機列用でした


交通量の多い環七沿いにこんな立派なお屋敷があるんですね。記念館はその手前にこじんまりとありました。ドアを開けてるとチケット売り場があり検温して入室。チケット代が300円というのがアットホーム感がありますね。

 

展示室に入る前の廊下のどんつきにまず最初の展示品「あやめ」があります。驚いたことにガラスなしでむき出し(言い方)で展示されててちょっとドキドキしました。省亭の命日花鳥忌に寄せて製作された色備前牡丹蝶香合が絵の前に添えられていました。省亭が好んで描いた牡丹と蝶をモチーフにした香合なんて洒落のめしてるなぁー。こちらの「あやめ」を初め初公開作品が12点も!芸大美術館の渡邊省亭展にも齊田記念館から出品されてる作品も多く、かなり所蔵されてるのですね。省亭は画壇とは距離を置き、個人客の依頼で作品を制作していたようなので齊田家はかなりいい顧客だったのかもしれないですね。

 

花鳥画」の印象が強い省亭ですが、今回の展示では花鳥画以外の作品も多く点数は少ないですがいろいろな省亭の作風が楽しめる構成でとても充実してました。

省亭が暮らしていた浅草と対岸の向島を行き来する隅田川の渡し舟を季節ごとに描いた「春雨」「雨中渡舟」「雪の渡し舟」は構図がほぼ同じで
春には桜と舞い散る花びらとまっすぐに降る雨を、初夏には萌えるような青い柳に霞がかかりぼんやりと霧雨が降る様を、冬には雪が積もる木の枝と遠く飛び立つ鳥で空の高さを描き分けていて、きっと季節ごとに床の間に飾る掛け軸を架け替えて楽しんでいたのだろうなぁと思いました。秋がまだ見つかってないようなのですがどこかの蔵から発見されないですかねー。

 

変わったところでは十二支の「未」を描いた作品。タイトルは「未」なのですが、十二支の未は日本でいう「羊」ではなく山羊のことだそうで描かれているのも山羊でした。くるんとした角に涼やかな目元、めっちゃイケメン(雄でいいのかな?)な山羊さんで省亭が描く動物はどれも写実的なのですがこの山羊は写実的なだけじゃなくて佇まいに気品とても気品がありました。未年に飾るために制作されたようなのでお正月らしくちょっとよそいきだったのかしらと思って見たり。

今回の展覧会のアイコンにもなっている「重三(さざえ)」は蛤の入った籠に栄螺が並べられてて奥には桃の花が控えめに描かれてます。ということはこちらは雛祭りにちなんだ作品だそう。雛を描かずに「上巳(じょうし)の節句」を表現するという小技の効いた作品。芸大美術館の省亭展にはそのものずばり「雛」という作品があったのですがこちらひな人形を取り出した箱と一緒に描かれてて何か一芸かましますね。というかかましてるわけじゃなくてむしろいかにもーという感じで描くのが好きじゃないんでしょうね。ふとした日常の中にあるものを描いてたんだろうなぁ。そういう意味での写実派なんですね。ちょっとフェルメールを思い出しますね。

 

あと意外だったのが孤高の画家と言われ、画壇と距離を置いていたのであまり他の画家との交流がなさそうに思える省亭でしたが同時代の画家との共作が2点ほどあって全く交流がないわけじゃなかったんだなって思いました。「梅蓮菊蟹図」は村瀬玉田、松本楓湖、小林永濯(えいたく)との共作で省亭は蓮を担当したとのこと。「花鳥図」川端玉章、望月金風、大出東皐(おおいでとうこう)、瀧和亭、荒木寛畝、跡見玉枝、野口小蘋(しょうひん)、村瀬玉田、酒井道一との共作で省亭の担当は雀だったそう。どちらも得意なところを任されたのか自ら進んで描いたのか(この手の共作ってどうやって書く場所とか分けるんでしょうね?)どちらもらしいなーと思いましたがやや自作に比べると控えめなのかなって思いました。

省亭が監修した「美術世界」や「省亭花鳥画譜」などの出版物もかなり保存状態がよく色鮮やかでとてもよかったです。
箱書なども展示されていて大切に所蔵されてきたんだなぁというのが伝わりました。

 

もう一つの展示、谷文晁模写の<佐竹本三十六歌仙絵巻>鎌倉時代に制作された秋田藩・佐竹家に伝わる元は上下2巻からなる絵巻物の写しです。本物は今では各歌人毎に切り離されて掛軸装に改められて様々な美術館や個人所有になっているようです。今回はそのうちの一部が展示されてます。原本見てないのでわかりませんが、こちらの作品はかなり色鮮やか!特に小野小町斎宮女御などの女流歌人十二単衣が赤や緑がくっきりと金の刺繍模様も綺麗に描かれています。解説によると原本はかなり色落ちしているそうなので模写とは言え谷文晁作として見るととても見ごたえのあるものだと思います。いい作品をお持ちなんだなぁ。齊田家。

 

そしてへぇえと思ったのが齊田家は茶畑を所有し製茶業を営んでおりその様子を狩野派の絵師狩野甫信(よしのぶ)が描いた「製茶絵巻」という作品も所蔵されてるそうです。今回はパネルで見るだけでしたが。お金持ちの家に行くと狩野派の作品に出会うあるあるでした。

明治期には日本茶の輸出業も行っており当時の蘭字風ラベルが描かれた日本茶ティーバックも販売されてました。次回展示会は「蘭字―知られざる輸出茶ラベルの世界―」だそうです。これも面白そうだなぁー知らない世界です。

saita-museum.jp

 

美術館全般が通常営業に戻るのはいつになるのかわかりませんが少しずつ行けるところからぼちぼち行こうかなと思います。

こんなニュースもあり

 

あぁー生きてるうちに全4巻見られるときが来るんだろうかと思った身としては嬉しい限りなのですが、緊急事態宣言がさらに延長されるという報道もあり先行きどうなるかわかりません。

bijutsutecho.com

 

こちらの記事にある通り緊急事態宣言が出されている都道府県では各自治体ごとに対応を決めることができるため文化庁がOKといっても都がNGを出せばそちらの要請の方が強いわけです。なので文化庁は声明を出すだけじゃなくて都に美術館の感染対策の在り方を伝えた上でを開館を求める交渉をしてほしいと思います。

 

余談ですが上のインタビューはあらゆる組織における施策を推進するための課題について言及されてて自分の今の仕事と重ね合わせてとても頷ける内容で大変勉強になりました。