おうちに帰ろう

心茲にありと

平清盛完走後の感想

2017年2月20日からCSのチャンネル銀河にて始まった

大河ドラマ平清盛」(通称”銀河盛”)

の放送が4月28日に全50話放送終了しました。

2012年にNHKで本放送があったときも一部熱狂的なファンが

Twitterなどで盛り上がり、視聴率が悪いという評判ばかりが目立ちましたが

再放送を熱望するファンは多く

念願かないチャンネル銀河への登場となりました。

月~金の週5日の放送。

毎日見た場合、身体が持つのだろうかと不安になりましたが

無事完走しました。

 

今回、銀河盛にあたってここを見ておきたい、確認したいという

ポイントが3つありました。

 

  1. 源氏の描き方
  2. 源頼朝岡田将生)の語り
  3. 岡田将生の演じる源頼朝

 

1.について岡田くんを追いかけるようになって手元にあった

平清盛」を最後の3回程度見返したときに源氏の描き方がとてもあっさり

しているように見えたんですね。まぁ清盛の話なんでしょうがないと思いつつ

前半の熱量と比べると物足りないような気がしたんです。

わざわざ頼朝を語り部にしている割には扱いが雑なんじゃないかしら…と

少し疑問に思っていたのです。なので最初からちゃんと見たらどうなのか。

確認してみたいと思いました。

 

2.について、私は知らなかったのですが、当時ナレーションについて批判的な

声があったらしいのです。あんまりナレーションの良し悪しについて気にしたことは

なかったのですが、大河史上最年少ナレーションと話題にもなったようなので

改めて着目してみました。

 

3.については見ていたにも関わらず覚えていることといえば、縁側で笙を吹く姿が美しいこと、いつまでも陰気臭いこと、「立ち上がれ!源氏の御曹司!」「共に参ろうぞ、まだ見ぬ明日へ!」と政子に尻を叩かれる雨中のプロポーズの気持ちよさ

(このシーンは大好きでした)

くらいで、挙兵して以降の記憶が全然なく、少し前に後半だけ見返したときも

それほど魅力的に思えなかったんですよね。(ほんとごめんなさい)

源氏の棟梁をどのように演じていたのか物語全体を通して見てみたいと思いました。

 

うっかりすると終わらない話を延々書いてしまうのでできるだけ

簡潔に書いていきたいと思います。

 

1.源氏の描き方

 

これについては源氏、平氏(平家)と分けて考えることに意味がないということに

気づきました。

メインテーマが「武士の世を作る」であり、平安末期から始まる武士の勃興と混乱の時代を平清盛を中心に切り取った話であったのだなと。

平氏は清盛の祖父、父の代から王家に仕え武士が力を得るために様々な手を尽くし、引き継いだ清盛は新しい世を作ろうと海に出たり西へ行ったり海賊たちと手を組んだりと施策を行います。

 

同時代に力を持ち始めた源氏勢も平氏と対立しながら同じく頂きに登ろうともがき続けます。清盛と源義朝は時に手を組み、やがて決別し、源氏は平氏によって滅亡寸前となりますが、奇跡的な温情により嫡男頼朝と牛若が別々の場所で生きながらえます。

それは武士の世を作るという目的においてはリスクヘッジみたいなものだったのでしょう。

(清盛本人に自覚はないだろうけど)

宋との交易で財を築き、平家は財力を武器にのし上がっていきますが

性急すぎる改革はとかく軋轢を生むもの。結局身内すら清盛を理解できなくなり

清盛自身も迷走し孤独の闇に落ちていきます。

平家が栄華を謳歌しているときには伊豆で廃人同様の生活をしていた頼朝が

闇に沈む清盛と入れ違うように目覚めるのは当然の流れ。

時代が変わるときには様々な偶然とも思える必然があり、頼朝を生かしたことも

流れた先が伊豆(東国)だったことも(思えばなぜ伊豆に流したのか。西国だったら

東国武士の後ろ盾がないので頼朝は挙兵できなかったのではないかとも思えます。)

全ては必然。平家が権力を掌握するさまと一蓮托生といいながらも一門がバラバラに

なっていく様子は、平家のあとに源氏が権力を握ったときにも起こり得ることを

暗示させます。実際に平家滅亡のあと頼朝は義経を滅ぼし

「弟の屍の上に武士の世を築」きます。これは祖父為義が義朝に言ったことでも

あり、清盛がしてきたことでもありました。

平家物語を貫く「諸行無常」「盛者必衰の理」そのものです。

 

最終回、清盛が亡くなってから壇ノ浦で平家滅亡、その後源氏で義経追討までが

ものすごく駆け足だったのは「武士の世を作る」一過程を通り過ぎただけだったから

なのかなと思いました。

なので、うん、源氏の描き方は雑ではなかったなと。

(とはいえ本当は義経と頼朝の件はもう少し掘り下げたかったんじゃないかな

思った以上に平家パートに力入っちゃったのかなという気もしています)

 

2.源頼朝岡田将生)の語り

 

今回の見直しでの発見の一つがこの頼朝のナレーション(ナレ朝)の面白さでした。

初回の語りは声に張りもなく硬く、いかにも若者の一人語りといった

感じでイマドキの映画のようで全く大河っぽくありませんでした。

いや、最後まで大河っぽい感じはなかったですね。でも回を追うごとに

「頼朝が語っている」妙が出てきて、特に前半の源氏方の祖父為義や義朝に対する

ダメ出しっぷりは思わず笑ってしまうこともたびたび。

母である由良御前について「報われない人」とまで言い切り、愛あればこそなんですが

だいぶひどい言い方でした。

反面、崇徳院の最期は「何一つ何一つ思うままにならなかった人生を生き切った」と

優しさをのぞかせたり、これまでのナレーションと違い、主観が混ざるところが

新鮮でした。また頼朝目線なので朝廷方の出来事について

「~なさった」「~あそばされた」という敬語になるのも好きでしたね。

源氏が勢いを増してからは口調も少し早口で弾むようになったり、時々の状況に

合わせて皮肉っぽかったり、楽し気だったり、諦観を滲ませたりと

姿は見えなくても「頼朝がいる」ということを見る側に伝え続けました。

最終回、「かくいう私もこの9年後に死に…」と来て、そうかーあの世から語っていたのかと、構成の巧みさに恐れ入りました。

ナレ朝語りも「平清盛」の魅力の一つだったと思いました。

 

3.岡田将生の演じる源頼朝

 

何だかんだ言ってこれが一番の目的でした。

初回冒頭から岡田くん演じる頼朝は登場するのですが

壇ノ浦で平家が滅亡するという知らせを受ける場面なので

すでに棟梁になっている頼朝のはず。なんですが

棟梁に見えない。一生懸命メイクして彫りを深くして

少し貫禄だしてみたりと工夫はしているようなんですが

若武者っぽい印象が残ってしまってます。

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これはねー、やっぱり大変だと思うのですよ。

まだ頼朝の生涯を演じてないところからいきなり棟梁やれって

言われてもなー。まぁそれをどうにかするのが役者の腕なのかもしれませんが

ちょっと残念な感じでした。(ごめんね)

その後しばらくはナレ朝としての存在がドラマにおけるエッセンスとなり

楽しませてもらっている中、いよいよ第三部「伊豆の流人」で

青年頼朝として登場します。その前に少年頼朝を演じた中川大志くんが

見事な頼朝を演じた後だったので、どんな姿で現れるのか

知ってはいるけどドラマの進行の中で楽しみに待ちながら見るのは初めて

だったので結構胸が高鳴りました。

 

後半頼朝は様々に変貌を遂げます。

 

八重姫も一目ぼれする美形の姿

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鶴丸を殺されて廃人のようになる陰気な姿

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政子に押しかけられての雨中のプロポーズ

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源氏の棟梁として立ち上がる準備をする姿

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挙兵した武士の姿

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源氏の棟梁として東国武士をまとめる姿

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清盛と対面して武士としての腹を決める姿

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最後、後白河院に謁見する姿は武士の棟梁そのもの。

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初回の冒頭に出てきたやや無理のある棟梁姿とは

全然違います。

 

変貌する過程で、遠く離れて姿は見えない清盛と通じ合い

はるか昔に清盛が鳥羽院に放ったエアアローが頼朝に刺さり

武士の魂を受け継ぐシーンなどがあり

一度は分かれた平氏と源氏の道が一つになる瞬間がありました。

源氏の描き方が雑だなんて思ってほんとすいません、て感じでしたね。

そして1周目に見たとき、その後見返したときに魅力的に見えなかった

自分はなんと節穴だったのかと思いました。

平氏方とは対面がない中で清盛に思いを馳せながら

源氏の棟梁としての決意を固めるまでの心の揺らぎ。

決意を固めてからの凛々しさ。声の張り方。

青白き弱弱しい苗が見事に実るように変貌しました。

内面の弱さを押し殺しながら棟梁たらんとする姿を

丁寧に演じられていたと思います。

立派な頼朝でした。

岡田くんが頼朝を演じてくれてよかった。

頼朝とともに岡田くんも一緒に成長していたのかなと

しみじみ感じ入りました。

 

最後に

今回改めて最初から通して見たことで気づいたことがたくさんありました。

武士の世を作るというメインテーマを彩る沢山のサブテーマ

父と子、夫婦、兄弟、友、主従、いろんな関係が絡み合い

繫がりあって大きな幹に豊かな枝葉を茂らせ見事な大木として

根をはっているのだなと思いました。

緻密な人物構成の反面、物語のペース配分には少し乱れが

あったように見えましたが、それこそがこのドラマの魅力なんだと

思います。完成されすぎず、型にはまらず、はみ出た部分も多いドラマ。

平清盛そのものだったのではないかと。

見返すたびに色々な発見ができるドラマだと思います。

また夏にも放送されるようなので、暑い夏に熱いひとときを過ごすことに

なりそうです。