おうちに帰ろう

心茲にありと

イサム・ノグチ「発見の道」展

本日8月29日最終日に駆け込みました。

 

isamunoguchi.exhibit.jp

 

日時指定予約制なので、行列ができることはないですがそこそこ混んでましたね。彫刻なので比較的自由に見られるのであまり気にはなりませんでしたが。

3つの章立てで1フロアごとにテーマを変えて展示されてます。

入口のあるフロアは

第1章「彫刻の宇宙」

真ん中に代表作「あかり」をたくさんつるしたインスタレーションがあり周囲に大小さまざまな彫刻が並ぶ空間は美しくて楽しい。素材もブロンズや石を使ったものなど様々。「お地蔵さん」というタイトルの作品は田舎道にポツンとおいてあっても違和感なさそうな素朴な作品で好きだったな。戦前(1940年代ころ)の作品はパーツを複雑に組み合わせて鳥や化身など構築的な作品が多く、花崗岩を使うようになってからは原初的な作品になるのも面白いです。

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花崗岩を使った「黒い太陽」と「あかり」のインスタレーションの組み合わせ

続いてひとつ上のフロアが

 

第2章「かろみの世界」

 

父の祖国である日本の伝統的な折り紙や切り絵に影響を受けたような作品が多く、ブロンズを板状にしたものを組合せた作品群が並びます。そして「軽さ」に注目して制作された「あかり」会場内のモニターで流されてた生前のイサム・ノグチのインタビューでは「僕の作品は高いからみんな買えないけどこれなら買って手元においておけるでしょ。それがいい」みたいなことを言ってて日常の中に取り入れられるアートを意識されてたようです。実際、この「あかり」は今でも普通にお洒落なインテリアショップに売ってますしね。

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コンランショップとかにありそうな「あかり」の数々

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「プレイスカルプチェア」座ってみたい!!つるつるして気持ちよさそう

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「秘密」なかなか意味深

 

そして最後のフロアは

 

第3章「石の庭」

 

第1章、2章まではオール撮影OKでしたが、ここのフロアは撮影NGでした。香川県牟礼にあるイサム・ノグチ庭園美術館の野外アトリエに残された作品を初めて美術館内に設置するという試みだそうです。ほとんどタイトルが「無題」となっていて、作品というより大地の一部のようなものなのかなぁと思いました。花崗岩の産地である牟礼にアトリエを構え、そこで出会った石匠の和泉正敏さんとコレボレートした作品群は、大地の一部でもあり、芸術作品としての力もあって、ずっと見てても見飽きないいような作品ばかりでした。
つるつるに研磨したシャープな面とごつごつした石そのままの部分を残した作品は人と自然の調和を表してるような気がしたり。
牟礼の野外アトリエで見ると全然違って見えるんだろうなぁと思いました。

最終日になんとか見られてよかったです。

 

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特別展「聖徳太子と法隆寺」

今年が聖徳太子の1400年遠忌にあたるそうです。これを記念して聖徳太子関連する宝物やが太子が建立した法隆寺の宝物を集めた展示会。主に6~7世紀にかけての作品がほとんどで、仏教が伝来し信仰を集め普及する初期の段階でのお宝の数々。

 

tsumugu.yomiuri.co.jp

 

めちゃくちゃよかったです。飛鳥時代仏教美術の素晴らしさを知りました。

日時予約制ですが当日券もかなり出ているので土曜日でしたがふわっと行って入れました。

今回の音声ガイドは会場でレンタルできる専用のガイド機のもの以外にスマホアプリで聴けるものと2種類あり、スマホ版は期間内であれば何度も聴けます。

スマホアプリは↓

www.acoustiguide.co.jp

 

料金も660円でレンタルとほぼ変わらず。他の美術展でも見たことあるのですがイヤホンを持参してなかったりで使う機会がなく、今回初めて使ってみました。

家に帰ってからも聞き返せるのがよいですね。どんどん増えるとよいなあ。

 

ということでアプリをダウンロードし場内に入ります。第一会場に入るとまず聖徳太子と仏法興隆」というテーマのお部屋。

 

すぐに目に留まったのが今の諭吉さんの前の一万円札の顔でお馴染みの聖徳太子二王子像の模本。江戸時代に狩野<晴川院>養信が描いたものなんですね。聖徳太子といえばこの顔!というくらい有名な絵です。原本は皇室の御物となっているそうですが、この肖像画聖徳太子ではないのでは?という疑問もあるそうです。

 

www.yomiuri.co.jp

すっかり聖徳太子の顔として認識してましたけど誰が描いたかもはっきりせず謎が多いんですね。

 

聖徳太子愛用の文房具として墨床、水注、匙の3点セット(全部国宝)が展示。墨床は、すりかけの墨を置く台。水注は、水滴ともいい、水をすずりに注ぐための道具。3本の匙は、伝来では水注から水をすくい、すずりに入れる文房具らしいです。すべて7世紀ころに朝鮮半島もしくは中国から伝来したとのこと。墨床は花の文様、水注は鳳凰の模様、どれもとても優美。これで写経をしたためていたのかと思うと何だか優雅だなぁ。いや実際に仏教を学ぶのはとても大変だと思いますが。

 

続いては法隆寺の創建」のコーナーで創建当時の法隆寺の宝物がずらり。中でも現存する日本最古の刺繍「天寿国繍帳」(国宝)はもうあちこち擦り切れて今にも崩れ落ちそうなのですが、豪華な刺繍が施された面影とともに大事にしなくては!と思わせる名品。付属の裂もセットで国宝。この手の古裂を見るたびに、「断捨離」とかでばんばん捨てずにちゃんと取っておかないとだめなのねと思います。だって価値のわからない人が見たらだたのハギレですよ、言うたらね。だけど国宝ですから!どこにあって、どういう意図で製作されたものかちゃんとしかるべき場所で伝えていかなきゃだめってことです。

 

そしてずっと見てみたいと思ってた灌頂幡(かんじょうばん)!幡(ばん)は寺院の堂の内外を飾る荘厳具(しょうごんぐ)の一つで、古代の幡の多くは染織品らしいですが、こちらは金銅製。細かな透かし彫りの唐草模様のような細工ものでつるすと10m近くにもなるそう。こちらもトーハクの法隆寺宝物殿所蔵なんですよね。今まで見てなかったの勿体なかったなぁ。

emuseum.nich.go.jp

 

面白いというか初めて聞いた言葉(まぁたくさんそういうものはあるんですがその中でも)でへぇええと思ったのが「伎楽装束 裳残欠(ぎがくしょうぞく も ざんけつ)」で、伎楽(日本の伝統演劇のひとつだそう)の衣装のほんとに切れ端(言い方)です。元はこんなデザインでしたというイメージ画の上に展示されてて、巻きスカートのようなものが2枚重ねになってて短い方を上に重ねて着てたみたいなんですが、それを「褶(ひらみ)」って言うんですって!!「ひらみ」といえば舞台刀剣乱舞 无伝夕紅の士に登場する如水の衣装のスカートのひらひら感!あれをひらみひらみと呼んでたんですけど、ほんとに「褶(ひらみ)」って呼ぶ衣装があったんですね。びっくりしました。

cpcp.nich.go.jp

 

あと先日「三菱の至宝」展でも見た百万塔と陀羅尼もあり、残存している3万いくつかのうちの一部が展示されてました。法隆寺の宝物として展示されてるのはとても正しい気がします。岩崎家のもとに渡ったのは廃仏毀釈の影響なんですかねぇ。

 

そして次の部屋に行くと色んな聖徳太子がいっぱい。数えで2歳の頃の聖徳太子立像はシルエットはまるまるした子どもの姿なんだけど、お顔はキリリとめちゃくちゃ賢そう(賢いのレベルが違うけど)。孝養像(きょうようぞう)と呼ばれる16歳の頃になると角髪(みずら)に結った飛鳥時代の若者らしい姿でどこか中性的でもあります。美少年だったのかなぁ、やっぱり。

少年期まではそんな感じなんですが国宝聖徳太子および侍者像」になると牙笏(げしゃく(一万円札の聖徳太子が持ってる長いお札のようなもの)を持ってすっかり威厳のある為政者の顔になってます。こちらは500年遠忌に制作されたものなので平安時代聖徳太子信仰の高まりがわかる作品です。X線で像の内部を見ると経典が3種類入っててその上に台座をおき観音菩薩が入り太子の口のところに顔があり太子が経典を説いてるようになるそうです。
普段は厨子の中に入ってて扉が開くのは年に数回。近距離で見る機会も滅多にないので大変貴重な機会だとか。ありがたや。

 

続いて第二会場へ。

こちらは法隆寺の宝物を中心に展示されてます。まずは東院の御物。聖徳太子ゆかりの七種宝物のうち6種が展示されてます。(後期には7種揃うそう)

 

www.tnm.jp

 

聖徳太子信仰で使われていたものということで平安時代以降の制作年となっています。その中でやっぱり信仰心が篤い人はやることが違うと思ったのが「梵網経」という紺地に金で描かれた写経があり、注目は文字の部分ではなく表紙部分に貼られた「何か」。

これ聖徳太子の手の皮と伝わってるみたいなんです。何でそんなもの??と思ったら「「梵網経」に写経のあり方として「皮をはいで紙となし、血を刺して墨となし、髄(ずい)をもって水となし、骨を折って筆となす」

という壮絶な方法が記されていることに由来」しているそう。(ブログ内に記載)今だったらそんなこと言われたら「こわい~」って評判になりそうですが、本来宗教ってそういうもんなんだろうなぁと思います。何ごとも信じることから。ひえぇ。

 

聖徳太子は歴史上の人物ですが太子信仰が広まったことで、いやいやいやという伝説もあり、次の部屋は聖徳太子が数え2歳(今でいう1歳)の折、「南無仏」と称え手を合わせたところ、その手のひらから出現した仏舎利の内部を再現したもの。そのときの様子が聖徳太子像とともに手のひらから零れ落ちた水晶とミニチュアの仏舎利とともに展示されてます。信仰の対象となると伝説のスケールが意味不明にでかい。昔は事実と伝説の境目がなかったんでしょうね。面白いなぁ。

 

最後の法隆寺金堂と五重塔の国宝群のコーナーに行く手前にあるのが行信僧都坐像。行信は聖徳太子亡き後一時的に荒廃した法隆寺を再興して東院を興した人だそう。吊り目が印象的ですが、柔らかな衣のシルエットなどは脱活乾漆造ならではの造形なのかな。同じ乾漆づくりの木芯乾漆造の聖林寺の十一面観音立像を見ましたが表面に箔がない分、こちらの方が素朴な味わい。観音様のような信仰の対象じゃないからかな。

 

そしていよいよザ・法隆寺(何それ)なエリアへ。
四天王のうちの広目天多聞天鎌倉時代以降の筋骨隆々とした像に比べると、軍師という趣。三国志あたりに出てきそうな風貌で中国から伝来してきた当時の人々の受け止められ方と時代が下って武士が台頭してきた時代に求められる像が変わってきたからなのかなぁと思ったりしました。

その他金堂天蓋の付属物の鳳凰や飾金具など、どれもこれも国宝で、法隆寺の存在そのものが国宝なのでそれを構成するパーツ全てがお宝ってことですよね。まだ日本の文化と融合しきる前のもう少しオリエンタルな要素が強い装飾品が多いですね。すごくシルクロードを感じます(ざっくり)仏教文化でありながらイスラムの雰囲気も漂わせててより起源に近い感じです。

 

教科書で見たことある薬師如来坐像は思ったより小ぶりでした。少し微笑みをたたえた表情は穏やかで親しみを感じさせます。こんなお顔だったのかぁ。むしろ驚いたのが台座の方。最初厨子なのかと思ったら扉はなく直径2mくらいある四角い箱です。その上にこちらの薬師如来さまは普段鎮座しているそう。今回の展示では正面からお顔を拝見できますが、実際には見上げるような高さにあるわけですね。親しみやすい表情と思ったけど、見上げるような場所にあったらまた見え方違うかも。現地で見てみたいなぁと思いました。

 

最後には阿弥陀如来および両脇侍像(伝橘夫人念仏)とその厨子が別々に展示されます。本来は厨子の中に納まっている阿弥陀如来および両脇侍像ですが、出されているので全体を近くで見ることができるという素晴らしさ。こちらも思ったより小ぶりですが文様が美しく個人が念仏と唱えるために大事にしてたんだなぁと思いました。

 

いやーーすごかったですね。

 

各所蔵品の装飾が繊細で仏像のお顔も美しく11世紀以降の美術とは全然違うものでした。

 

もう、あほみたいな感想なんですけど、平安後期の11世紀あたりから遡って聖徳太子が冠位十二階を定めたり憲法十七条を制定してた頃は500百年も前なんですよね。令和の今から500年前って室町時代なんで、平安時代の人たちからしても聖徳太子は偉人中の偉人ってことなんだなぁと。

よく目にする機会の多い美術品も平安時代以降の作品が多く、それより前だともっと昔の古墳時代になったりとか中国や古代ギリシャとか紀元前○○世紀なんてのもありますけど、飛鳥時代って残ってるものが少ないことや法隆寺周りに限定されててなかなか見る機会が少ないとかいろいろな事情から馴染が少ないのですが、まとめて展示されているとこんなに美しいものがたくさんあるんだ!と感動しますね。

いや、トーハクには法隆寺宝物館がありほんとはすぐ見られるところにあるんですが毎度他の場所に時間を取られて行けないまま。(施設内のカフェには行ったことあるんですが…)

近いうちにちゃんと時間取ってじっくり見たいと思いました。

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後期には展示が入れ替わるそうなので、また行ってみたいと思います。


同時開催で「スポーツとNIPPON」という企画展も同じ平成館で開催されてて古代からの日本人がスポーツ(と分類されるもの)との関わりと近代以降はオリンピックでの足跡を追う展示がありました。

 

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大河ドラマ「いだてん」に登場した金栗四三が履いたマラソン足袋や三島天狗こと三島弥彦のユニフォームや1964年の東京オリンピックのポスターや日本で開催された東京、札幌、長野のオリンピックのメダルなど興味深いものがたくさん。冬季札幌オリンピックのメダルは初めて見たんですがとてもモダンなデザインだなぁと思ったら田中一光デザインだったんですね。どうりでかっこよいはずだわ。

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最初に出場したストックホルム大会、次のアントワープ大会のもの

最初は地下足袋そのものなんですが少しずつ改良が加わってきています

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陸上短距離に出場した三島弥彦のユニフォーム

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札幌五輪のメダル。スッキリしたデザインが素敵

 

総合文化展に移動してこれだけは見なくては!!と見に行ったのが国宝部屋の「平治物語絵巻 六波羅行幸巻」久しぶりに見たのですが、構図といい各人物の表情といい引き込まれますね。「三菱の至宝」展後期に同じ平治物語信西巻が展示されるのでこちらも楽しみ。

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繋げて見てほしいんだけど…



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写真じゃなかなか伝わらない躍動感~

 

やー今回もまた時間が足りないトーハクでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

三菱創業150周年記念ー三菱の至宝展

なんか…すごかったです…

 

三菱創業者の岩崎彌太郎、2代目の弟彌之助、3代目の彌太郎の息子久彌、4代目の彌之助の息子小彌太の各氏が収集した美術品はそれぞれ静嘉堂文庫(岩崎彌之助設立)、東洋文庫(岩崎久彌設立)に収蔵されていてその中から今回国宝12点、重要文化財31点が展示された展示会。三菱一号館美術館にて。

 

mimt.jp

 

明治期に海外に流出してしまうのを防ぐために大量に買った刀剣とかモリソン文庫まるごと買うとかお大尽ぶりがただただすごいしそのおかげで私たちは目にすることができる。
美術品を見るのって奇跡を見てるのと同じことだといつも思うけど今回は特に実感しました。
三井のお宝を見た後に三菱のお宝を見ると古典籍の点数の多さが群を抜いてて、明治維新まで武士であり、その後西洋式の会社を設立したバイタリティで自分が学んできた書物を大人買いしてるような感じがします。
江戸時代から商人一家で三井11家で連帯して商いを行う中で集めてきた収蔵品とはセレクトする基準が全然違ってて面白いなぁと。

展示内容の章立ては以下の通り。


第1章 三菱の創業と発展ー岩崎家4代の肖像
第2章 彌之助ー静嘉堂の創設
第3章 久彌 ー古典籍愛好から学術貢献へ
第4章 小彌太 ー静嘉堂の拡充

 

まぁーーー各章ともすごくて書ききれないのですが、今回私が一番胸にズシっと来たのは3章の東洋文庫コレクションでした。今まであまり馴染のなかったモリソン文庫の東方見聞録とか、中国の「史記」の写本とか、チベット大蔵経とか、古い日本地図とか見たことないものがたくさんあり、日本、アジア、ヨーロッパで書物や印刷物の成り立ちとか内容とか普及の仕方の違いなんかも見れて面白かったです。

 

いや、実は下書きにもりもり書いてるんですけどまとめきれないのでただただすごかったということだけ記しておきます。

 

このニコ美いつまで公開されてるのかわかりませんが、4時間超でしたからね。こちらのおかげで大変勉強になりました。

 

live.nicovideo.jp

 

 

後期も行くのでその後にもうちょっと整理して書けたらいいな。

 

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写真OKのコーナー

フラッシュを炊いて写真を撮ると曜変天目が浮かびあがります。

もちろん本物は写真NGです。特別室仕様で展示されてます。宇宙空間でした。


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社員教育のために店頭に飾っているというお多福面

特大サイズですよ。三菱UFJ銀行所蔵だそう。やっぱりちょっとおかしい。



 

 

三井記念美術館名品展「自然が彩るかたちとこころ」

例年1月に展示されことの多い円山応挙の国宝「雪松図屏風」が今年は展示されなかったので、何でかな?と思っていたらこのタイミングで名品展の開催。しかもこの展覧会後にリニューアル工事のため2022年4月まで休館とのこと。お休みに入る前に会いに行かねばということで行ってきました。

www.mitsui-museum.jp

 

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三井家が所蔵する日本・東洋美術を自然を表現する9つのカテゴリに分けて展示されています。各テーマは以下。

①理想化された自然を表す
②自然をデフォルメして表す
③銘を通して自然を愛でる
④素材を活かして自然を愛す
⑤実在する風景を愛す
⑥文学(物語と詩歌)のなかの自然を愛す
⑦自然物を造形化する
⑧掌のなかの自然
⑨自然を象徴するかたち

 

絵、工芸、能装束など様々な作品の中に取り入れられた花や草木や月などのモチーフは日本や東洋の美術には切り離せないものですね。

 

まずは茶道具などが展示されている展示室1からスタート。

茶道具の中で印象的だったのが竹二重切花入(内側登亀蒔絵)銘清池(覚々斎作)。茶会の際に茶室に飾られる竹の切花入れって詫びさびの極致というか装飾を一切排して竹をそのまま無造作に切っただけのものっていうイメージがあるのですが、こちらは金箔を施した蒔絵仕立てで千利休の頃とは趣が違ってました。江戸時代に入ると装飾的な作品も増えてきたのでしょうか。

 

展示室2に恭しく置かれていたのは本阿弥光悦の「黒楽茶碗 銘雨雲」
お茶を点てたこともないので茶碗の良し悪しを語る知識は全くないのですが、艶やかな黒い茶碗に降りしきる雨のような模様が入ってて大変お洒落。お金持ちの道楽の行きつく先は茶堂具なんですかねぇー三井家も岩崎家(三菱)も競うように集めたのかなぁと思うほど家のお宝を並べた展覧会にはざくざくとお茶碗やら茶入れやらが並びますね。

茶碗は手に持たないと本当の良さはわからない、と言われますが私が理解できるようになる日は来るのだろうか…と思ってしまいます。曜変天目くらい他に類を見ないような作品であれば凄さはわかるのですが。

 

そして屏風絵などの絵画スペースに向かうといらっしゃいましたよー正面にばばんと!

国宝「雪松図屏風」(円山応挙!!存在感はあるのに圧がないのがこの作品の素晴らしいところ。冬以外の季節に見るのは初めてだったのですが、気分は一気に冬の朝。
展示室がキンキンに冷房が効いてて冷え冷えだったのも雰囲気を盛り上げてくれました。いや、きっとカンカン照りで蒸し暑くても見ている時間だけは涼しい気持ちになれたかもしれない。閉館時間が近かったので人も少なくちょうど誰もいない時間があって独り占めできてとても贅沢でした。

しかも「雪松図屏風」のとなりは酒井抱一の「秋草に兎図襖」。秋の野分吹く芒野原と風に向かって勢いよく芒から跳ねだす兎が描かれてて外が夏であることも忘れるほど。野分吹く様子を板目を斜めに張り合わせ、その上に直接絵柄を描いて表現するなんて小粋です。この洒脱さが抱一らしくてとっても素敵でした。

円山応挙は他にも同じ部屋の入口横に「福禄寿・天保九如図」があり、こちらは真ん中に福禄寿を描き両脇に月と太陽を描いた吉祥画題。福禄寿がめちゃめちゃ愛らしく、写実を追求し独自の作風を確立した応挙ですが、確かな技量に裏打ちされた抜け感は一流のお仕事。福禄寿の両脇にうっすらと太陽と月を描いた山水画は淡い色彩が魅力的。工芸の部屋にも応挙の「昆虫・魚写生図」水仙図」の展示があり、写生図は動物図鑑のように克明に細部まで魚や虫の姿を描いてて「水仙図」は淡くて柔らかな風合いの作品。どちらも応挙らしくとても素敵でした。特に水仙は花入れに差すために庭から取ってきてちょいの間畳の上に置かれた様子を描いたようなさりげない作品なんですけども絵の前に立つとすーっとこちらの気持ちが洗われていくようなすっきりとした絵です。とってもよかった。

 

絵画の部屋には先日ニコニコ美術館で中継された静岡県立美術館の「忘れられた江戸絵画史の本流 江戸狩野派の250年」で担当学芸員の野田さんが熱く推していた狩野栄信の「四季山水図」もあり、野田さんが狩野派が長く続いたのは常にアップデートをしていたからというようなことを仰ってて、なるほどこの作品は先日トーハクの東洋館で見た19世紀の中国絵画のダイナミックさに伝統的な狩野派の筆のタッチがミックスしたような堂々たる作品でした。その中に南宋時代の萱草遊狗図(かんそうゆうくず)(伝毛益)をさりげなく入れ込んだりとと模倣と独自性と正統性が見られるいい作品でした。


その向かい側には当初は狩野派に倣いその後円山応挙に影響を受けて写実を重視するようになった猿といえば森狙仙の「岩上郡猿図屏風」川端玉章の「東閣観梅・雪山楼閣図」があり、狩野派と円山派が向かい合う構図になってます。部屋を独り占めした時間に交互に見比べるて眺めたのですが画法の違いがよくわかり面白かったです。川端玉章の雪山は雪松図屏風の雪の描き方に影響を受けてて、木の描き方が狩野栄信とは全然違っててどちらにも良さがあります。森狙仙のお猿さんは同じようにふわふわでも牧谿牧谿に倣った長谷川等伯狩野山雪の愛嬌のある表情の猿ではなく、ザ・ニホンザル!という感じ。地獄谷で温泉入って瞑想してそうなお猿さんです。どちらも好き。

 

そして工芸の部屋でテンションが上がったのが自在置物!!!先日トーハクで明珍宗清作の龍や海老や蟷螂など見てきましたがこちらは高瀬好山作の海老や昆虫たちがずらり。やっぱり海老なんだー!と笑ってしまいました。リアルすぎる!!今にも動き出しそうな立派な伊勢海老でなぜこのような工芸が好まれたのかはほんとに不思議。めでたい席に飾られたんでしょうか。元は甲冑職人だった方たちが需要がなくなった江戸後期から明治にかけて輸出用として多く制作されたそうですが、羽の模様の細かいところまで再現した緻密な作品が人気だったのでしょうか。

 

最後の部屋には能面や着物とともに東福門院入内図屏風や南蛮図屏風が並び華やかでした。東福門院入内図は天皇家へのお輿入れの盛大さが描かれ、南蛮図屏風はやまと絵の技法に金雲に箔押ししてあり、南蛮風を技法でも際立たせてるようでした。

 

空いてたこともあってじっくり見てたらあっという間に閉館時間となってしまいましたが、そのおかげで雪松図屛風を独り占めできたし、いい見納めができました。リニューアル後に来るのが楽しみです。

 

そして美術館に来る前に地下鉄「日本橋」駅B1出口横あたりに設置されている山口晃さん制作の日本橋今昔を描いたステンドグラス作品を鑑賞してきました。

 

prtimes.jp

 

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誰もが通りすがりにみることができるパブリックアートです。

 

今と昔の様子を混ぜて描く山口ワールドに魅せられました。楽しい!

 

そして現在日本橋エリアはオリンピックアゴラとして様々な展示を行ってるんですね。

olympics.com

 

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三井記念美術館のある三井タワーロビーにはメダルを模したオブジェが

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「連帯と協力」のタイトルがついた作品

平日昼間ということもあり人も少なくちょっと寂しかったですが、まぁこのご時世なのでね…本来だったら外国人観光客も大勢訪れるような場所だったのでしょう。そんな中でも大々的に宣伝はできないけど街中にはオリンピックらしい旗やポスターも展示されててようやくあぁやるんだな…という気分になりました。当初の想定とは変わってしまいましたがやるからにはよい大会になってほしいなぁと思いました。

 

 

 

十一面観音菩薩とイスラーム王朝とその他いろいろトーハク詰め合わせ

「日本彫刻の最高傑作、東京で初公開」

tsumugu.yomiuri.co.jp

 

ということで行ってきました東京国立博物館(トーハク)。

奈良県桜井市にある聖林寺国宝 十一面観音菩薩立像が東京で初公開。
この観音像は、江戸時代までは同じ奈良の三輪山の麓にある大神神社にありました。大神神社は本殿を持たず三輪山信仰を拝む自然信仰の神社で奈良時代以降は仏教の影響を受けて神社に付属する寺(大神寺、のちに大御輪寺に改称)や仏像が作られたそう。それが明治の神仏分離令を受けて寺社にあった仏像は近隣の寺に移設し、この度、150年ぶりに各所に散らばった仏像さまが再会を果たされたとのこと。


その後に起こる廃仏毀釈なんかはひどいものですが、明治維新てやることが極端ですよね。文化遺産という感覚が当時はなかったのかなぁ。


この度集合したのは聖林寺の十一面観音菩薩立像、法隆寺地蔵菩薩立像、正暦時の日光菩薩立像、月光菩薩立像です。
特別室に入ると正面に一段高く優美なお姿を見せる十一面観音にいやでも目が釘付けになります。

 

三輪山の大きな写真パネルと三ツ鳥居の複製を背にして立つ姿は八頭身で実際にはお堂内に展示されてるので三輪山と三ツ鳥居が背景にあるのはおかしいのかもしれませんが、江戸時代以前まであった自然信仰の神社である大神神社にあったと考えると、仏像でありながらも三輪山の神様のように当時の方たちは拝んでいたのではないかなぁと思うので、神々しさが高まっていい演出になったような気がします。

十一面観音は木心乾漆造りという8世紀ころによく使われた手法で、木で大枠を作りその上に布を一枚巻き付けその上から漆と木の粉の練り物で成形する技法だそう。木と違って柔らかいので細かい造形が作れるので身に着けた衣や身体の線のくびれなどが美しく表現できるとのこと。ただ、表面が柔らかいので壊れやすく保存が難しそうですね。だからあまりその後は使われないのかな。きれいな姿で残っているのはとても貴重なんですね。

 

今は別々になってしまった当時の光背の一部も展

示されており、見たことないような大きさと凝ったデザインでした。手ぬぐいにデザインされてグッズとして販売されてましたが、これが実際に仏像の後ろに刺さってる姿はどんなだったろうと思うと、そりゃ信仰も篤くなるだろうなぁと思います。美しすぎるもの。

特別展「国宝 聖林寺十一面観音 -三輪山信仰のみほとけ」

三輪山には古事記の神話にも登場し、人が入れない禁足地もありそこから古墳時代の勾玉や御神酒造りに使われていた道具なども出土していて、そういった遺跡も今回一緒に展示されてます。脈々と祭礼の場として土地に根付いていたんですね。


またトーハク本館1階の特別5室は特別展以外のときは開放されてないので、こういうときに内部をまじまじと見てしまいます。
高い天井と表の大階段を上がったところにある扉から続くバルコニーにぐるりと囲まれていて、その正面がモナリザが展示されたところなんだなぁと思いながら上を見上げてました。

 

会場を出ると同じ一階の特別室3室でもこんな企画が始まってました。

www.tnm.jp

これめちゃくちゃ楽しかったです!!
入るとまずトーハクが所蔵している名だたる日本美術の作品の映像が流れてて
場内に入るとばばーんと年表が表示されてる大きなスクリーンがあって
各年代ごとに足跡マークが4個あり、そこに足を合わせると「火焔型土器」とか選択した作品がスクリーンに大写しにされて、手を動かすと映像が動いたり見たいところがアップになったりといろいろ動かせるんです。作品ごとに動きで特徴を見せてくれるのでとても分かりやすいし単純に楽しい!

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各所に足を合わせます。火焔型土器の足型に合わせると…

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火焔型土器が大きく映し出されて手をあげるとくるくる回ったりします


全部の足跡をめぐって手を振ったりあげたりまわしたりとインタラクティブに楽しみました。

 

そして高精細複製で制作された屏風絵が実際に部屋の調度品として使われていたイメージで展示されていてガラスケースなしで間近で見ることができます。今は尾形光琳風神雷神図屏風酒井抱一の夏秋草図屏風が背中合わせに展示されてます。色の濃淡まで再現されてて最新の技術ってすごいなぁと感心しました。日本画は展示できる期間も年間で限られてるし、実物を見ることができなくても通年で作品を知ることができるのは有難いですね。

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夏秋草図屏風。言われなければ本物と思いそう。

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風神雷神図屏風

展示される作品は期間ごとに変わるようです。この2作品は8月29日まで。このあとは以下の予定です。

2021年8月31日(火)~11月28日(日) 国宝 観楓図屛風(高精細複製品)

2021年11月30日(火)~2022年2月27日(日) 国宝 松林図屛風(高精細複製品)

2022年3月1日(火)~5月29日(日) 国宝 花下遊楽図屛風(高精細複製品:復元)

松林図屏風はどんな風に再現されるのか楽しみです。

 

続いて総合文化展へ。

今回の総合文化展のお目当ては本館13室金工コーナーの自在置物!
先日見たBS朝日のトーハクの特別番組でヤマザキマリさんと石坂浩二さんがめちゃくちゃ面白がってたのが気になって見てみたいなーと思ってたのです。
当然ながら動かせるわけではないのですが、龍の鱗?とか爪先とかほんとに動き出しそうなくらいリアル(いや龍は見たことないけどね)に作ってあって
ふおーと感心したのでした。

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テレビでは首を持ってあっちに向けたりこっちに向けたり楽しそうでした

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自在置物で一番多いのはえびなんだそう。触角が~ぞぞっ

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これ虫嫌いの人が見たら卒倒しそうなくらいリアルな蟷螂



まだまだあるよ!

お次は東洋館の「 マレーシア・イスラーム美術館精選 特別企画 「イスラーム王朝とムスリムの世界」」

www.tnm.jp


イスラム美術はアラベスク文様の美しさや金銀細工の細やかさなどのイメージがありますがまとまった展示で見ることはなかなかないのでどんな展示なんだろうと事前から楽しみにしていました。


イスラム王朝の知識があまりにもなく、歴史的背景はわからないのですけど各王朝が治めた地域が西はスペインから東は中国までとユーラシア大陸横断といった感じでとにかく広い。
その地域によって土地の文化とも相まった装飾品の装飾品のデザインも変わってくるのですが、細かな文様が施されているのは共通しています。あとクルアーンコーラン)の文字装飾の多様さも印象的でした。


また偶像崇拝禁止なので、人物を描いた芸術品はないと思っていたのですがそうでもなく、王族の肖像画などはそれなりにあったり、物語を描いたお皿やインドでは英雄を描いた細密画があったりと、時代と場所によっては意外とあるんだなってことが発見でした。
来年の2月20日まで開催されてるので時間があったらまた見にこようと思います。

 

7/13からは「聖徳太子法隆寺」展が始まり、おそらく多くの人が(といっても日時予約制なのでかつてのような混み方はしないでしょうが)訪れるだろうと思いますがその直前の普段のトーハクを楽しんで来ました。聖徳太子法隆寺展も楽しみです。

 

 

コレクター福富太郎の眼 昭和のキャバレー王が愛した絵画

www.ejrcf.or.jp

「あやしい絵」展で心掴まれた鏑木清方の「薄雪」「妖魚」北野恒富「道行」などインパクトのある作品の所蔵元に「福富太郎コレクション資料室」とあり個人コレクションだと好みの傾向がわかりやすいなぁなんて思ってたらその福富太郎コレクションの展覧会がすぐ始まると知り、またあの作品たちに会えるんだ!と嬉しくなり開催を楽しみにしていました。んが!またも緊急事態宣言が発令され、こちらの展覧会も休止となってしまい、再開されるのかやきもきしていましたが、無事6月1日から再開され、かなり期間は短くなってしまいましたが、閉幕近い平日にようやく行けました。

 

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北野恒富「道行」と鏑木清方「薄雪」が並ぶポスター

昭和のキャバレー王と言われた福富太郎鏑木清方の作品から蒐集を始め、自分が気に入ったものは有名無名に関わらず、日本全国のギャラリーで買い求めていたそうです。個人の趣味によるコレクションなので時代や手法は違えど、好きな作品には共通するものがあり、特に美人画には顕著に表れてると思います。とにかく色っぽい女性がお好きなようで、鏑木清方だけではなく、甲斐荘楠音、島成園、秦テルヲなど「あやしい絵」展でも強烈な印象のあった作者の作品が並んでます。色っぽいといっても色々あり、官能的だったり妖艶だったり狂気に満ちていたりと特徴はそれぞれ違うのですが、抑圧されていたり、理不尽な目にあったりと弱い立場に置かれた女性の情念や怨念が滲み出ている作品も多くありました。

 

渡辺省亭展で見た「塩冶高貞之妻」のサイズ違い作品が2作品出てて、人気の画題だったのでしょうか。歴史画に分類されるモチーフですが描かれてる女性がちょっとどきどきするほど艶っぽいです。透け感のある着物の柄とかめちゃくちゃよかった。

 

江戸~明治あたりの女性にとっては長い髪は女性らしさの象徴とも言えると思いますが、櫛で髪を梳いてる女性の姿の作品が目につきました。
島成園の「おんな」などは床にとどかんばかりの長い髪を肌も露わに着物がほどけた状態でゆらーりと髪をとかしててしかも着物には能面の柄が描かれてて、もう情念以外何があろうかという感じ。


一方で鏑木清方と並ぶ美人画の第一人者上村松園の描く女性はあまり好みではなかったようで、1点だけ展示されていたのですが、同時代のその他の作品の女性と比べると美しいのですが、燐としていて隙がなく、情念は感じさせない大人の女性の姿でした。福富太郎氏いわく「はんなりとして京都の女性の美しさが理解できないのかもしれない」とのことですが、当時の上村松園の作品の評価として「ただきれいなだけ」と言われていてそれを大変松園は悔しいと感じていてその思いから出来上がった作品が傑作「焔」らしいので、そういう声も糧になっていたのかもしれないですね。私は「きれいなだけ」でもいいじゃないか、と思ったりしますが。


特別出品として今はポーラ美術館所蔵となった岡田三郎助の「あやめの衣」が見られたのもよかった。ポーラ美術館で以前見ましたが、福富太郎さんのコレクションの一つだったのですね。この色っぽさ納得という感じです。

www.polamuseum.or.jp

 

そして美人画だけじゃなくて、明治以降の洋画のコレクションも多く岸田劉生の「南禅寺疎水付近」は国立近代美術館にある「切通しの写生」と同じような趣で、赤茶色の坂道の土が印象的でした。木村荘八の「室内婦女」はカラバッジョを思わせるような陰影があって好きでした。 高橋由一、五姓田義松、川村清雄などなど明治以降の西洋画家を代表する作品も多々あり、バラエティ豊かです。

 

また戦争を描いた作品については「自由に描けない抑圧された戦時下で画家たちが対象をどう表現したか、その意図に注目した」とあり、画家の内面まで理解した上で作品を求めたというのは美術史的な観点からもとても重要な役割だったような気がします。単純に国威掲揚のための作品と片付けられない芸術性を見出すのはアートとは時代を映すものだと考えるとそれを踏まえた評価をするべきなんでしょうね。

美しい以外の価値を見出す厚みのあるコレクションになっています。

 

最後に月刊「りばぶる 増刊SPRING」という雑誌に掲載された床に散らばる浮世絵の数々と河鍋暁斎百鬼夜行の屏風と幽霊絵の掛け軸と山のように積まれた書物に囲まれて微笑む福富太郎氏の写真に正しいオタクを見た気がしました。

 

最後に東京駅構内の3,4階にあるこちらの美術館。出口が吹き抜けの回廊部分になっていてそこに駅の改修工事の際に発掘された鉄骨架構のブラケットが展示されてます。

ブラケットって何?と思ったら↓の部分のこと。壁面に取り付けて土台を張り出した床を支えたりするものみたいです。

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赤丸の部分がブラケット

で、そのデザインが新月から始まり月の満ち欠けのデザインをモチーフにしているんですって!めっちゃ素敵じゃないですー??ここに展示されてたがちょうど三日月の部分!あら、すてき。

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発掘された建設当時のブラケット。三日月型にくりぬかれてます

現在も復原されたブラケットが北面の新月から始まって北東面=三日月、東面=上弦の月、南東面=望月、南西面=立待月、西面=下弦の月、北西面=二十六夜の月(三日月の反転)と配置されてるそう。
一生懸命見たんですけど、ちょっとわからなかったですねー。双眼鏡持参じゃないと無理かも。機会があったら確認してみたいと思います。

 

 

 

 

 

 

静嘉堂文庫美術館と国分寺崖線と太田記念美術館

「旅立ちの美術展」@静嘉堂文庫美術館の後期展示に行ってきました。最終日ギリギリでした。

www.seikado.or.jp

前期に行ったときの記事はこちら↓

unatamasan.hatenablog.com

 

4/25から発令された緊急事態宣言を受けてこちらの美術館も5月31日まで休館。6/1から再開となりました。当初の予定(~6/6)を少し延ばし休館日なしで後期展示が開催されました。この地で最後の開催ということで先週行こうとしたら入場制限で90分待ちだったのでその日は諦めて最終日に再チャレンジということで行ってきました。美術館に到着すると待機列はなく、整理券を渡されて1階の講堂に促されそちらで番号を呼ばれるまで待つようにとのこと。静嘉堂文庫美術館についての解説DVDが流れていたのでそちらを鑑賞しながら待つこと20分くらいでしたかねぇ?思ったより早く入場できました。並ばずに入れてよかったー。

 

4月に見た前期からいくつか入れ替わりがありました。後期から展示されてる作品の中からいくつか印象に残ったものを。

 

谷文晁門下の遠坂文雍の「文王猟渭陽図 」は明の金碧山水(青緑山水)という山水画のような作品。「2.理想郷へ 神仙世界と桃源郷」の章に展示されてる鈴木鵞湖の「武陵桃源図」も同じような作風で同じく谷文晁にも師事していたようなので似てくるのかな。

 

聖徳太子絵伝聖徳太子の一生を四幅の掛け軸に描いていて、修復後らしいのですがそれでもかなり傷みが大きく、聖徳太子の顔も判別できない箇所もいくつかありました。鎌倉時代の作品ですが、聖徳太子は人気があってずっと外にかけられてたのかなぁなんて思ったりしました。十二歳の頃の太子は髪が長く角髪(みずら)にした髪を垂らしていてとても美少年でした。漫画のイメージだったなぁ。

 

尾形光琳の住之江蒔絵硯箱は蓋甲を高く盛り上げた形をしていて、トーハクにある本阿弥光悦の舟橋蒔絵硯箱に倣った作品。琳派繋がりですね。舟橋蒔絵硯箱は直線的なデザインで住之江は波うつデザインにしているのが光琳流といった感じ。どちらも素敵です。

www.seikado.or.jp

 

www.tnm.jp

 

光悦はなんでこんなにこんもり高くしたんだろう?

 

前回も見てたのですが、今回改めて心に残ったのが倭漢朗詠集 太田切。漢字とかなが混じって一つの巻に書かれてるのがなんとも不思議で。漢字は硬くて格式ばってるのですがかなの段にくるととても柔らかくたおやかになり、字の形で受ける印象が大きく変わるのがよくわかりました。元々巻物だったものが分散しているのは茶道の普及により、ばらして額装して茶の席に飾ることが増えたからなんだとか。それってどうなんでしょうねー?やっぱり巻物として残ってた方がよかったような気もしますが。千利休がせいなのか。

 

曜変天目は相変わらず美しく。何度見ても思ってるより小さいんですよね。それが尚更宝物感が増すというか。大事にしなくちゃっていうが気持ちにさせるのかなぁと思ったりします。

 

そして河鍋暁斎の地獄極楽巡り図は明るく賑やかで14歳で早逝した田鶴が寂しくないようにという全力で気遣いしてて見てると涙が出てきます。とっても楽しい絵なのに泣けるという。河鍋暁斎の絵で泣くと思わなかった。

 

見終わって表に出ると美術館最終日ということで特別に噴水から水が出てました。

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水が出てるところ初めて見ました

 

丸の内に移転となるためもうここに来ることはないなーと思い、帰りは別ルートで下ってみました。

鎖がかけてあるので通行禁止なのかなと思っていたら「車両通行禁止」という札だったので歩行者は通っていいことに初めて気づき横道に入ってみたらめちゃめちゃ立派な建物があり、何かと思ったらジョサイア・コンドル設計の岩崎家の廟(納骨堂)とのこと。へええええ~とひたすら感心し、そのまま下っていくと結構な森の中で「ホーホケキョ」と鶯まで鳴いてました。さすが武蔵野の森。

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ジョサイア・コンドル設計の廟。三菱一号館設計しているし所縁が深いですね。

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一瞬ここ下りて大丈夫?って思いましたが大丈夫でした

このあたりは先週行った五島美術館のある上野毛あたりと同じく国分寺崖線と呼ばれる国分寺から始まり府中、調布近辺から繋がっている崖が連なっている地域で、高低差が大きいです。崖の上の部分に静嘉堂文庫は建っているんですね。

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一部は手つかずのまま残しているそう

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まぁまぁワイルドな小川

行くのが不便で早く丸の内に来てほしいと思っていたけど、もう来ることはないと思うとちょっと寂しかったりします。こんな森の中にあるのもそれはそれで素敵だったなーと思いました。

 

2022年まで三菱のお宝を見る機会もないのかなーと思っていたら7月からこんな展示会があり!

mimt.jp

またすぐ会えるじゃん!!とちょっとだけ拍子抜けしました。

まぁ美しいものは何度見てもよいので今度は三菱一号館美術館で会いましょうね。

 

続いては武蔵野の山から下りてきて緊急事態宣言中でも若者で賑わう原宿へ(それでもコロナ前に比べればだいぶ少ないですが)

太田記念美術館で開催されている「鏑木清方と鰭崎英朋 近代文学を彩る口絵 ―朝日智雄コレクション」を見てきました。

www.ukiyoe-ota-muse.jp

 

この展覧会は、昨年2月に開催しましたが、新型コロナウイルス感染拡大防止のため、会期を3週間以上残しながらも途中で開催中止となってしまったそう。しかしながら、「これまでスポットの当たってこなかった絵師や作品を、どうしても多くの人にご覧いただきたいという学芸員の思いから、展示スケジュールを調整し、再び同じ内容で開催することにいたしました。」とのこと。という熱い思いがこもいを受け取るべく美人さんに会えるかなーとわくわくしながら中へ。

 

鏑木清方日本画で多くの美人画を残していますが、元々は文芸誌や新聞小説の口絵で活躍していたそうで、同時代に同じく口絵で人気のあったのが鰭崎英朋。英朋の作品は多分初めましてだと思います。

 

鏑木清方の作品は版画でも女性が色っぽいのは変わらず。むしろ世の中の声に合わせたのか肉筆作品に比べてエロさが増してます。描かれた小説のあらすじも一緒に掲載されてるんですけど、「よろめきドラマ」という言葉がぴったりな感じの色恋沙汰の話が多く、当時はそういうものが新聞小説で人気だったんですね。小村雪岱のときにも思いましたが。

 

途中から日本画メインに転じた鏑木清方と違って口絵を描き続けた鰭崎英朋は画壇に登場しなかったためほとんど近年まで忘れられていたらしいです。やっぱり発表する場って大事なんですね。渡辺省亭も画壇と距離を置いていたために「忘れられた」扱いされちゃいましたし。野心のあるなしとも関わってくるのかもしれません。

 

鰭崎英朋の作品は清方よりもさらに色っぽい女性がたくさんでてきます。両方とも共通してるのがほつれ毛。とにかく髪が乱れがち。そのあたりに色気を感じるんでしょうね。確かに色っぽいです。ほつれ髪だけじゃなくて表情もリアル。情念を感じます。

 

しかし二人とも月岡芳年の孫弟子っていうのに驚き。あの血みどろ絵から一つ代を挟むとこんなに美しい女性を描くようになるんですね。いや月岡芳年も素敵な美人画描いてますけども。時代の流れとともに求められるものが変わったのでしょうかね。

 

二人よりも少し前に文芸誌の挿絵で人気のあった他の作家の作品の展示もありました。

武内桂舟(1861~1943)、富岡永洗(1864~1905)、水野年方(1866~1908)、梶田半古(1870~1917)の4人。

この中で好きだなーと思ったのが梶田半古です。初めて見たのですが明治期とは思えないくらいパステル調の色合いで描かれた作品で色っぽい女性というよりモダンな女性が多かったです。ファッション誌のような構図も多くとってもお洒落でした。日本画も描いていたそうなので、機会があったら他の作品も見てみたいと思いました。

 

 

それにしてもいずれの作品も木版画とは思えないくらい微妙な色彩やグラデーションが表現されてて肉筆画と区別がつかないほどです。

江戸時代の錦絵との違いが太田記念博物館さんのnoteで詳しく紹介されていました。

otakinen-museum.note.jp

こちらに取り上げられた作品も展示されてて見比べましたが、色味の違いはあれど言われなければ版画だと気づかないと思います。

絵師、摺師、彫師とそれぞれの意地のぶつかり合いというか高め合いがこのような作品を生み出してきたのですね。

 

2年越しで開催されるだけの熱意を感じる展覧会でした。

満足。