おうちに帰ろう

心茲にありと

クールベと海展 ーフランス近代 自然へのまなざし

パナソニック留美術館で4/10から始まったこちらの展覧会も緊急事態宣言を受けて4/28から5/31まで休館、6/1からようやく再開されました。

panasonic.co.jp

 

6/13までと短い期間ではありますが再開されたのは何よりでした。
日時指定予約制で土日はすぐに埋まってしまったので本日午前中に行ってきました。
現時点で残り会期の予約はすべて満席となったようです。

 

初めて見たクールベの作品は国立西洋美術館所蔵の「波」

collection.nmwa.go.jp

 

ということもありクールベといえば海、波、という印象が強いです。
あとはオルセー美術館で「オルナンの埋葬」という超巨大絵にも圧倒されました。

artoftheworld.jp

いずれも美しいというより荒々しかったり地味な一般市民が描かれてたりと
生々しい表現がインパクトあるなぁ思っていました。

 

「波」といえば我らが葛飾北斎の「神奈川沖浪裏」がぱっと思い浮かびます。

浮世絵と油彩という技法の違いによる表現方法の違いはあるのですが一番の違いは視点が違うんだなぁと今回クールベの描くたくさんの「波」群を見て思いました。
レアリスムの巨匠の目線は自分が立っている場所から見た波。なので海岸だったり砂浜から見てるからこちらに向かってくる波なんですよね。
かたや「神奈川沖浪裏」は波を横から見てる。いったいどこにいるの?位置からの構図。自分が波になったところを俯瞰で見てるようなめちゃくちゃ不思議な構図。


クールベが波をクローズアップした作品を多数描いているのは1860年代後半から70年頃
北斎富嶽三十六景を描いたのが1831~34年。クールベ北斎の作品を見ていたかどうかわかりませんが(モネとも交流があったクールベ。モネは浮世絵フリークなので見てた可能性はあるかも)並べて見たくなりますね。

前置きはここまで。

展覧会の構成は5章立てとなっています。

 

第1章 クールベと自然―地方の独立
フランスのスイスとの国境に近い村オルナンに生まれたクールベが故郷の山や岩を描いた作品と同時代の他の風景画を展示。
シャロンの「廃墟となった墓を見つめる羊飼い」は宗教画を描くための風景になっていて風景がメインになっていない時代の作品。
コローやド・ラ・ペーニャのフォンテーヌブローの森を描いた作品はどこか郷愁を誘うような風景画です。その後に登場するクールベの「岩山の風景」を見ると郷愁というより剥き出しの自然といった感じでごつごつした岩が力強く描かれてて、自然の中で生きて恐ろしさも素晴らしさを分かった上で挑むような気持ちで描いてるように見えます。
クールベは故郷のオルナンを愛していてパリやノルマンディーの海に出かけたあとも故郷のオルナンで制作していたそうで、故郷の自然を描くことがレアリスムの表現の確立に繋がったように思います。

 

第2章 クールベと動物―抗う野生
自然の中で育ち、狩猟も楽しんでいたらしいクールベ。動物の描き方も野性味あふれています。特に森の中から川に飛び出してきた鹿が首をひねり身体をのけぞらせてる姿をとらえた作品は銃声と鹿の鳴き声が聞こえてきそう。
その他の作品が家畜の牛や羊を描いた作品が多い中、狩猟という場で野生と対峙していたクールベの視点はとても野心的ですね。「狩の獲物」では撃ち取った獲物を吊るし弔いのためにホルンを吹く狩人の姿を描いてて鹿に対するリスペクトと自らの行為に対する誇りも感じられます。

 

第3章 クールベ以前の海―畏怖からピクチャレスクへ
風景画の意味合いが大きく変わったのは18世紀後半から19世紀にかけて。産業革命によって求められるものが変化したとのこと。それまでは大航海時代に象徴されるように自国の海運を象徴するような大型船を描くための風景画だったのが風景そのものを描くようになり、ガイドブックのような役割も果たすようになったそう「ピクチャㇾスクーイングランド南海岸の描写」という全16集からなる観光案内本に。イギリス風景画の巨匠ターナーがが挿絵を描いてます。ピクチャㇾスクって、今風に言うと「映える」ってことですよね。今も昔も映える風景を求めるのは同じなんだなぁ。葛飾北斎富嶽三十六景歌川広重東海道五十三次や名所江戸百景なんかも同じですよね。風景画が人気になるのは旅行が盛んになってきて実際にいろいろな景色を多くの人が見に行けるようになったからなんですね。

第4章 クールベと同時代の海―身近な存在として
フランスでも鉄道が開通し、パリから大西洋岸の町へ気軽に行けるようになりリゾート地が増えてくるとその風景を描いた作品が人気になり、ブータンやモネやカイユボットなどが作品を残してます。
海水浴してる人が絵の中に登場しますが、当時の水着はほぼ今のワンピースやジャンプスーツと変わらないデザインで、それは着衣水泳の救急訓練ですかって感じでした。当時の水着の実物も展示してあったのですが普通に街中で着れそうな服でした。当時はドレスだからそれに比べればだいぶカジュアルなんですが。へぇええ。
カイユボットの「トゥルーヴィルの別荘」は別荘の窓から見える景色をそのまま描いているような構図で、手前に木が生い茂っていてその向こうに海が見えて気持ちのよい絵でした。こんな景色が見える別荘に住んでみたい。

 

第5章 クールベの海―「奇妙なもの」として
最終章はクールベが描く海⇒波がずらりと並びます。ここは壮観。初めて海を見たのは22歳の時だそうですがその時家族に送った手紙に「ついに海を見た。地平線のない海を。それはとても奇妙なものであった。」と書いているそうです。

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展覧会のポスターにもその文言が書かれています

四方を海に囲まれてちょっと行けばすぐに海が見える(キレイではないが)環境に育っていると「地平線がない海」とはどのような感覚なのか想像もつきませんが、「奇妙」だからこそ、興味を掻き立てられ繰り返し描くようになったのですかね。海の絵を量産するようになったのは40代後半からのようですが、最初は海を遠景で描いてたものがどんどん視点が近くなり波だけを描くようになるのはやはりあの動きがそれまでの自然界には存在しないものだからですかね。波が盛り上がって砕ける様を絵の中に書き留めたい!という探求心なのでしょうか。引き込まれます。

 

コンパクトな展示室に並ぶ風景画の名作の数々を静かに眺める空間はとても居心地のよいものでした。

 

クールベと海展はここまで。最後の部屋は美術館所蔵のルオーコレクションが展示されてました。裸婦特集だったのですが独特の太い輪郭線で描かれた裸婦はほぼ抽象画のようでした。「花蘇芳(はなずおう)の側にある水浴の女たち」は「花蘇芳」がキリスト教を裏切ったユダの木と言われてて舞台が中東であることを表してるとのこと。「はなずおう」って初めて聞いた。花言葉は「裏切り」ですって。そんな花言葉って…

今年はルオー生誕150周年とかで「マドレーヌ」のみ写真撮影OKでした。

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すごくお祝いされてますね

パナソニック留美術館は広くはないのでちょっと混んでくるとかなり窮屈な感じになるのですが、日時指定の人数制限を少な目にしているからかとても快適でした。無事見に行くことができてよかったー

 

おまけ

こちらの美術館のある汐留近辺は新しいビル群が立ち並ぶ界隈なのですが、日本で初めて鉄道が開通した旧新橋停車場のプラットフォームの一部が史跡として残っています。

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歴史を感じます

併設する駅舎を再現した建物が資料室となっていて、美術館に来るたびに横を通ってたのですが入ったことはありませんでした。今回企画展「全線運転再開1周年記念
常磐線展」というのが開催されていたのでふらりと入ってみました。2階が企画展コーナーで東日本大震災で被害を受けた常磐線の歴史や特急の看板?などが並び、鉄道ファンには堪らない(と思われる)空間になってました。個人的には常磐線の最初は田端~隅田川(今の南千住当たり)を繋ぐ隅田川線というのがあったというのが発見でした。知らなかったー

半地下には駅の遺構がガラス張りで見えるようになっていて発掘された駅で売られてた急須と御茶碗などが展示されてたりとなかなか興味深い場所でした。

 

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「近代の日本画」展と蔦屋重三郎と江戸の戯作者

五島美術館で開催されてる「近代の日本画」展(~6/20)に行ってきました。

www.gotoh-museum.or.jp

 

そもそも今日は「るろうに剣心 最終章」を見に行くつもりだったけど昨日BigginingがからBigginingが公開されたからかその前に公開されたThe FINALは小さいスクリーンに移動となり上映回数も減りさらには50%制限もあって0時を過ぎて予約可能となった直後にほぼ完売。都民はさー、まだ見れてないと思うのよねるろ剣の最終章。公開直後に映画館が休業になっちゃったからさ。もうちょっと回数増やせませんか?


ということで美術館に行くことにして静嘉堂文庫美術館の「旅立ちの時」の後期展示に(前期はこちら)向かったら大人気のためこれから行っても待ち時間が1時間半以上もあるという情報を二子玉川まで来てからTwitterで知り、うーんさすがに整理券もらって周囲に何もない中で待つのもつらいなぁ…と思い、でもここまで来たから引き返すのもなんだし…と思って急遽、大井町線で一駅お隣の上野毛にある五島美術館に行くことに。上野毛って初めて降り立つ駅かもしれない。

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完全に観光客

ということで急遽訪問したこちらの展覧会。定期的に5~6月頃開催されているそうです。

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こちらです

五島美術館は東急の会長だった五島慶太翁が収集した古美術を展示するために創立したそう。美術館のお隣に立派な豪邸があり表札に「五島」とあったので創業一家が住まわれてるんですかね?

それにしても根津美術館静嘉堂文庫美術館山種美術館も実業家の趣味が高じて設立された美術館でお大尽さまさまですね。国のお金よりも民間のお金持ちが運営した方が美術品は守られるんじゃないかと思いますが、このあたりは寄付制度や税制度の見直しをした方がよさそう。

 

さて、展示内容ですが館所蔵の名だたる近代日本画の作品が長方形の展示室に40点ほど展示されてます。

渡辺省亭の「牡丹」は雪をかぶった藁の中から除く牡丹が美しかった。積もった雪はおそらく色を塗らずに地の色をそのまま生かしてるっぽい。円山応挙の雪松図屏風と同じ手法かな。そしてよく見るとそこにちらちらと降る雪を白い点々で描いてて単眼鏡で見てようやく気づいた!!やっぱり何か一ひねりしてきますね。それが見れただけでも来た甲斐があったなーと思いました。

 

川端龍子の「冨貴盤」(牡丹のことだそう。牡丹の別名が富貴草というのを始めて知りました)はこんな大きな牡丹見たことないっていうくらい迫力ある牡丹でとにかく大きいことはいいことだな川端龍子っぽい華やかな作品でした。

 

金島桂華の作品が比較的多く展示されていたのですがどれもよかったなぁ。「晨光」は鶴と雪をかぶった椿が描かれてるのですが、鶴の脚はかなり細密に描いてるのに対し、椿はむしろフラットな紅色で描かれててその対比が面白かったですね。とてもモダンな印象でした。

 

近代といっても明治初期の橋本雅邦といった狩野派の流れが色濃い作品から、昭和に入るとだいぶ画風も変わってきて平面的な色使いが増えてきて「~派」みたいな区分けではなくなり、それぞれが自分の画風を模索しているのだなぁと思います。系譜としての影響はあれど師弟ではなく学校制度となり絵を発表する場も変わればそうなりますよね。
そしてここに並んでる人たちはなぜ西洋画ではなく日本画を選んで描いてきたのだろう、というのも気になります。近代から現代の日本画の流れはもうちょっとちゃんと追いかけたいなぁ。

 

絵画のほかに硯と墨のコレクションも展示されててお大尽さまの趣味は絵画から入って茶道や書に広がり、そしてそれらの道具へたどり着くのですね。その教養に感服するばかり。天然の石でできて硯なんてものもあり、知らないことばかりだなぁ。

 

そして同時開催で蔦屋重三郎と江戸の戯作者」という特集展示があり、ちょうど映画「HOKUSAI」で蔦屋重三郎曲亭馬琴喜多川歌麿の作品を出版するくだりを見たところだったのでとてもタイムリーでした。

 

吉原のガイドブックとも入れる「吉原細見」は昔の「ぴあ」みたいな感じだったのかなーなんて思いながら興味深く鑑賞。喜多川歌麿が表紙を描いた戯作本もあり、そこからあの美人絵が生まれたのかぁと思いました。

 

洒落本、狂歌黄表紙と様々な作品が並んでましたが今でいう文芸物や漫画雑誌のような感じなんでしょうかね。絵が中心のもの、字の分量が多いもの、当時の世相を皮肉るような作品など多種多様。当時の人たちはこれが後世に残るとは思ってなかっただろうなぁ。何でも取っておくもんです。

 

 あ、どうでもいいけど出品リストがB4サイズだったのがちょっと新鮮というか斬新というか困るというか…。美術館に行くときはA4サイズのクリップボードを持参し出品リスト等を挟んで気になることをメモりながら回るんだけどB4サイズだと合わなくて二つ折にしなきゃならずしかも縦書きだから(これもえ?と思ったけど)勝手が違ってメモが取りづらかった。B4縦書きの美術館初めてかも。いろいろ独特。

 

そしてこの美術館、建物は平安時代寝殿造りをイメージして設計されてるとかでとてもシンプルでコンパクトなんですが庭園がめっちゃ広い!武蔵野の国分寺崖の地形をそのまま生かしてるとのことで高低差がかなりあり鬱蒼とした林になってて遭難するんじゃ…っていうくらい緑が濃い。そして驚くことに古墳があるんですよ。都内にも古墳があるんだ!と驚きました。前方後円墳のような大きなものではないけどちょっとした小高い丘になってて古墳の上に立つことなんてなかったんで貴重な経験でした。すごいなぁ東急さん。

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庭園から見た美術館の建物。言われてみれば寝殿造

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ここ下りてって大丈夫かな?というくらい鬱蒼としてます

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緑を分け入った先にこんもりと建つ古墳

 

前から気になっていたけどなかなか行けずにいた五島美術館

急遽行くことにしましたが展示内容といい美術館の成り立ちや環境も含めてとても面白いところでした。8/28~10/17には「秋の優品展 桃山の華」で本阿弥光悦俵屋宗達下絵の色紙帖(新古今和歌集などの展示もあるようで、これはぜひ行かねば!と思っているところです。

いい時間でした。

 

 

 

 

 

やっと…!国宝「鳥獣戯画のすべて」展 行けました!

「史上初!全4巻全場面、一挙公開!」

 

chojugiga2020.exhibit.jp

 

いやーようやく見れました。


当初の開催期間4月13日~5月30日の予定が4月25日からの緊急事態宣言を受けて休業となり、5月11日にいったん再開のアナウンスがありましたが一転休館。
このまま閉幕してしまうのか…と半ば諦めていたところ、6月20日まで会期を延長するとの告知が!!

 これが出たのが5月21日で緊急事態宣言がいつまでか不明なとき。

恐らく美術館関係者の横の繋がりで都と文化庁の偉い人たちあちこちに相当ネゴネゴしたんでしょうね。

緊急事態宣言延長決定、美術館、映画館は上限を設けた上での営業可能との通達直後にチケット販売再開のアナウンスが出たってことは裏が取れた上でのことだと思うんですよ。じゃないとサイトの修正とか準備とか間に合わないですからね。
ほんとにドタバタだっただろうなぁ。ただただ頭が下がります。

 

そもそも本来は昨年開催する予定だったこの展覧会(おそらく東京オリンピックパラリンピック開催に合わせてだったのでしょう)
コロナ禍で中止となり、このまま企画自体が中止となってもしょうがない中
海外からの貸出品も含めて予定通りの展示内容で1年越しで開催できたことがほんとに素晴らしいです。
いやーお疲れ様ですありがとうございます!!としかいいようがない。

とまぁそんなこんなに思いを馳せながら行ってまいりました。


今回、通常休館日の月曜も開館し、開館時間も20時までと長めに設定されていたりと
多くの人にみてもらえるような工夫をされています。
いや、まぁぶっちゃけ専用の動く歩道まで作って開催してるんでそれくらいやらないと
全然収支が合わないってことなんだと思いますけど(それでもきっと大赤字だろうなぁ…)有難いことです。


前置きが長くなりました。

 

今回は「鳥獣戯画のすべて」と謳っているいるだけあり会場いたるところ鳥獣戯画です。

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お馴染みの平成館入口横の看板

エスカレーター上がってイヤホンガイドを借りたあと、反対側(グッズ売り場側)から第一会場に入ると、まず鳥獣戯画とは、という紹介映像が大きなスクリーンで映しだされてます。ふむふむと眺めたあと、さぁ動く歩道か?と思ったらまぁ焦るなよってことでひとまず住吉家に伝わる模本で肩慣らし。素人が見たら普通にこれが鳥獣戯画かーってなりそう。模本を見ると原典には描かれてない部分があったり順番が違っていたりと鳥獣戯画研究においてはとても重要な意味を持つそうです。後半にも別な模本が登場します。

 

そして次の部屋に入るとテーマパークにあるような待機列用のスロープが見えて、おお!いよいよ動く歩道に乗れるのね!
並んでる間も退屈しないように有名な場面を拡大したパネルがあって音声ガイドで解説してくれたりと様々な工夫がされてて並々ならぬ気合を感じます。そりゃ延長もするわ。

並んだ時間は5分くらいだったでしょうか。いよいよ目の前に流れる歩道が来て足を乗せました!評判通りとても見やすい!自分で歩くよりも速度が一定だし目線を保ったまま見られるのが嬉しい。スピードも適度でじっくり見つつ絵が流れて行くのでめっちゃ楽しい。ナニコレずっと乗ってたい。甲巻は動きの多い場面が多いから尚更流れていくのに向いてるんですね。歩道は右から左に進んでいくのだけど甲巻は高度な創作テクニックを使ってて左から右に進む場面もあるけど、何でこうなってるのかなぁー?あーそういうことね、と種明かしまでの時間がちょうどよくてこれ考えた人天才だなって思いました。すごいアイデアだと思います。途中で横入りされることもないから無駄なストレスもないし素晴らしい!
動いて見ることでより絵の躍動感も感じられてほんと楽しかった。

 

次の部屋には乙、丙、丁が3方に展示されててこちらは自分で歩いて見ます。
乙は動物図鑑的な巻で前半には馬、牛、鷲、犬、鶏など身近な動物、後半には犀(霊亀もしくは玄武)、麒麟などの霊獣や豹、山羊、虎、獅子などの外来の動物、龍、白象(普賢菩薩が乗ってます)、獏などの空想の動物などが描かれてます。後半は中国から渡ってきた書物を見ながら写したのでしょうね。甲巻とは描かれた目的が違うんでしょうね。水墨画や屏風絵でもよく見かけるモチーフですがなんかとぼけた顔してるんですよね。虎もなんだか胴長だし。獅子とか口からなんか出してるし(吠えてる?)こういう表現は日本独自のものかなぁと。

丙巻になると人間登場。実は前半と後半はもともと表裏で描かれてたものを剥がして裏打ちして一枚の絵巻にしたそうで、確かに紙がかなりカスカスです。
別の絵で同じ位置に墨のにじんだあとがあってこれは裏に写っていたからだそう。製作方法も他の巻とは違うとなるとますますどんな目的で描かれたのか気になりますね。

登場する人間tたちは他愛もない遊びをしている場面が多く描かれてて「耳引き」とか紐を耳にかけて引っ張り合う遊びとかでゴムパッチンみたいなもんですかね。昔からあんまりやること変わらないんですね。いや何が楽しい?
後半の動物たちは甲巻と同様に猿や蛙が擬人化されてお祭りしてたり蹴鞠したりしてる様子が描かれてます。筆遣いが違うので作者は違うっぽい。

 

丁巻は人物のみで登場するのも僧侶だったり武士だったり庶民よりももうちょっと位の高そうな人たちが多く登場します。流鏑馬してたり田楽してたり。甲巻の猿の法会の場面を今度は人間がしてたりなど対になるような場面もあります。丁巻の筆致が一番洒脱のような印象ですね。適当に書いてるようで太さの描き分けやスピード感に技術の高さを感じます。力の抜け加減が仙厓さんを思わせました。

 

ここで第一会場終わり。第一会場全部鳥獣戯画のみって贅沢!!いや全巻展示するにはそれだけのスペースが必要ってことですけども。

 

第二会場に進んでもまだ鳥獣戯画は終わらない。何たって鳥獣戯画のすべて」ですから。

続いては鳥獣戯画の断簡(だんかん)と言われるもの。こちらは伝来の過程で本来の巻物から分かれて一場面ごとの掛け軸となったものだそうです。また現存する甲巻には存在しない場面が描かれている模本もあり、断簡と模本合わせて甲巻の全容を解き明かそうというなかなか壮大な試みのコーナーとなっております。これつぎはぎするの大変そう…
断簡が存在するのは甲巻と丁巻の一部のみだそうで、そう考えると甲と丁はセットで移動してたのかなぁと思ったり。MIHO MUSEUM本には酒井抱一の箱書があって、そういや酒井抱一鳥獣戯画っぽい作品描いてたの見たことあるなぁと思ったら図録にも載ってました。だいぶ洒落のめしてますが。

www.tnm.jp

まだまだわからないことが多いのだなぁと思いつつ(図録にも50ページに渡って考察が展開されててこんだけ広く知られてる作品だからこそなのかそれなのにというべきか)最後のコーナーへ。

最後は鳥獣戯画が伝わる京都の高山寺に関連する展示。
高山寺奈良時代に創建されたかなり古いお寺らしく、明恵上人が時代に後鳥羽上皇より寺域を賜り華厳宗の道場として再興したそうです。

 

明恵上人、僧正なので当たり前っちゃ当たり前なんですが、信仰心も篤く夢の記録を残してたり故郷紀州の苅藻島(かるもじま)、鷹島で見つけた二つの石を大事に持っていたとか今の感覚で言うとちょっとイタイ感じなのですがやっぱり修行する人はそのくらいじゃないと悟りを開けないのだろうなぁと思いました。まさに物に心を宿していたんでしょうね。凡人にはできないです。

明恵上人坐像も実際の高山寺のお堂をイメージしたようなスペースに展示されてて素敵でした。穏やかな優しげなお顔なんですが修行のために耳を切ったというエピソードもあり「やっぱり修行する人は違う…」と思いました。坐像の耳も少し形がひしゃげてました。ゴッホのように切り落としてはいないので修行の一環ということなのでしょう。

 

最後に明恵上人が大事にしていたのという子犬像があってこいつがまぁかわいい!円山応挙が描く子犬をフィギュアにしたような可愛さでした。子犬の可愛さは永遠。運慶の息子の湛慶作とのことでしたがこんなかわいい像も作るんですね。筋骨隆々男士の像のイメージでしたが。

 

そんなこんなで鳥獣戯画一点突破の展示会、広いスペースを十分に生かした内容を堪能しました。こういう一つを掘り下げる展示会は忙しくなくてよいですね。ほんと見られて生きてるうちに見られてよかったぁー

 

続けての総合文化展はちょっと駆け足(だいたい時間配分を見誤る)で。

 

鳥獣戯画展に合わせて「博物館で動物めぐり」企画が3月から引き続き開催中。動物モチーフの作品が数多く展示されていました。

 

今回見られてよかったー!という作品は円山応挙の写生帖 (丁帖)です。写生帖は鳥獣戯画と同じく甲乙丙丁あるようですが丁は鳥の巻。もはや図鑑ですね。羽を広げた様子とかどうやってかいたんだろう?押さえつけて描いてたのか死んだ鳥を目の前にして描いてたのか。上から下から斜めからとにかく正確に見たままを忠実に描くを徹底していて、このベースがあるからもふもふの子犬も愛らしく描けるんだろうなぁ。基礎は大事。

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あっち向いたりこっち向いたり


狩野探幽の飛禽走獣図巻 飛禽巻もあり、こちらは図巻といいつつもゆったりと自然の風景の中にいる鳥を描いてて襖絵や掛軸といった作品のお手本になるような作品。力も抜けててとても自然体に描いてて、ほんとはこういう絵を描いてる方が好きだったりするのかなぁと思いました。狩野派の当主ともなると自分の描きたいものだけを描けるわけじゃないですからね。屏風コーナーに展示されてた「士農工商図屏風」のこれぞ狩野派!!みたいな作品も素晴らしいですが依頼された作品じゃないとまた違った趣がありますね。

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タイトルは飛ぶ禽走る獣頭巻ですが作品は優雅

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こちらはザ・狩野派!な屏風絵の一双

あと鳥獣戯画の丁巻の人物造形が仙厓さんみたいと思ってたら仙厓さんの絵が展示されてました!写真撮影NGだったので写真はありませんが、もうとにかく脱力します。なんてダウナーな絵なんだ!大好き。

 

珍しいところでは歌川広重の肉筆画もありました。しかも源氏物語の一場面を描いてて
意外と言っては何ですがこういう絵も描けるんだ(何様)と思いました。
ただ東海道五十三次に比べるとキレイだけどあんまり印象に残らないなぁなんて偉そうなことを思って見たり。(何様×2)
天童藩から依頼されて描いたというだけあって上品な作品になってますね。

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源氏物語図①

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源氏物語図②

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源氏物語図③

 

他にも刀剣コーナーで国宝の粟田口吉光(名物 厚藤四郎)を眺めたり久しぶりのトーハクを楽しんで来ました。毎回時間が足りないトーハク。

再び休館になるような情勢にならないことを願うばかりです。

 

 

古き良き日本の美 渡邊省亭と谷文晁<佐竹本三十六歌仙>

4月25日に東京都に緊急事態宣言が発令され美術館博物館・博物館・映画館・劇場等が軒並み休業となってから1ヶ月。当初は5月11日までの予定でしたが延長され、劇場などは制限付きで再開となりましたが美術館・博物館には東京都から引き続き休業要請が出たため休業中。それでも都や国が運営する美術館以外の比較的小規模の美術館は少しずつ再開され、こちらの齊田記念館も12日より再開されていました。東京藝術大学大学美術館の渡邊省亭展は結局後期展示は公開されないまま終了となったため無念を晴らすべくこちらの渡邊省亭の展示会に滑り込みました。

↓前期に訪問した時の様子はこちら

unatamasan.hatenablog.com

藝大美術館の渡邊省亭展はこちらで堪能しました。解説の古田先生が熱かった!これを踏まえて後期展示見たかったなー。巡回展は無事開催されますように!

 

live.nicovideo.jp

 

 

saita-museum.jp

 

今回の展覧会、齊田記念館では2018年の渡邊省亭没後100年に渡邊省亭・水巴の父子の絵画と俳句をテーマに特別展を開催し大きな反響があったそうで、東京藝術大学大学美術館で渡邊省亭展が開催されるのに合わせて初公開の省亭作品を中心企画。その他谷文晁模写「佐竹本三十六歌仙絵巻」と併せて古き良き日本の美を感じる展覧会となっています。

 

初めましてのこちらの記念館。小田急世田谷代田駅から徒歩9分。環七通り沿いに入口があります。うっかりすると通り過ぎてしまいそう。

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控えめな入口

階段を上ると視界に入ってくるのは立派な門構え。中世から続く齊田家のお屋敷です。

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ザ・お屋敷!

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長ーい塀

並んでる椅子は何のため?と思っていたら入場制限かかったあとの待機列用でした


交通量の多い環七沿いにこんな立派なお屋敷があるんですね。記念館はその手前にこじんまりとありました。ドアを開けてるとチケット売り場があり検温して入室。チケット代が300円というのがアットホーム感がありますね。

 

展示室に入る前の廊下のどんつきにまず最初の展示品「あやめ」があります。驚いたことにガラスなしでむき出し(言い方)で展示されててちょっとドキドキしました。省亭の命日花鳥忌に寄せて製作された色備前牡丹蝶香合が絵の前に添えられていました。省亭が好んで描いた牡丹と蝶をモチーフにした香合なんて洒落のめしてるなぁー。こちらの「あやめ」を初め初公開作品が12点も!芸大美術館の渡邊省亭展にも齊田記念館から出品されてる作品も多く、かなり所蔵されてるのですね。省亭は画壇とは距離を置き、個人客の依頼で作品を制作していたようなので齊田家はかなりいい顧客だったのかもしれないですね。

 

花鳥画」の印象が強い省亭ですが、今回の展示では花鳥画以外の作品も多く点数は少ないですがいろいろな省亭の作風が楽しめる構成でとても充実してました。

省亭が暮らしていた浅草と対岸の向島を行き来する隅田川の渡し舟を季節ごとに描いた「春雨」「雨中渡舟」「雪の渡し舟」は構図がほぼ同じで
春には桜と舞い散る花びらとまっすぐに降る雨を、初夏には萌えるような青い柳に霞がかかりぼんやりと霧雨が降る様を、冬には雪が積もる木の枝と遠く飛び立つ鳥で空の高さを描き分けていて、きっと季節ごとに床の間に飾る掛け軸を架け替えて楽しんでいたのだろうなぁと思いました。秋がまだ見つかってないようなのですがどこかの蔵から発見されないですかねー。

 

変わったところでは十二支の「未」を描いた作品。タイトルは「未」なのですが、十二支の未は日本でいう「羊」ではなく山羊のことだそうで描かれているのも山羊でした。くるんとした角に涼やかな目元、めっちゃイケメン(雄でいいのかな?)な山羊さんで省亭が描く動物はどれも写実的なのですがこの山羊は写実的なだけじゃなくて佇まいに気品とても気品がありました。未年に飾るために制作されたようなのでお正月らしくちょっとよそいきだったのかしらと思って見たり。

今回の展覧会のアイコンにもなっている「重三(さざえ)」は蛤の入った籠に栄螺が並べられてて奥には桃の花が控えめに描かれてます。ということはこちらは雛祭りにちなんだ作品だそう。雛を描かずに「上巳(じょうし)の節句」を表現するという小技の効いた作品。芸大美術館の省亭展にはそのものずばり「雛」という作品があったのですがこちらひな人形を取り出した箱と一緒に描かれてて何か一芸かましますね。というかかましてるわけじゃなくてむしろいかにもーという感じで描くのが好きじゃないんでしょうね。ふとした日常の中にあるものを描いてたんだろうなぁ。そういう意味での写実派なんですね。ちょっとフェルメールを思い出しますね。

 

あと意外だったのが孤高の画家と言われ、画壇と距離を置いていたのであまり他の画家との交流がなさそうに思える省亭でしたが同時代の画家との共作が2点ほどあって全く交流がないわけじゃなかったんだなって思いました。「梅蓮菊蟹図」は村瀬玉田、松本楓湖、小林永濯(えいたく)との共作で省亭は蓮を担当したとのこと。「花鳥図」川端玉章、望月金風、大出東皐(おおいでとうこう)、瀧和亭、荒木寛畝、跡見玉枝、野口小蘋(しょうひん)、村瀬玉田、酒井道一との共作で省亭の担当は雀だったそう。どちらも得意なところを任されたのか自ら進んで描いたのか(この手の共作ってどうやって書く場所とか分けるんでしょうね?)どちらもらしいなーと思いましたがやや自作に比べると控えめなのかなって思いました。

省亭が監修した「美術世界」や「省亭花鳥画譜」などの出版物もかなり保存状態がよく色鮮やかでとてもよかったです。
箱書なども展示されていて大切に所蔵されてきたんだなぁというのが伝わりました。

 

もう一つの展示、谷文晁模写の<佐竹本三十六歌仙絵巻>鎌倉時代に制作された秋田藩・佐竹家に伝わる元は上下2巻からなる絵巻物の写しです。本物は今では各歌人毎に切り離されて掛軸装に改められて様々な美術館や個人所有になっているようです。今回はそのうちの一部が展示されてます。原本見てないのでわかりませんが、こちらの作品はかなり色鮮やか!特に小野小町斎宮女御などの女流歌人十二単衣が赤や緑がくっきりと金の刺繍模様も綺麗に描かれています。解説によると原本はかなり色落ちしているそうなので模写とは言え谷文晁作として見るととても見ごたえのあるものだと思います。いい作品をお持ちなんだなぁ。齊田家。

 

そしてへぇえと思ったのが齊田家は茶畑を所有し製茶業を営んでおりその様子を狩野派の絵師狩野甫信(よしのぶ)が描いた「製茶絵巻」という作品も所蔵されてるそうです。今回はパネルで見るだけでしたが。お金持ちの家に行くと狩野派の作品に出会うあるあるでした。

明治期には日本茶の輸出業も行っており当時の蘭字風ラベルが描かれた日本茶ティーバックも販売されてました。次回展示会は「蘭字―知られざる輸出茶ラベルの世界―」だそうです。これも面白そうだなぁー知らない世界です。

saita-museum.jp

 

美術館全般が通常営業に戻るのはいつになるのかわかりませんが少しずつ行けるところからぼちぼち行こうかなと思います。

こんなニュースもあり

 

あぁー生きてるうちに全4巻見られるときが来るんだろうかと思った身としては嬉しい限りなのですが、緊急事態宣言がさらに延長されるという報道もあり先行きどうなるかわかりません。

bijutsutecho.com

 

こちらの記事にある通り緊急事態宣言が出されている都道府県では各自治体ごとに対応を決めることができるため文化庁がOKといっても都がNGを出せばそちらの要請の方が強いわけです。なので文化庁は声明を出すだけじゃなくて都に美術館の感染対策の在り方を伝えた上でを開館を求める交渉をしてほしいと思います。

 

余談ですが上のインタビューはあらゆる組織における施策を推進するための課題について言及されてて自分の今の仕事と重ね合わせてとても頷ける内容で大変勉強になりました。

 

「ミネアポリス美術館 日本絵画の名品 」展 祈!再開

4/14から始まったサントリー美術館で開催中の「ネアポリス美術館 日本絵画の名品」展

www.suntory.co.jp

ずっと開催を心待ちにしていて、4/25に開かれる予定だった学芸員レクチャーを予約し楽しみにしていたのですが、25日から緊急事態宣言が発令されることが決定。1月の2回目の緊急事態宣言のときには美術館・博物館の営業は制限されなかったのですが今回はどうやら休業要請対象になるとの報道があり、雲行きが怪しくなってきたので慌てて(こんなのばっかり)先週金曜日(4/23)に行ってきました。その時点ではまだ休業は決まっていなかったのですが、翌24日には25日から休業すると発表があったのでギリギリだったなーと。

 

まぁこれは行けたんですけど大物の「鳥獣戯画展」は4月後半に行く予定だったのでもろ被りでアウト。はぁーあ。
美術館に限らず映画館、劇場のきなみCloseとなり1年前と同じ状況に。
くぅううううううううう
この1年何してたん???

 

 

気を取り直して展覧会の内容に入ります。

今回の展覧会は全作品写真撮影OKとなっています。サントリー美術館前回のときもそうでしたね。

 

時代別に水墨画狩野派、やまと絵、琳派、浮世絵、日本の文人画<南画>、画壇の革新者たち、幕末から近代へと室町~明治までの日本美術の大物が並んでます。
それでいて作品数は厳選されているので(入替ありで92点なので前期、後期それぞれ70点くらいの展示数です。
じっくり見てもクラクラしなくて済むくらいの数ですが満足度は十分という構成で
仕事帰りに見るのにちょうどいい規模感なのはありがたいですね。(後期無事開催されますように!!)

 

まず会場入るとすぐに目に入るのが雪村周継の「花鳥図屏風」がお出迎え。
雪村の水墨画は型にはまってない自由な感じがよいんですよね。
海北友松の「江天暮雪図」は小さめの作品だけどはねるように描く撥墨で描かれてて洒脱さがよかったです。
あと初めて見た山田道安という武人画家の「龍虎図屏風」は迫力がありました。言葉はアレですが田舎武将(失礼)に好まれそうな勇壮な作品でした。

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山田道安の「龍虎図屏風」の龍

狩野派からは狩野元信の弟と言われている狩野之信、江戸狩野の地位を確立した狩野探幽、京に残った京狩野から狩野山楽、山雪、そして狩野派の久隅守景の娘清原雪信と少ない点数ながらも代表的な作品が並んでてさすがという感じ。

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清原雪信の「飛天図」美しい



狩野山雪の「群仙図屏風」は楽しみにしていた作品。桃山展で見た「籬に草花図屏風」のそれまでの狩野派とはだいぶ違う幾何学的な構図と花の描き方に一目惚れしたのですが、こちらの作品は仙人の描き方に若干の悪意というか遊び心があって、これはどんな依頼で描かれたものなんだろう?と思いました。奇想の系譜展で見た「寒山拾得」で描いた面妖な顔までいきませんがちょっとそのヘンテコな表情が垣間見えるというか。どこかとぼけてるんですよねー山雪の作品て。江戸狩野とは全く別の道を歩んでるなぁという自由さが楽しいです。
清原雪信の作品が見られたのはよかったです。時代はだいぶ飛びますが上村松園美人画のルーツはこのあたりなのかもと思えるくらい、浮世絵に描かれる美人画とも違う優美さがありました。

  • 第3章 やまと絵ー景物画と物語絵ー

土佐派の土佐光吉作と伝わる源氏物語図「胡蝶」はやまと絵といえば源氏物語というくらいお馴染みの画題。
それはいいとして、絵巻ものによくある擬人化もので今回はきりぎりす。雀や鼠は見ましたがとうとう虫。しかも途中セミの赤ん坊(これはリアル)を抱いてたりと相当シュール。やっぱりモルカ―を作り出す土台はこういうとこにあるのかと思わずにいられない。面白いなー。アメリカ人はどんな気持ちで見てるんだろう。

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よく見えないかもですが真ん中あたりセミを抱えてます



作者不明ですが誰が袖図屏風と武蔵野図屏風は派手渋といった感じで好きだなーと思いました。

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武蔵野図屏風の一双。何か好きでした

琳派 "酒井抱一の「楸(キササゲ)に鷦鷯(ミソサザイ)図」は酒井抱一タッチというような洗練された花鳥図。

キササゲミソサザイも初めて聞く名詞でした。柳の枝のようにぶらんと垂れ下がってるのは豆のような実なんですね。初めて知った。ミソサザイは雀より小さく身体は小さいのに鳴き声が大きいとか。これまたへぇーー知らん事ばかりだ。

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なびいてるのは柳かと思ったら長い実だそうで
  • 第5章 浮世絵

葛飾北斎喜多川歌麿東洲斎写楽などよく知った名前が並んでます。その中で美人画で有名な喜多川歌麿の「画本虫撰(えほんむしえらび)」より「虵(へび)・とかげ」がよかったですね。鱗まで細かく描かれたヘビととかげを見ると美人画でも髪の毛一本にも表情を付けて描き分ける拘りに通じるものがあって当然ながら絵がめちゃくちゃうまいんだなぁと感心します。

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ヘビとトカゲの鱗の描きこみに美人画に通じるものがあります

初めて見た三畠上龍の「舞妓覗き見図」には笑っちゃいました。二幅の掛け軸で片方は風にあおられて着物の裾がめくれて膝下の白い脚が見えてる美しい舞妓の姿、もう片方をその姿を梅の木の後ろにある円窓から目をひん剥いて覗いてるっていういったいどういう画題なの?っていう作品。女性を覗く男衆という構図の作品は数あれど、こんな顔してるのは見たことない。京で活躍した絵師とのことで江戸とはまた好まれる作風が違うのかなぁと思ったりしました。こういうのもコレクションされてるのが面白いですね。

浮世絵コーナーの作品は前期後期で半分ほど入れ替わり。
人気の葛飾北斎の山下白雨や歌川広重の蒲原夜之雪は後期ですね。(無事開催されますように(しつこく言う)

 

  • 第6章 日本の文人画<南画>

南画の中でも細川林谷の「仙台観猟図」「戸隠連峰図」「渋温泉図」は中国の山水画から実際に日本国内を旅して目にした風景を描く真景図が広まった中で生まれた作品で、文人画ならではの趣味人らしい風情がとてもよかったです。職人絵師にはない自由さが魅力的ですね「山水図巻」はのんびりした旅日記風でかわいかった。本業は篆刻家らしいのですが「篆刻」とは?と思ったら印章を作成する人なんだとか。へぇええ。

池大雅の妻、池玉瀾の作品もよかったなぁ。あとは浦上春琴の「春秋山水図屏風」が見事だった!父の浦上玉堂の作品が好きなのですが長男の春琴の作品もいいですね。明るい山水画、という印象で春霞の野山という風情がとても好きで「山笑う」ってこういうことなのかなって思ったりします。「春秋」なので秋も描いてるんですが全体的なトーンが春っぽいんですよね。

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春っぽい浦上春琴の春秋山水図の一双
  • 第7章 画壇の革新者たち

章としては6章のあとにありますが展示順としては4章まで4Fに展示され、3Fの展示会場に入る前の踊り場的な場所に展示されてるのがこちらの章。伊藤若冲、曽我蕭白といった人気絵師の作品が並んでます。特に若冲の「鶏図押絵貼屏風」は水墨画で描かれた表情豊かな鶏の表情が楽しい作品。踊るような羽の動きなど若冲らしさ全開です。
「旭日老松図」は刷毛で勢いよく墨をはねたような松が新鮮。いろいろな技法を実験してたんですかね。と思ったら結構晩年の作らしく、革新者と呼ばれるにふさわしいかもしれません。「叭々鳥図」は岡田美術館にまっさかさまに落ちる姿を描いたの作品がインパクト大ですが、こちらの作品は橋を下からつつく構図で落ちるのとはまた違った味わい。鳥好きか。

曽我蕭白の「群鶴図屏風」は大迫力。波濤に立つ鶴が力強くて笑っちゃう。波の表現は北斎の神奈川沖浪裏に通じるような巻き上がり方でこのあたり北斎は参考にしたりしたのかなぁなんて思ったり。

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曽我蕭白の波と鶴

横山崋山の「蘭亭曲水図屏風」も素晴らしかった。前に東京ステーションギャラリーで見たのですがそれ以外でなかなか目にする機会がなかったので久しぶりに大作が見られて嬉しかったです。

 

  • 第8章 幕末から近代へ

いよいよ最終章。ここはバラエティ豊かでした。河鍋暁斎の「手長足長図」というやたら縦長のふざけてんのかっていう作品やら渡辺省亭の紫式部図は同じ題材の別作品「石山寺」を先日渡辺省亭展で見てきたばかりの美人画などさまざま。

狩野芳崖の「巨鷲図」は劇画調というか、いやこちらが先で劇画がその流れを受け継いでるんですけども、バカボンド風(だから逆)だなぁと思ったり(読んだことはない)。

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劇画タッチの狩野芳崖

会津若松出身の佐竹永海は当地の狩野派の町絵師に手ほどきをうけたとかで展示されてる「風神雷神図」は風神が鷲にさらわれてて雷神は蟹に足を掴まれて海に引きずり込まれそうになってるふざけた作品。狩野探幽もこのような作品を描いてたらしく全国津々浦々狩野派は行きわたってるなぁと思いました。

 

と、まぁ書ききれないくらい見どころばかりな展覧会でした。ふー。

写真もたくさん撮ったのですがたくさんあげるのも無粋なのでかなり間引きました。実物には到底叶いませんし。

 

こちらの展示会のサブタイトルが「あなたの推し絵師きっといる!」なのですが今回の展示作の中にいる私の推し絵師は

狩野山雪
俵屋宗達
酒井抱一
喜多川歌麿

かなあぁー
他にも好きな絵師はたくさんいますが「推し」に限定するとこの4人ですかね。「推し」とは何ぞやという話はまたどこかで(するのか?)。

(個人的に「推し」という言葉は色々思うところあって基本的には使わないのですがただとても便利な言葉なので便宜上使うことは時々あります。)

 

この素晴らしい展覧会がこのまま中止になってしまったらもったいなさすぎる。せっかく海を渡って里帰りした作品たち、ぜひ再開して多くの人が見てほしいなぁと思います。

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美術館のあるミッドタウンの散歩道に掲げられた鯉のぼり。今も元気に泳いでるんだろうなぁ

 

燕子花図屛風と曜変天目

新緑が眩しい季節になるとカキツバタが見たくなりますねー

ということで毎年恒例の根津美術館の「燕子花図屛風」と庭園のカキツバタを4月21日に見に行ってきました。

根津美術館の入館は日時指定制。今日は10:00~11:00の回を予約。早い時間の方が予約が多いらしいですが、それなりに人はいましたが混雑には程遠くゆったりと鑑賞できました。

www.nezu-muse.or.jp

 

今回のテーマは「色彩の誘惑」ということで「燕子花図屏風」に使われている

青と緑と金(黄)の三色が絵画や焼き物でどのような使われ方をしているかといった観点で作品が展示されています。

 

  • 聖なる青・緑・金 

紺紙金泥経は元々藍は防虫の目的で使われていたそうですが、そのうち瑠璃を想起させる色として聖なるものと扱われるようになったそう。通常の和紙に比べて高価な分、保存状態がいいように思います。

この中で印象に残ったのは兜率天曼荼羅南北朝時代)で弥勒菩薩が住む宮殿のような場所を描いたもので保存状態もよく色彩鮮やか。思わず功徳を積みたくなるような作品でした。特に庭園の新緑にも負けないほどの緑青が艶やかで14世紀の仏教画でこんなに緑をたくさん使った絵があるとは知りませんでした。素晴らしかったです。

intojapanwaraku.com

 

他にも明時代に描かれた金碧山水(青緑山水)と呼ばれる山水画は、中国から伝わった絵画というと水墨画の印象だったのですが、山が一面緑に塗られた作品は新鮮でした。江戸時代に入って狩野派狩野山楽が描いた酒呑童子絵巻狩野派にやまと絵の要素を取り入れた~とありますが、明時代から伝わった山水画の影響もあるのかなぁと思ったり。狩野山楽は京狩野なので江戸狩野に比べると作風が自由なのでいろいろな手法を取り入れてたのかな。

 

  • 金屏風に息づく色の伝統

室町時代になると金屏風の技術が発達し、その後江戸時代に入っていよいよ登場するのが燕子花図屏風です。
もう何度目の対面でしょう。覚えてないですが見るたびに見とれますね。潔いまでに金・青・緑しか使っておらず、しかも使い方がこれでもか!!というくらいに厚く塗られててそれでいて大変上品。原料となる藍銅鉱や孔雀石、自然金が展示されてましたが採掘量も多くなく取り出せる顔料も限度があるため今でも大変高価な材料とのこと。それを依頼主が「どんだけつこてもええでー(適当)」と言われたのかわかりませんが、いいとこのぼんはそうなるとけちけちしない。何の躊躇もなく塗り上げた作品は唯一無二のもの。リズミカルな構図と併せて洒落のめしたお金持ちには大変ウケたのでしょうねぇ。お大尽さま。

  • やきものにおける新しい色彩感

こちらのコーナーは陶磁器に描かれた色彩について。現在のベトナム近辺から伝わってきた陶磁器が由来で、実際に白地に藍で模様を描いた肥前焼のお皿と比べるとかなり南方色が強いです。地も全部緑や青で塗られてる陶磁器って日本ではあまり見ないなぁと思いました。

というところで1階のメイン展示は終了。

2階にあがると同時開催のテーマ展示では昭和12年5月に開催された撫子図屏風の茶会を再現した展示がありました。当時配られたメニューがあったり、懐石料理を運んだお重があったりと、燕子花図屏風を飾った和室で茶を立てるって大名遊びの極み。昔の金持ちはすごいねぇ。

他にも 上代錦繍綾羅(きんしゅうりょうら)という6~7世紀ころに日本に伝わった布織物の言うたら端切れみたいなもの。当時の技術や仏教行事を知る貴重なものらしいのですが、ほんとに切れ切れでめちゃくちゃ保管が大変そう。だけど1000年以上も伝わってきてることがすごいなぁと思いました。お大尽は色んなものを集めなさるのね。

 

と展示を見終わったので庭園に。

咲いてましたよーカキツバタ

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一面ではないですが半面くらい咲いてました

今年は暖かくなるのが早く桜を始めとする花の開花が前倒しになってる感がありますが、こちらのカキツバタもいつもより咲き始めたの早いような気がします。と思って写真フォルダを探したら2018年は4月28日、2017年は5月5日、2014年は4月25日に訪問していました。それぞれの咲き具合はこんな感じ。 

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2014年4月25日 まだ咲き始めくらい

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2017年5月5日 満開を少し過ぎたくらい?

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2018年4月28日 ほぼ満開くらいかな

この間スマホを買い替えてるので写真のクオリティがかなり上がりましたね。

 

気持ちよくなったところでさらなる国宝を見に行くぞ!!と次の目的地、静嘉堂文庫美術館へ向かいました。

www.seikado.or.jp

来年2022年に現在の世田谷から丸の内の明治生命館に展示ギャラリーが移転されるため世田谷での最後の展示会となる本展。所蔵する国宝7点を含む名品を「旅立ち」をテーマに展示しています。

国宝7点が一堂に展示されるという滅多にない機会、お目当ては初めての曜変天目!!これまで油滴天目などは見たことあったのですが世界に3点しかない、しかも3点とも日本にあるという曜変天目のうちの一つ!とあれば行かないわけにはいきません。鼻息荒く乗り込みました(大げさ)

  • 旅立ちー出会いと別れの物語

様々な故事成語の出会いと別れにまつわる作品が展示されたコーナー。
国宝その1「 因陀羅筆・楚石梵琦題」はこちらにさらっと展示されてます。ほんとにさらっと。

www.seikado.or.jp

 

印象に残ったのは河鍋暁斎の地獄極楽めぐり図ですかね。
この画帖は、暁斎の大の贔屓だったという日本橋大伝馬町の大店、小間物問屋の勝田五兵衛が、14歳で夭折した娘・田鶴(たつ)を一周忌で供養したいと、暁斎に制作を依頼したもの。娘が極楽往生するまでの旅の様子を、描いた作品でとにかく賑やか。まだ年若い少女が寂しくないようにという心遣いが感じられて楽しくも切ない作品だなぁと思いました。

 

その他の国宝(そればっかり言うなやらしいな)は

趙孟頫筆「与中峰明本尺牘」

www.seikado.or.jp

伝 馬遠筆 風雨山水図

www.seikado.or.jp

 

ここでは邯鄲の夢に登場する枕や邯鄲の夢硯箱など桃源郷を夢見た逸話などにまつわる展示コーナー。景徳鎮の徳利とかお金持ちが所蔵するものってやっぱり茶器とか陶磁器に行きつくのね。

ほぉ、と思ったのが鈴木鵞湖筆 武陵桃源図で、ちょうど直前の根津美術館で見てきた青緑山水画だったのです。鈴木鵞湖といえば2月にいった足立区郷土博物館で「和漢流書図」という二幅の絵で右幅に宋・元時代の中国の画家、左幅に室町時代以降の日本の画家を作風を真似て10コマ描いてる作品で初めて知り、面白い絵師だなぁと思っていた作者。こちらはオリジナル作品ですが堂々たる山水画で技量のある人だったのだなぁと改めて感心しました。

 

  • 名品の旅路ー伝来の物語

そしていよいよお目当ての曜変天目です!どこどこ…と思ったらこちらもほんとーにさりげなく展示されてました。
思っていたより小ぶりでした。イメージとしてはどんぶりよりちょっと小さめくらいのものを想像してたのですがほんとに茶碗でした。(そりゃそうだ)
表面は深い深い青味がかかった黒で覗き込むと瑠璃色の地に舞う無数の玉模様。ふわぁああこれかぁあああ!まさに宇宙だぁ~ってなりました。これで茶は飲めないよねやっぱり。いいもの見させて頂きました。

www.seikado.or.jp

 

他にも俵屋宗達源氏物語関屋澪標図屏風」

www.seikado.or.jp

尾形光琳が影響を受けた俵屋宗達の屏風絵が見られて感動。源氏物語の関屋と澪標の2巻の場面を描いた作品。こちらも国宝です。
誰の依頼で描かれたものかわかりませんが、今できる限りの技術を突っ込んだみたいな画風と構図と色彩が素晴らしいなぁ。

 

手搔包永 太刀 銘 包永

www.seikado.or.jp

いつか刀剣乱舞ONLINEに実装される日は来るのでしょうか…

 

倭漢朗詠抄 太田切

www.seikado.or.jp

と渋めの国宝が並びました。正直、ミーハーな私の知識ではどう見たらよいやらわからない書画については「ふむ…なるほど…」と思うばかりでしたがこういうものはとにかく数見ていくうちにいつか「はっ!!」と思える時が来るのではと(いやちゃんと勉強せえ)と淡い期待を抱きながらしげしげと眺めておりました。

 

世田谷は遠いですが、来てみれば緑が多く閑静で都内とは思えないほどのどかでよい場所なのでちょっとだけ残念ですが、とはいえやはり丸の内に来てくれた方が気軽に行けるのでありがたいです。

 

しかし根津さんといい岩崎さんといい、昔のお金持ちはすごいっすな…

 

そんなことを思いながら帰ってきました。充実の一日でした。

 

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新緑に映える静嘉堂文庫美術館のポスター

 

渡辺省亭 -欧米を魅了した花鳥画-

明治から大正にかけて活躍した渡辺省亭の全貌を明らかにする初めての展覧会です。

展覧会公式Twitterの招待券プレゼント企画で当選し、快晴の日曜日(4/18)に行ってきました。当たらなくても行く予定でしたが、とても嬉しかったです。ありがとうございます。

seitei2021.jp

 

2017年に加島美術ギャラリーで開催された渡辺省亭の特別展で初めて見て、これまで見てきた日本画と異なる作風、かといって西洋画とも違う、派手さはないのだけどとても美しく心に残る作品だなぁと思って以来、気にかけていた渡辺省亭。今回初めての大規模な展覧会ということでとても楽しみにしていました。

 

日本画の作家として初めてパリに行き印象派の画家たちとも直接交流し(ドガに送った絵も今回展示されています)ロンドンで個展が開かれたりと欧米ではよく知られた存在だったのに亡くなってからは最近までほとんど名前も知られず研究も進んでいなかったとのこと。画壇と距離を置き、主要な展覧会にも出品せず個人の顧客の要望に応じて作品を制作していたためと言われてます。


なので大きな屏風絵などの作品は少なく掛け軸など家の床の間に飾るための作品が大半を締めています。そういった背景を知った上で見ると、渡辺省亭の作品は自然界に存在する美しいものを絵の中に収めて慈しみ愛でるために作られているように思えます。


写生に拘った絵師といえば円山応挙ですが、円山派の画風とも違い、そこに鳥がいるかのような柔らかな羽毛の表現や、ほとんど花びらが落ちてしまい花弁すらばらばらとこぼれている花など、その様子も含めて美しいと感じる風景を絵に閉じ込めているようです。雀や鴨が群れ飛ぶ姿もいろいろな向きで重なるように飛んでいたり、野生というほど自然味があるわけではなくどこにでもある日常目にする光景を美しく切り取って作り上げていると思います。
そう考えるとイギリスで人気があるというのも頷けるような気がします。
家の中に芸術を、というウィリアムモリスの考え方にも近いものがあるんじゃないかなぁ。
ちょうど今三菱一号館美術館でコンスタブル展もやってるので比較してみたくなりました。


また出版事業にも力を入れていたとかで当時創刊された高価で大判な「國華」との差別化を計り、自分の好きなもの、紹介したいものを集めた雑誌「美術世界」の編集も行っていてこのあたりは先日の小村雪岱が小説の挿絵や装幀で人気になったことに繋がっているような気がします。画壇との距離の置き方といい、自分の美意識に信念を持ち、美の表現を多方面に広げた先進的な方だったんですね。
明治期以降の日本美術は新しい技術や価値観が入ってきていろいろな広がりを見せましたが、広がりを見せた分、自分の方向性を決めるのが難しい時代になったのかなぁと思いますが渡辺省亭の作品にはあまり迷いが見られず自分流を貫いてるように気がします。だからこそ、日本国内ではなかなか知られなかったのかもしれないですね。

 

気になった作品をいくつか。

 

この作品を含めて龍に乗った観音様を描いた作品が3作品展示されていて、いずれも観音様が伏し目がちというか下を見てるんですよね。まるで龍に「よろしくお願いね」と話しかけてるような微笑みをたたえてて、珍しいなぁと思いました。省亭は母親の影響で観音信仰が強かったらしいのですが、崇めるというよりも身近な存在だったのでしょうか。神々しさの中に優しさがあってなんとも美しい作品でした。しかもこの作品、パリに留学中に家族が世話になったからと義兄の小林武平にお礼に送ったものだとか。贈るものだからこそ、なのか細部まで丁寧に仕上げてあり人柄が伺えるような気がしました。

 

花鳥画の中で、展覧会ポスターになっている「牡丹に蝶の図」は別格としてそれ以外ではこの作品が好きでした。
たんぽぽや土筆が不規則に顔を出している野原に鳩が3羽、その上には枝垂れ桜が7分咲きくらいで咲いている様子が描かれててどこにでもある春の風景を切り取っています。この何でもなさに美しさが凝縮されてて見飽きない1枚でした。

 

無線七宝で帝室技術員となった濤川惣助と渡辺省亭がコンビで手掛けた迎賓館赤坂離宮の「花鳥の間」「小宴の間」に飾られた七宝額の原画コーナー。トーハクでも何度か見たことありますが、まずこれを七宝用に描いたというのに驚くしこれを七宝で制作したのかと思うとびっくり。別のコーナーに七宝の花瓶や皿などが展示されてましたが、工芸品というものの概念が覆る美しさでした。特に藤図花瓶は同時代のもう一人「ナミカワ」並河靖之の藤図花瓶を先日三井記念美術館で見てきたばかりでしたがこちらは有線七宝という金の縁取りを活かした作品。どちらも素晴らしかったですが縁取りがない分、色の塗分けが正確じゃないと美しさが際立たないと思うのでどれだけの釉薬使ったらこの絵が完成するんだろう?とただただびっくり。

 

他にも鏑木清方の箱書きが書かれてる「石山寺」や(清方は渡辺省亭を高く評価していたとか)や西洋画で言うところの裸婦像に近いような「塩谷判官の妻」のような師である菊池容斎に倣った作品も多く展示されてます。描かれる女性の表情は浮世絵の美人画とは違い、写実的でいて、ちょっと理想が入ってるようなそんな美人顔でした。

 

あと海を渡った省亭というコーナーがありアメリカのフリーア美術館に所蔵されている作品のパネルが並べてあるコーナーがあったんですが、ほんとだったら実物が展示されるはずだったのかなーと思いました。想像ですけど。

 


外は新緑がまぶしく、緑の中に置かれた展覧会のポスターの絵がとても自然でした。気持ちよかったー。

後期は自分でチケット買ってまた来ます。

 

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美術館の庭に展示されているパネル