おうちに帰ろう

心茲にありと

ドラマ「昭和元禄落語心中」始まりました

始まるのが楽しみでもあり怖くもあったドラマ「昭和元禄落語心中」が10/12(金)の放送NHKで始まりました。

第一話「約束」です。

www.nhk.or.jp

雲田はるこ先生原作の同名タイトルの人気漫画でアニメ化もされ声優さんたちの演技や落語が絶賛された作品のドラマ化。もうそれだけでハードルが高い作品です。
ドラマ化が発表されたときの驚きはこちら

見ているこちらが過剰に緊張してもしょうがないと思いつつ放送を迎えました。
思った以上にテンポよく刑務所から出てきた与太郎が有楽亭八雲に強引に弟子入りし八雲と養女小夏の父である助六との過去について語り始める原作の与太郎放浪篇がまるまる第一話でした。
原作では最初は与太郎目線で八雲の落語に対する思いや小夏との関係を辿りますがドラマは八雲を軸に八雲と助六、八雲と小夏、八雲と与太郎という関係性で進みます。やはり漫画をそのままドラマにすると収まらないので軸を八雲に据えて構成したからでしょう。

ステラ(10/19号)の雲田はるこ先生のインタビューでドラマ化にあたって内容については
・落語の正確な描写
・着物の美しさ
・江戸弁の心地よさ
この3つを徹底的に守ってくれればあとはご自由にとお伝えしたそうですが
それらの要素は八雲のキャラクターに一番入っている部分なので八雲を中心に組み立てのかなと思いました。

第一話を見て印象に残っているのは雲田先生がおっしゃったこの3つの部分です。

①着物の美しさ
八雲師匠は季節や場面に合わせて
冬と春は紫の羽織にグレーの着物

f:id:unatamasan:20181013180739p:plain

この座り方も腰を落として少し猫背気味なところに年齢を感じさせます


夏は黒の紗の羽織にクリーム色の着物

f:id:unatamasan:20181013180709p:plain

与太郎と着物の質感と着方が全然違いますね

f:id:unatamasan:20181013180925p:plain

この横から見た姿!ツボなんです!襟の抜き加減と背中の曲がり具合が絶妙!

普段使いの綿麻?っぽい格子柄の着物

f:id:unatamasan:20181013181048p:plain

力みはないんだけどしゃんとしててご隠居さん風

浴衣

f:id:unatamasan:20181013181217p:plain

桜とともにお三味線を手入れする姿の美しいこと!このカット入れてくれてありがとうございます

f:id:unatamasan:20181013181318p:plain

原作ではメガネ姿の多い八雲ですがドラマではここだけ。もっとメガネ姿見たいです!

といろいろな組み合わせで楽しませてくれて本当に素敵です。
まだ前座の与太郎とは着物の質も着方も違います。また着方も襟足の抜き方が色っぽくお辞儀をするときの手の揃え方にもほれぼれしました。このあたりは岡田将生くんも拘ったところのようです。

mi-mollet.com


これまで着物の印象があまりなかった岡田くんですが昨年の「銀魂」以来今年に入ってからも舞台「ニンゲン御破算」映画「銀魂2」と昨今着物づいてます。
銀魂」の頃は所作もまだ適当で足さばきもあんまり着物っぽくなかったのですが
「ニンゲン御破算」でも着物の所作や殺陣の練習をした影響もあってから以前に比べると着物での動きがずいぶん自然になったような気がします。
あと、着物以外でも昭和の男性らしいスーツや開襟シャツの着こなしも素敵でした。帽子かぶったりチョッキを着たりと昔の男性はおしゃれでしたねー

f:id:unatamasan:20181013181508p:plain

ちょっぴりかわいらしい帽子姿

f:id:unatamasan:20181013191358j:plain

クラシカルな開襟シャツに黒いスーツ。ステッキさえもおしゃれに見える


②江戸弁の心地よさについて
もともと口跡の良さには定評のある岡田くんですが今回は江戸弁という今まであまり使ったことのない話し方、しかも年齢がかなり上の役ということでどんな感じになるんだろうと思いましたがめちゃくちゃちゃんとしてました。特によかったのは面倒くさそうに気怠く話すところとちょっと早口で啖呵切るところの緩急が好きでした。代表的な「ひ」を「し」というところ(あのひと⇒あのしと)も自然でよかった。

③落語の正確な描写
第一話では合計7つ噺が登場します。
八雲

 品川心中
 死神
 たちきり
 鰍沢

与太郎
 寿限無
 出来心
 たらちね

あくまでドラマの演技の延長線上にあるので登場するのは長くても5分程度、ダイジェスト版です。ですが実際には全て演じられるように稽古されてるそうです。というかそうじゃないと部分的だけ演じるとか無理だと思うんですよね。すごく贅沢な尺の取り方だなぁと思いました。そこまでやって初めてドラマの中で生きるんですね。与太郎の最初は全然ダメダメなところから「出来心」で落語の面白さを掴んだと思ったら稽古不足でまたひどい高座をしてしまうあたりの勢いはあるけどムラもありでもなぜか魅力的という変化もよかったです。八雲の登場シーンで「品川心中」のさわりから入って十八番の「死神」から始まりしっとりとした「たちきり」じっくり聴かせるところからダイナミックに話しが展開する鰍沢と全く違った演目を岡田くんは八雲として演じきっていました。「落語のらの字も知らない」ところから名人八雲として全くタイプの違う話を演じるというのは2重3重の難しさがあったと思います。実際ところどころ岡田くんらしさ(それも落語家の個性として捉えることもできます)が顔を覗かせるところも落語は奥が深いなぁと思いました。死神とか女形の方がやりやすそうで若い男をやるときに地が出ちゃうのでそっちの方がむしろ大変そうな気がします。「たちきり」も「鰍沢」も女形には引き込まれるような色気がありました。(実際にはももっと長く話してるんですよ。こそっ)品川心中もぜひフルバージョンで聴きたいですね。

あと上からは除きましたが「野ざらし」もちょっとだけ出てきました。助六の落語を八雲が再現するシーンで最初は岡田くん演じる八雲から噺が始まり途中から山崎さんの助六に変わります。ちょっとしか映りませんでしたがこの時、岡田くん助六を演じる八雲になっていてお見事でした。もっと見たかったな。この後助六さんと「連弾野ざらし」するようなのでめちゃくちゃ楽しみです。(岡田くんの「野ざらし」もすごくよいのですよ、こそっ

www.nhk.or.jp

 

次に登場人物について。
まず与太郎竜星涼くんが思った以上にハマってましたね。舞台「修羅天魔-髑髏城の7人Season極」での女形から悪役への変貌した迫力のある演技に目を見張りましたがとにかく動きがよいし声もよく出て明るい。バカだけど憎めない与太郎を身体全体使って表現してました。少し大げさなくらいですがそれがちょうど与太郎という昭和の熱い若者にハマっていました。
成海璃子さんの小夏さんは原作よりも優等生っぽかったですね。原作だともう少しすれっからしな感じがあるんですが気は強くて反抗的だけどお嬢さんぽさが残っててこれは八雲とのバランスとみよ吉さんとの違いを出すためかなと思いました。最初に登場したとき縁側で助六のテープを聴きながら「野ざらし」を話しててその時の声がとてもかわいらしくて「声が凛としている」小夏さんの特徴が出てたと思います。

篠井英介の松田さんはちょっと気の毒かなと思いましたが松田さんも若いころから演じなくてはならないのでちょうど間を取って篠井さんだったのでしょうか。割烹着姿が甲斐甲斐しくてとてもサマになってました。さすがです。

今回はちょっとしか出てないのに抜群の印象を残した山崎育三郎さんの助六さん。本番は次回からですがまぁとにかく魅力的。ほんの少しの登場で誰もがホレるよねっていう華を感じさせるところはミュージカルの王子の面目躍如といったところでしょうか。
実際の噺を聞くとほんとに惚れます。素晴らしいです
菊比古が嫉妬に狂うのも無理はないという説得力があります。最初は意外に思えたキャスティングでしたが大正解でした。次回からが楽しみです。

みよ吉さんは次回以降に。

最後に岡田将生くんの八雲師匠。10代も演じられて50代、60代でも美しさと艶っぽさを兼ね備えた人となると彼以外思い浮かびません。10代の菊比古を演じられる人は他にもいるだろうしもっと合ってる俳優さんはいると思います。
だけど50~70代になったときに名人としての風格を出しつつ10代の時と繋がるように不自然にならないように両立させらる人はなかなかいません。
老人に見せるのではなく八雲になることで成立させてるんですね。
リアルにその年齢の人に見せるのはむしろ落語心中の世界から離れてしまうので作品の中に存在している八雲がその年齢だった、というたてつけで演じていてその意味で全く違和感はありませんでした。

あと昭和らしくタバコを吸うシーンがたくさん出てきますがどれも単純にかっこよかったですね、ハイ。

f:id:unatamasan:20181013182432p:plain

ほんの一枚だけ。他にもシブくてかっこいい姿たくさん。さすがハマってます



最後に全体的な感想を

先程のステラのインタビュー内で雲田先生は

芯だけをきれいにくり抜いてシンプルだけど骨太であり落語の魅力も人物の魅力もたっぷり伝わる構成にしてくださったと思っています」
と話されています。
漫画は連載が進む中でキャラクターが少しずつ変わって来たり話を膨らませるために小さなエピソードがこまごまあったりと全巻通すと最初と最後でイメージが変わることもよくありますが
完結しているお話をドラマなり映画なりにするときはどこを切り取ってどこを残すかという作業が必要で結果的に原作よりも濃密な話になることも結構あります。
今回のドラマ版「昭和元禄落語心中」にもそんな印象を持ちました。

原作やアニメが好きな方でドラマの八雲に不満があるとすると軽さが足りないところかなと思います。(エゴサとかしてないのでわかりませんが)抜け感がないというか。
私もそこは感じました。原作の八雲は気難しいけどもう少し軽さがあるんですがドラマの八雲はとにかく偏屈で威圧的です。これは八雲だけじゃなくてドラマ全体が漫画以上に湿度が高く重厚な作りになっていることが大きいのかなと思います。原作の世界観を凝縮して取り出してるのでそれに合わせた八雲の人間像なんだと思います。
与太郎と小夏のやりとりや八雲と与太郎の会話など原作だともう少し軽妙ですがこのあたりの要素を入れてしまうと全体がぼやけてしまうのかもしれません。
第2話目からは八雲と助六編に入りいよいよ天才助六登場なのでもう少し雰囲気が変わりそうです。とにかく明るくて華やかで誰もが魅了される助六さんと八雲になる前の菊比古は繊細で神経質だけどまだ気難しさよりかわいらしさの方が上なのでまた違った趣になりそうでこちらも楽しみです。

 

あと今まで原作やアニメを見ていたときには感じなかったのですが今回ドラマを初めてこのドラマは「家族」のはなし(あれそんな映画のタイトルがどこかに…?)でもあるんだなと思いました。どこか「万引き家族」に通じるというか。

特に八雲が一度破門した与太郎が土下座して「他に行くところがないんです」という姿に自身が親に捨てられて7代目八雲のところに来た姿を重ねたあたり、与太郎助六の穴を埋めるだけじゃない何かを感じていたように見えました。

血の繋がりのない天涯孤独の3人(+松田さんも)が血よりも濃い絆というかもっとドロドロとしたものを抱えて罵りあいながらも離れられずに生きていく姿というのはとても落語っぽいなと思いました。

 

ちょっと長くなってきました。(だからツイッターには感想を上げなかったのですが)

 

他にも気になることはいろいろあるし(特に小夏さんとの関係は最後に向けていろいろ気になります)言い足りないところもあるような気がしますが

まだ第一話なのでこの辺で。(毎回書くかわかりませんけど~)